16 ファーリ VS ジョージ
「いやはや……護衛だけでなく、内通者まで見抜いてしまわれる力をお持ちとは。ファーリ君は真に優秀なハンターでございますな」
私とリグの話を聞いて、ジョージさんは本当に起源良さそうに言います。
私はつい、ムッとした表情でジョージさんを睨んでしまいます。
……ぶっちゃけ、悪いケモナーであるジョージさんのことはまだ信用できません。
しかも私を『山帰り』呼ばわりして、あげく子供扱いしています!
いえ実際に子供ですから本当なら怒るところではないのですけれど……最初に悪いケモナーという減点があるせいで、どうも何をされても癪に障ってしまいます。
「何か、不快なことを言ってしまいましたか?」
ジョージさんは私に睨まれる理由が分からないようで、そう問いかけてきます。
「いえ……ただ、ジョージさんが純粋な獣人以外の獣人を良く思っていないと聞いて、あまり仲良くなれなさそうだな、と思ったのです」
「ほほう?」
私がつい漏らしてしまった本音に、ジョージさんは目をキランと光らせて反応します。
「つまりファーリ君は、アンネのような半獣人の女が好みである、ということですかな?」
「えっと、まあ……そうですね。アンネちゃんみたいな女の子なら好きなのです」
「そして仲良くなれないというのは、自分が好きなものに対して差別的な人物とは親しくなれないという意味ですな?」
「そうなります」
「ふむ……しかし、それは仕方ないことなのでございます」
ジョージさんは目つきをギラつかせながら、私に語りかけてきます。
「儂は純粋な獣人を愛してやみませぬ。気高い顔立ち、人とは異なる骨格が織りなす肉体の造形美。そして肉体が異なる為に生まれる些細な仕草の違い。それらにたまらぬ美術的な感動を覚えてしまうのですよ。そして、そういった美しさは、純粋な獣人でなければ存在しない。半獣人は人に近く、骨格や仕草も人と見紛うほどでございます。故に儂の美意識には反応せんのです」
「なるほど、ジョージさんの萌えはそこにありましたか……」
私はジョージさんが獣人にこだわる理由を聞き、1つ納得します。
確かに骨格が重要というのであれば、半獣人ではダメでしょう。人間に近い肉体を持つ以上、獣人の骨格とは似ても似つきません。
「ですが、それでも半獣人を差別する理由にはならないのです。獣人を……ケモを愛する心は千差万別で当然。百人いれば百種類の愛が存在するのです!」
「ふむ、それは確かに納得の行く道理でごさいますな」
「であれば、他人の愛するものを卑しく言うのは愚かという他ないのです! 自分にとっての萌えを妨げるような存在であっても、他の誰かにとっては萌えそのもの。他人の愛の形を否定することは、翻って自らの愛の形も否定されうると宣言するようなものなのです! 愛するケモ、獣人という美の結晶を卑下するというのはあまりにも愚かとしか言えないのです!」
私はビシッと指をジョージさんの方へと向けて言い放ちます。
ジョージさんは顎を撫でながら、難しい表情をして頷きます。
「ううむ、なるほど。幾多の愛の形の1つを否定することは、その幾多の愛の形の一部に過ぎない自らの愛が否定される未来を示唆する、と。因果応報とも異なる考えですな。儂が他人の愛を否定的に定義することで、儂の愛もまた否定されうる『未熟な』愛であると即座に定義され、完全な状態から価値を下げる。故に因果が巡るまでもなく、儂の言葉がそのまま儂の愛を卑下しておる、と……全く、幼い外見に騙されるところでしたぞ。まるで宣教師のように良く出来た理屈ですな。あっぱれと言わざるを得ませぬ」
感心したような言い方をしながら、けれどジョージさんは渋い顔をしたままです。
「しかし――儂はファーリ君の理屈には同意できませんな」
「なぜなのです! 萌えは……愛は何を自分が語るかによって簡単に価値を変えてしまいます! なのにどうして、ジョージさんは他人の愛を否定するのです!」
「それは単純明快な話でございます。愛は――人の持ちうる愛情というものは有限だからに過ぎませぬ」
ジョージさんの言葉に、私はピクリと反応します。
愛は有限、という考えは正に……私がお姉さまとリグの2人共を愛すると誓った時に悩んだ問題です。
「儂が愛するのは象徴としての獣人ではなく、実在の獣人女の肉体なのですよ。そして獣人の肉体を愛するためには、儂にもコストがかかる。精神的にも、肉体的にも……金銭的にもでありますな。それらは限られた量しか人は持ちえず、それを限られた存在に分配することでしか愛という現象は存在しえないのでございます」
「……確かに、私もそれは同意できるのです」
何しろ、私がこの間までお姉さまに対して悩んでいた問題そのものなのですから。
なんだろう……これ?
ファーリとジョージさんに萌えの論争をしてもらった結果、思ったよりも白熱してしまいました。てへぺろっ!
まあ萌えの道は奥深いので仕方ないよね!




