21 強制呪術
この世界、ファンタズムは全ての存在がコードというもので定義されています。
それは戦闘という行為も例外ではありません。
戦闘中は、戦闘中というコードがその場で実行されているのです。
これにより、戦闘中だけ使えるコードというものが存在します。
逆を言えば、非戦闘時は使えないコードというものがあるということにもなります。
この『非戦闘時には使えないコード』という穴を突いて、相手の耐性を貫こうというのが強制呪術のコンセプトです
まず、自分のライフをゼロにします。
すると、ファンタズムという世界は戦闘が終了したと『誤解』します。
これにより、戦闘中であるというコードが実行されず……状況は非戦闘時に移行します。
すると、例えば相手がコード強制耐性に戦闘中でのみ使えるコードを使っている場合、耐性が機能しなくなってしまいます。
後はマーキングで即死をコード強制すれば相手は死にます。
相手を倒したら、自分のライフを元に戻して、全ての処理は完了です。
まあ、ざっくりと言えば、自分でライフをゼロにして戦闘を終わらせると、相手のガードが緩くなって即死が通る、という感じですね。
ちなみに、なぜこの技術が強制呪術と呼ぶのかについてですが、元々非戦闘時のまま相手にダメージを与える技術が呪術と呼ばれているのです。
自殺して強制的に戦闘を終わらせ、呪術を実行するので『強制呪術』というわけです。
――とまあ、そんな技術をお姉さまに教えたわけなのですが。
「……さすがに、戦闘中に自分のライフをゼロにするのは勇気がいるね」
お姉さまは、冷や汗を流しながらそんなことをつぶやきます。
ちなみに、こうしている間にもフォノンさんとの戦闘は続いていますが、戦いはレリック魔法で生み出された血の人形たちが行っているのです。
なので、私とお姉さまは余裕を持って会話をすることが出来ています。
「大丈夫なのです、お姉さま。ちゃんと後で自分のレリック魔法で回復すれば、ライフがゼロになってもすぐ復活できますから」
レリック魔法は、自立行動が出来ます。
それはライフがゼロに、つまり戦闘不能になってからも同じで、魔法の継続時間が許す限り、術者の生死に関わらず実行されます。
なので強制呪術でライフをゼロにした後は、レリック魔法でライフを回復すれば問題無いのです。
「……まあ、何かあればファーリが助けてくれると信じるよ」
お姉さまは、ついに決意したようです。
強制呪術を発動させます。
まず、お姉さまは自分の腕を傷つけます。
そして腕から流れ落ちた血が地面を這いずり――魔法陣を描き出します。
血の魔法陣は赤い輝きを放ち、同時に幾つかのレリック魔法が実行されます。
一つは、自分のライフをゼロにする為のレリック魔法。
これとセットで、自分のライフを後で回復するレリック魔法も発動しています。
さらにもう一つ、自分が戦闘不能になった後、敵であるフォノンさんにコード強制を仕掛ける為のレリック魔法です。
これらを同時に使うことで、強制呪術は発動します。
「――ぐっ!」
次の瞬間、お姉さまはライフがゼロになって倒れ込みます。
これだけなら、単なる自殺。
しかし、これは強制呪術ですから、当然終わりではありません。
「な、何が……っ?」
突如として、自分のライフがゼロになったフォノンさん。
何が起こったのかを理解する間も無く、戦闘不能になって意識を失い、倒れます。
そして――最後に、お姉さまのライフを回復するレリック魔法が発動。
お姉さまを赤い光が包み込み、ライフが元に戻ります。
すぐにお姉さまは意識を取り戻し、起き上がります。
「……確かに、大丈夫だったみたいだね」
お姉さまは困惑しながら、そんなことをつぶやきます。
「はは。目が覚めたら敵が倒れていた、なんて滅多に出来る経験じゃないな」
確かに、強制呪術での勝利はなんとも奇妙な光景になりますからね。
勝ったという実感が沸かないのかもしれません。
とはいえ、フォノンさんが戦闘不能なのは事実。
お姉さまの勝利なのです。
「――では、お姉さま。勝てたことですし、そろそろ議事堂跡の方へと戻りましょう」
「ああ、分かったよ。ついでに、道中では色々と説明してもらえるんだろうね?」
「はい。到着までに、一通り説明するのです」
そんな会話をしながら、私とお姉さまはその場を後にするのでした。




