06 クエラのこと
私たちは大衆食堂での食事を終えた後、また会った時は仲良くしましょう、などとエリスとお話をして、それぞれ別れました。
4人で寮に帰ってきた後は、もう食事も済ませていたので、食堂にも行かず、部屋でごろごろすることとなります。
当然――私とリグは恋人同士なので、2人で部屋にごろごろする、ともなればしたいことがいっぱいあります。
お互いの手を、身体を、肌を触りあっていくうちに、自然を服を脱いでいました。
気づくと、私とリグは一糸まとわぬ姿で、ベッドの中に横たわっていました。
ここ最近は、こうした光景は毎日のこととなっていました。
と言いますか……毎夜ごと、私とリグは肌を重ね、互いの愛を確かめ合う行為に及んでいます。
当然、今日もそうなるだろうと私は考えていました。
が、不意を突くようなリグの言葉で、行為を中断することになりました。
「ねえ、ファーリ。ずっと訊きたかったのですけれど……貴女、クエラさんのことはどうしますの?」
それを言われた途端、私の身体に緊張が走ります。
実は、お姉さまが私のことを好きだと言った話については……リグとアンネちゃんも既に知っています。
というのも、私が話したわけではありません。
お姉さまが、自ら申告したのです。
そして、お姉さまが私とそういう関係になることを望んでいたことや、今はリグに負けたことを認め、おとなしく姉という立場でありつづけることなどを話しました。
なので……リグは、お姉さまが私に対して、恋愛感情を抱いていることを知っているわけです。
その上で、どうしますの? と訊かれてしまいました。
「そう言われても……私には、リグがいるのです。お姉さまを選ぶことはできないのです。それに私、みんなと一緒にいる毎日が大好きなのです。だからお姉さまに距離を置かれるのは嫌です。お姉さまがお姉さまでいてくれるなら、それが一番だって思っています」
私が言うと、リグは顔をしかめます。
「そう……。でも、ファーリ。最近のクエラさんがとても辛そうにしていることには、気づいていて? わたくしとファーリが仲良くしていると、ほんの少し、苦そうに眉をしかめて、瞳が揺れていますわ。赤の他人では気づかない程度ですけれど……でも、明らかに元気がありませんわ」
リグに言われて、私は愕然とします。
お姉さまが、苦しそうにしていたなんて。
私は……私がリグと一緒になれて、幸せでいっぱいで、まるで周りを見ていなかったようです。
みんなと一緒の毎日が好きだと言っておきながら、それはあんまりにも薄情でしょう。
自分が情けなくなって、私の表情が曇ります。
「その様子ですと、気づいていなかったみたいですわね。……ファーリ、よくお聞きなさい。このままだと、きっといつか貴女の望む『みんなと一緒にいる毎日』は壊れてしまいますわ。それぐらい、クエラさんは貴女を……妹であるはずのファーリを愛してしまっているのでしょう」
言われて、私の胸には不安が広がります。
いつか、この幸せな日常が壊れてしまう。
それは何よりも恐ろしいのです。
だって……こうして、大切な人たちと何てことのない日々を過ごすのが、私にとって最大の望みなのですから。
それが壊れてしまうのは……どんな苦痛よりも耐え難いのです。
しかも、こればっかりは力技ではどうにもできません。
私がいくらスーパーコードを扱えるからといって、お姉さまの意識まで書き換えてしまうことは出来ません。
技術的に言えば、可能なのですが……そんな魂を冒涜するようなまねは出来ませんし、大切な人の心をいじる、なんて最低の行為です。
つまり、私には日常を守るすべが無いのです。
あまりにも、悔しい。
「――1つだけ、方法がありますわ」
リグは、十分な間を置いた後、そう口を開きました。
そうして発せられた言葉は、あまりにも衝撃的でした。
「ファーリ。貴女が本当に私たち4人でいる日々を守りたいと思うのなら……クエラさんのことも、愛しなさい。恋人にしてしまうのです」




