18 仲直りの約束
「――リグレットさん!」
私は、早足で次の試験に向かうリグレットさんを追いかけ、呼び止めました。
「……何か?」
立ち止まり、私の方を見て、リグレットさんは怒りの視線を向けてきます。
私は、怖くて震えてしまいます。
いえ、リグレットさんが怖いのではありません。
私は……私がこんなにも人を傷つけたのだと思うと、それが怖くて、悲しいのです。
だからこそ、このままは嫌です。
前世のような失敗を、いつまでも続けていたいとは思わないのです。
「ごめんなさいっ!」
私は間髪入れず、リグレットさんに謝ります。頭を深々と下げて、目をぎゅっと瞑って、必死に言葉を続けます。
「私、リグレットさんのことを裏切ってしまいました。目立ちたくなくて……自分勝手なことしか考えて無くて。私、ダメダメなので、多分本当はリグレットさんをどうして怒らせたのかも理解できてないんだと思います。それでも……」
私は、どう言うのが一番いいのか考えます。が、よい言葉は思いつきません。
だから、正直な思いをぶつけることにしました。
「それでも、リグレットさんに嫌われるのはイヤなのです! 悲しいのです。苦しいのです。だからせめて、やってしまったことだけは謝りたくて……本当にごめんなさい!」
私は頭を下げたまま、じっとしていました。
すると――急に、私の頭にぽん、と手が重ねられます。
目を開け、顔を上げると――リグレットさんが、困ったように笑いながら側にいました。
「謝罪の言葉まで、自分本位なのですね、貴女は」
「あっ、えっと、それは……でも、悪いことをしたって思ってるのは本当なのです!」
「大丈夫。分かっていますわ」
リグレットさんは、私の頭を優しく撫でてくれました。
「こちらこそ、少々大人げない態度でしたわね。ファーリにも事情があるでしょうに……申し訳なかったと思っています」
「いえ、そんな! リグレットさんは悪くないです!」
「あら、私がどうして怒っているかも分からないのに、どうしてそんなことが言えますの?」
「あう……」
つん、とリグレットさんの指が私の額を突きます。言い方も責めるようではなく、むしろからかっているような調子に聞こえました。
許して、貰えたのでしょうか。
「……次は、魔法実技ですわね。ファーリ、許してほしければ、次の試験こそ本気を出しなさい」
「えっ、でもそれをすると……」
「魔法実技は屋内の試験です。外からは見えません。そして私とファーリは最後の2人。他の受験者を相手に目立つことはありませんわ」
リグレットさんは言いながら、私の頭を撫でます。
「無理はもう言いませんわ。ですが、そんなにわたくしと仲良くなりたいのでしたら、一度ぐらいは本気を出してみせることですわね」
そう言って、リグレットさんは離れていきます。1人で先に、魔法実技試験を受けに向かったのでしょう。
私は、なんとも言えない不思議な気持ちに包まれていました。
リグレットさんの言葉をそのまま受け取るならば、私はまだ許してもらっていません。
でも――それでも、私は不思議と悲しく思いませんでした。
きっとリグレットさんはまだ、怒っているはずです。
なのに、それをあまり悪いことのように感じません。
今までに、感じたことのない気分です。
しばらく私は、ぼうっと突っ立っていました。
けれどやがて気を取り直して――魔法実技の試験を受けに向かいました。




