13 サーチの悲劇
「次! 308番!」
「は、はいっ!」
いよいよ、私の番です。試験官に呼ばれ、私は前に歩いていきます。
3人の試験官が、みんなちょっと笑いそうになっています。
ああ、子供だからですね。こんな子供がステータスの脚切りを免れるとは思えないからですね。
ええ、そうでしょうとも。普通ならそれで試験に落ちるのです。
むしろ、それぐらいで済むならそれでよかったとも思えます。
これから、私がどれだけ目立ってしまうかを考えると……ああ、憂鬱です。
「では、試験を開始する。ステータスを見た上で、いくつか質問をしていく。正直に答えるように」
「はいです!」
私は緊張のあまり、びしっと直立不動の姿勢になります。
そしていよいよ、サーチされます。
試験官の皆さんの前に、サーチ結果の映像が浮かびます。
サーチした者以外には、もやっとした光にしか見えません。情報を秘密にする為の工夫でしょう。
サーチ結果を見た試験官の3人は……みるみるうちに、表情を変えていきます。
驚きというか、青ざめてるというか。なんだかとんでもないものを見たような顔をしているのです。
「……おい、そっちもまさか、その、適性がアレなのか?」
「はい。こっちでも適性が……というか耐性も」
「私もです。こんなの、おとぎ話でも聞いたことないですよ……」
はーい、バレました~。
私の全属性適性、耐性が見事に筒抜けです。
こんなの目立つに決まってます。
「他の教員も呼んでこよう。その上で、協力してサーチをかける。情報に間違いが無いか精査するんだ」
「分かりました!」
試験官のひとりが走ってどこかへ行ってしまいます。
しばらくすると、大人の女性がぞろぞろと私のまわりに集まってきます。どうやら、ハンター学園の教員の方々のようです。
「本当なのでしょうね」
「もちろんです! ……いえ、信じられないのはわかりますが。3人のサーチ結果が一致しています。何らかの手段による虚偽とは思えません」
「まあ、いいでしょう。サーチを使える者全員で協力して、精度の高いサーチを行います」
言葉通り、10人の女性が私を取り囲み、そしてサーチを発動しました。
今度はこの場の全員が数値を見るために、ステータスは全く隠されていません。
え?
隠されてない?
それって……受験者の皆さんにもステータスがバレちゃうじゃないですか!
案の定、近くを通った受験者がぎょっとした顔をして足を止めます。
次々と人集りが出来ていきます。
というか……その中に、リグレットさんの姿もありました。
ものすごく鋭い目つきで、私のことを睨んでいます。
ああ……これは、なんだか分かりませんが、怒っていますね。
リグレットさんに嫌われてしまったのでしょう……せっかく、お友達になれそうだったのに。
「よし、サーチ結果に嘘は無さそうだな……受験者、ファーリ。質問を始めます。正直に全て答えなさい」
「は、はい……」
試験官の1人が仕事をこなし始めます。
私はすっかり、リグレットさんのことが気になって気持ちが滅入ってしまっていました。しかも超目立っています。二重で憂鬱です。
「高い攻撃力と魔法力を持っているようだが……魔法力はその、才能として。他のステータスは君のような子供のものとは思えない。何か特別な訓練を受けているのか?」
「えっと、パパと一緒に訓練を」
答えると、辺りからざわざわ声が響きます。
どおりで……ダズエル家の子爵令嬢様ですものね、などと。
ああ、そうでした。名前もフルネームで開示されるのです。
せめて、受験者の野次馬さんの中に貴族社会に詳しい人がいないことを祈りましょう。
……まあ、ほぼ無理なことでしょうけど。
「ふむ……それで、その、技能の部分だが。君の年齢で剣術がBというのも信じられないのだが、それ以上にストレージだ。Sなど見たことが無い」
でしょうね。
カミさまのやりすぎ優遇が無ければ、私だって見ることが無かったでしょうから。
「普通のストレージ使いはFだ。Cもあれば世界トップクラスのストレージ使いとも言われている。だがSとは……なんだ、想像もつかないのだが、どれぐらいの容量があるのだ」
「えっと、その……使ったことがないので分かりません」
「ストレージ使用経験が無いと? それでSだと?」
「あっ、えっと、少しはあるんですけど、ストレージが満タンになったことが無いので」
ざわっ、と騒ぎが広がります。
「ふ、ふむ……それで、最後の質問だが、魔法は、その、使えるのか? 実際に全属性を」
「えっと……魔法は無属性魔法しか使ったことがないのです」
大嘘です。せめてもの抵抗です。ちょっとでも騒ぎを沈めたくて、自分を控えめに評価してみせたのです。
しかし、逆効果でした。
「魔法の使用経験無しでC。しかも全属性……」
試験官さんも驚きで呆然としているようでした。
「――ああ、いや、そうだな。これで質問は終わりだ。ステータスは合格だ。いくら才能があるといっても、他の試験で落第になる可能性もある。心して試験に挑むように」
「はい、わかったのです」
ようやく、私はサーチ試験から開放されます。
サーチ魔法が消えると、野次馬も教員や試験官の人に促され、自分の試験を受ける為に解散していきました。
そんな中、1人だけいつまでも私を睨んでいる人がいます。
私は、意を決して声をかけました。
「――あの、リグレットさん!」




