37 宝石の花の真実
「……ふむ、伝説とな?」
どうやら私の企みは上手くいったようです。見事に白真龍の意識が逸れます。
「はい。白真龍さんの住む山の山頂にある宝石の花は、1人で摘みに来て愛する人にプレゼントすると永遠に結ばれる、という伝説があると聞きました」
「いや、そんな効果は無いぞ」
普通に否定されてしまいました。
まあ、これについては既に知っていたのですが。
山を登る前に、とっくにカミさまからネタバラシをくらっていますので。
「しかし……宝石の花は、愛し合う二人が共に手に持ち、互いの魔力を流し込むことで特別な指輪型の魔道具に変化する性質を持っている。愛を誓い合う為のアイテムとしては、伝説にも劣らず有用であろうな」
白真龍が付け加えた説明は、私も初耳でした。
まさか、花が指輪に変わってしまうとは想像もしていませんでした。
告白の為のアイテムとしては、むしろうってつけとも言えます。
「更に言えば、指輪型の魔道具に変化した後は強力な効果を発揮し、持ち主の命をかなり強固な耐性を与えることで守ってくれるようになる。愛する者を守るという意味でも、これ以上ない贈り物となるだろう」
「それはいいことを聞きました!」
私は白真龍の話を聞いて、がぜん山頂の花を摘む気が湧いてきました。
というか、強固な耐性が得られる魔道具に代わるなら、1つと言わずいっぱい持っていても損は無いでしょう。
「あの……白真龍さん。お花を摘む数に限りはあったりするのですか?」
私は、さっそく新たな目的を達成するため、大事な質問をします。
限数があったりしたら、ギリギリまで持って帰っておきたいのです。
私が使わなくても、私のお友達の誰かが使えるかもしれませんし。
「いいや? むしろ、花畑が全滅しても問題ない。我が魔力を浴びてそのうち生えてくるからな」
「ほうほう」
ということは、取り放題というわけですね。
「では、さっそく山頂に向かいましょう!」
私は白真龍から話を聞くと、さっそく山頂に向かいました。
圧倒的な敏捷性で宝石の花畑に到着すると、目にも留まらぬ速さで摘み取り、ストレージの中に収納していきます。
「へぇ、ここの花はいろんな宝石で出来てるんだねぇ」
カミさまが花畑を眺めながらつぶやきます。
実際、ここの宝石の花畑は色とりどりの宝石で花が象られていました。
花の形もバラやたんぽぽ、百合など見覚えのある花から、見たことも無いような不思議な形の花まで存在します。
「元は、この花畑は我を作り給いし神、フローラ様が愛する人の為に作った場所だったのだ」
白真龍が、不意に語りだします。
「草木と花々を愛でる神であったフローラ様は、かつて鉱脈の造成を司る神であったオールネリア様に愛を誓うため、この花畑を作った。フローラ様の愛を受け入れたオールネリア様はその権能で花畑を宝石に変え、互いの愛の証としたのだ」
しみじみと、懐かしむように語る白真龍。
ふとその表情を見ると、とても穏やかに見えました。
「今となっては、お二方は上位の神となって権能も混じり合い、1つの新たな神となって既にこの場所のことも覚えておらぬ。だが、当時単なる土蛇のモンスターであった我はこの花畑の守人を任され……そしてお二方が上位の神となる時、この花畑のすべてを託されたのだ。守人となった時に貰い受けた力と共に、どちらも自由にしてよい、と言いつけられてな」
白真龍の語る思い出は、とても素敵なものに思えます。
けれど、その思い出を語る白真龍は、どこか寂しげにも見えました。
「以来、我はお二方から力を頂いた時のように、弱き人々を試し、力を託すような真似事をしておる。そして、この花畑が愛し合う人々の為に存在し続けるよう、守り続けてきたのだ」
――白真龍さんに言われて、私はふと、花を摘む手を止めました。
勢いのまま次々と摘むのをやめて、一本の花を摘み取ります。
それは、バラのように鮮やかで甘い紅色の宝石で出来た花でした。
この花を送ることになるであろう人――リグのことを思い浮かべます。
つい魔道具の効果に目がくらんで乱獲していましたが……元々は、この花の美しさ、可憐さを求めて来たのです。
「数を取るのは構わんぞ、少女よ。しかし……どうか、その花を送るときはよく想ってやってほしいのだ。大切な人のことを。二人で過ごす未来のことを。そして……その日々を守るため、どれだけの人々がお主らの力になってくれているのかを」
白真龍さんの言葉に、私は頷きます。
リグだけではありません。
私とリグの関係を応援してくれた、お姉さまやアンネちゃん。
私を生み、育ててくれたパパとママ。
幼い頃から私を見守り続けてくれたカミさま。
こうして考えてみれば――もしかしたら、私の胸にあるこの愛は、どんな宝石よりもキラキラしている奇跡の花なのかもしれません。
この心に咲いてくれた巡り合わせに、感謝をしたいと感じました。
「――ありがとうございます、白真龍さん。大切なことに気づけたような気がします」
私は、感謝の言葉を口にしました。
「ふむ。それであれば、我にとっても何より良きことだ」
白真龍さんは、龍らしく厳しい顔を、くしゃりと優しげに笑ってみせたのでした。




