17 リグレット、気付く
舞台から降りると、リグレットさんが待っていました。
それも、ぶすっと膨れ顔で。
何か不機嫌な様子です。
「……わたくしの勝ち、ですわね」
どこか、納得のいっていない様子。
「あはは、負けちゃったのです。頑張ったのですが、疲れちゃって13体目の時はもうバテバテで、上手く戦えなかったのです」
「汗一つ流さず、よくそんなことが言えますわね」
あっ。
失念していました。
恐らく、遠目に見ていた人には気付かれていないはずですが……リグレットさんは、私の目の前にいます。
汗ばむどころか、身体が熱くなった様子さえない私の頬などを見て、きっと手抜きを見抜いたのでしょう。
「……そこまでして目立ちたくないというのなら、わたくしは本気を出せとは言いませんわ。ですが、これだけは言わせて頂きます」
すぅ、っと息を吸い、リグレットさんは言い放ちます。
「侮辱された気分で、心外ですわ。貴女には、心底失望しました!」
そして、リグレットさんはスタスタと私から離れていきます。
私は、リグレットさんの言葉に打ちのめされていました。
失望した、と言われてしまいました。
私は、リグレットさんの期待を裏切ったのです。
途端に――私の頭には、前世の記憶が蘇ってきます。
私がまだファーリでなく、南条雪穂であったころ。
私は空気が読めず、自己中心的で。物事の考え方も人とズレていたことから、人と衝突することはよくありました。
それ自体は、当時の私も仕方ないことだ、と割り切っていました。
ですが――たまに、私はやらかしてしまいます。
他人ではなく、大切な友人に対しても、同じようなことをしてしまうことがありました。
一番古い記憶は、小学生ぐらいの頃です。
当時、男子の間ではやっていたカードゲームがあります。
そして、当時の私はカードゲームではなく、カードそのものが好きで、プレイもしないのにたくさんカードを集めていました。
そんな時、クラスメイトがカードが欲しい、と言ってきました。
私は快く、ダブっているカードは次々とプレゼントしました。
そして、引き換えに私が持っていないカードを貰うことになりました。
良いことだ、と思っていました。お互いにほしいものが手に入って、お得な話だな、と思っていたのです。
けれど――実際は違いました。
私がカードの交換をしていたのは、クラスのガキ大将的な子でした。
そして、その子はカードゲームで勝つと、暴力にものを言わせて珍しいカードを無理やり取り上げていたのです。
そして、私がカード交換で貰っていたカードが、まさにそのカードでした。
つまり私は、ガキ大将の子から間接的に、みんなの大切なカードを巻き上げていたのです。
しかも、私がガキ大将に渡していたのは強いカードばかり。当然、ガキ大将ばかりが強くなっていきます。
気付くと、私はクラスの男子全員から恨まれていました。
――いえ、ここまでは、仕方なかったとも言えます。
そして、うまくやれば信用を取り戻すこともできたでしょう。
ですが、私はとても嫌な子でした。
ある日、クラスの男子の1人が私につっかかってきました。
この時、私はようやく自分がしていたことに気付きました。
ガキ大将を通じて、みんなのカードを巻き上げていたと自覚できました。
でも……私は、それを受け止めることが出来ませんでした。
私は言い訳をして、カードを奪ったのは自分ではない。自分は交換してもらっただけだ、というようなことを言い返してしまったのです。
正直に、みんなにカードを返してあげたら良かったのに。
当時の私は、それができませんでした。
しかも、私はみんなが何に怒っているのかさえ理解できていませんでした。
私は、ガキ大将にカードゲームで負けるのが嫌なのだ、と勘違いしていました。
実際は、大切なカードが取られるのが嫌だったのでしょう。でも、私はそこに気づきませんでした。
だから――私は、強いカードをあげる、などと言って、みんなのカードを返すことを拒否してしまったのです。
それ以来、私のまわりに人が近づかなくなりました。
イジメというわけではありません。
ただ――仲の良かった友達も、私と口も聞いてくれなくなったのです。
前世の私は、そういう失敗を何度も、嫌というほど繰り返しました。
分かっています。それは私が悪いのです。
ですが、友達を失う、信用を裏切るというのが、どんなに悲しいことか。
それを、私は身に沁みて分かっています。
だからこそ、リグレットさんの言葉は私の心を揺さぶりました。
お友達になれるかもしれなかったのに。
私はまた、自分の都合だけで、誰かの心を無視して、突っ走ってしまったのかもしれません。
それが、とても嫌で、嫌でたまりませんでした。
私は慌てて、リグレットさんを追いかけます。




