20 クエラへの助力
場所は変わって、今度はお姉さまのところです。
フォノンさんとお姉さまの勝負は拮抗していました。
お姉さまの即死技術は基本的にレリック魔法を使う相手でなければ通りません。
そしてフォノンさんはレリック魔法を一切使いません。
結果として、二人は素の戦闘力で殴り合う結果となっています。
お互いに攻撃を通しているようですが、どれも決定打にはなっていません。
フォノンさんの攻撃はお姉さまの吸血鬼としての回復力の前には大した意味を持ちません。
一方でお姉さまは――フォノンさんに攻撃を当てると、そのままマーキングを実行します。
そしてコード強制で即死や小ダメージの継続付与、言わば毒状態の付与を行っています。
しかしフォノンさんはコード強制によるライフへの干渉には耐性があるらしく、ダメージが通りません。
結果、お姉さまが直接殴ることで与えた僅かなダメージだけが蓄積されています。
ですがこれも、フォノンさんが治癒魔法なり何なりを使えばすぐに取り返すことが可能なアドバンテージに過ぎません。
つまり二人とも、勝ち筋が無い状態で戦いが続いています。
そして既に私が予想していた通り、お姉さまのほうが集中力が切れるのが早いみたいです。
フォノンさんと比べて、ミスや判断の遅れが目立つようになってきました。
このままいくと、長期戦の末にお姉さまが負けてしまいそうです。
それは――良くありません。
なので、戦闘に介入することにしました。
「お姉さまっ!」
私は言って――突如フォノンさんへと斬りかかります。
お久しぶりに登場する武器、エクスコルドです。
「っ!? 何時の間に!」
フォノンさんはこれを容易く回避。
まあ、こちらも当てるつもりのない牽制でしたからね。
当然の結果なのです。
「……ファーリ、なのかい?」
「はい、そうなのです」
お姉さまに、私は頷いて答えます。
これまでと同様、私は外見だけは普段通り。髪が銀髪で、瞳は血色の赤。
そしてアンネちゃんの時と同様、身体特徴にも一部変化があります。
頭には小さな二本の角、口には普段の二倍くらい長い犬歯。
正に、お姉さまと同じ特徴なのです。
「色々と事情はあるのですが、今はそっちの説明をしている場合ではないのです。お姉さまが不利に見えたので、助けに入りました」
「――そうか。ありがとう、ファーリ」
お姉さまは言って、笑みを零します。
実際、苦境にあったことを自分でも理解しているのでしょう。
安堵が表情から見て取れます。
「ところでお姉さま。マーキングを利用した、新しい即死技術を覚えてみる気はありませんか?」
「ふむ。新しい即死技術かい?」
「はい。恐らく、それを使えばフォノンさんは倒せるはずなのです」
「なら、是非教えてほしいな」
私が言うやいなや、お姉さまはすぐに返事をしました。
勝ちたい、というお姉さまの気持ちの現れでしょう。
「では、さっそくお伝えします。お姉さまも得意な、マーキングを利用した即死技術――その名も『強制呪術』の使い方を」
そうして、私はリグにやった時と同じように――お姉さまに抱きついて、新たな技術のコードを直接習得してもらいます。
すぐにお姉さまは使い方を理解して……少し、渋い顔をしました。
「……本当に、こんな方法で勝てるのかい?」
「はい、勝てます。信じてほしいのです」
どうやら、お姉さまにとっては意外な技術だったようですね。
まあ、仕方ないのです。
だってこの即死技術――最初に、自分が死ぬ必要があるのですから。




