07 ファーリ、宿をとる
ハンターギルドでの収入は、金貨5枚と銀貨8枚でした。
金貨1枚は銀貨10枚。銀貨1枚は銅貨10枚。そして銅貨の下に小銅貨。小銅貨10枚が銅貨1枚です。
前世の価値観とこちらの物価を照らし合わせると、ちょうど小銅貨が10円と同じぐらいの価値を持ちます。というのも、安い駄菓子は小銅貨1枚で買えるからです。
10円チョコの存在などを思い出すと、小銅貨の価値はおよそ10円と考えていいでしょう。
そうなると、銅貨は100円。銀貨は1000円。金貨は1万円相当の価値になります。
それを考えると、今回の収入は5万6000円。旅路は予定より早く終わり、4日で王都に到着しました。つまり日当は1万4000円。
まあ、バイトと思えば妥当な額です。
それに、積極的にモンスターを狩ったわけでもありませんし、本当に高価な素材は手に入っていません。
生活費も自分で稼がねばならないのです。これからは稼ぎの方法と、節約についてよく考えねばなりません。
まあ、前世の記憶があるのでこれは大丈夫でしょう。
今世は貴族の娘ですが、前世は貧乏大学生だったのです。節約生活はさほど苦でもありません。
で、現在。
私は4日後に行われる、ハンター学園入学試験の日まで、宿でごろごろすることに決めました。
適当に安宿を探してみたところ、三食付きで銀貨6枚というところを見つけました。4日間で金貨2枚と銀貨4枚。今の手持ちであれば余裕の金額です。
王都近辺でモンスターを狩り、金銭を集めようとも思ったのですが、さすがに10歳の女の子が狩りをするのは目立ちすぎます。
それに『お使い』でギルドに向かった昨日の今日でまた素材を売りに行くのも不審です。
そうそう何度も『お使い』に行くわけにもいきません。
そういった活動は、ハンター学園に入学してからすることにします。
ハンター学園の生徒であれば、狩りをしても普通のことです。
友達と狩りをして、それを代表して換金している設定でいけば、多少稼ぎすぎても言い訳が立ちます。
「――お~い、ユッキーや~い」
ふと、私は耳元に聞こえた声に気づき、顔を向けます。
「どうしたのですカミさま」
宿のベッドでくつろいでいるところ、カミさまが姿を現したのです。
部屋の中であれば目立ちませんし、まあよいでしょう。
「この部屋、個室のお風呂がついてるよ!」
「はあ、そうですね」
設備は既に確認してあります。安宿にしては手入れの行き届いた浴槽でした。旅の疲れを癒やすためにも、後で入ろうと思っていたところです。
「一緒に入ろうよ!」
「は?」
私はお仕置き棒を構えます。カミさまもお仕置き棒を警戒し、バッと私から離れて身構えます。
「カミさまは変態ですか? それとも、お仕置きされたい方の変態ですか?」
「いいじゃん女同士なんだしさ~肉体的には」
「私、前世は男でしたし……それに、ファンタズムでは同性愛は『普通』なのですよ?」
「まあ、そうなってるねぇ」
「だったらダメに決まってるのです!!!」
そうです。
このファンタズムという世界、女性が人口の95%を占めます。
前世の感覚で言えば子孫を残せない危ない状況にも思えますが、実際は違います。
ファンタズムでは、女性同士の性交渉でも妊娠できてしまうのです。
ただし、確率は異性の性交渉より著しく低くなります。
なので、女性ばかりの世界でもちゃんと子孫を残していけるのです。
……と、そっちの話題ではなく。
とにかくファンタズムはそういう世界ですから、同性愛も普通です。
そして、女性が女性に裸を見せるのは、前世でいう異性同士のそれと同等に恥ずかしいことなのです。
「でもさ、ユッキー。私は神だから、性別とかそういう問題は大したことないわけだよ。そして、ユッキーも前世の価値観で言えば、女性同士でお風呂というのはそこまでおかしい話でもないわけだよね?」
「いや、前世の価値観でも公衆浴場以外でなら異常なことだと思うのですが」
「まあまあ♪ そしてユッキーの前世の価値観、そして今世の価値観から言うと、女性の裸というのは性的な意味で魅力のあるものなわけだよ。つまり、大した問題じゃないし、せっかくなんだから見れるものは見といた方がいいと思うんだよね?」
カミさまは、笑顔で私を勧誘します。
「というわけで、お風呂、いこ?」
「ダメです」
お仕置き棒の刑、執行の瞬間でした。




