32 勘違いと種明かし
倒しておきながら放置というのも無慈悲すぎるかと思ったので、私は白真龍が意識を取り戻すまで待つことにしました。
小一時間ほどで、白真龍は目を覚ましました。
ライフがゼロになっただけで、肉体的損傷は全く無いおかげでかなり早く立ち直れたようです。
「……見事だ、人間の娘よ」
白真龍は穏やかな声で言います。
「では、約束通りお主に我が力を与えよう。奇跡の力、白真龍の加護を――」
「あ、いえ。別にいらないのです」
また急にわけの分からん話を勝手に始めたので、私は即座に断りました。
「なんだと? 我が加護が不要と言うのか?」
「はい。というか私、山頂に行きたかっただけなので単なる通りすがりですし」
「……ならば、なぜ我と戦った?」
「そりゃいきなり襲われたら応戦するしかないのです」
言われてみればその通り、とでも思っているのでしょう。
白真龍は難しそうに顔を顰め、うなだれます。
「……なるほど。つまり我が勘違いでお主を遅い、お主は降りかかる火の粉を払ったまでだ、と。そういうことだな?」
「そうなりますね」
「ぬうう……だが、せめて加護は貰ってくれぬか? その、倒されておきながら加護を渡さぬとなれば、亜神業界での評判が悪くなるのでな……」
「あー、でもわりと真面目にいらないので」
白真龍は何らかの力を私に授けようとしてくれているのでしょうが、私にとってはいらないものです。
むしろ、私を構成するコードに新たな加護のコードが合わさって、予期せぬ不具合を起こさないか心配です。
なので、加護とか新しい技能とかはうかつに貰うことができないのです。
「そこをなんとか」
「いえ、むりです」
「でも実際どうにかなったりせぬか?」
「せぬです」
「むうう……仕方ない、加護は諦めよう」
白真龍は落ち込み、さらに首をもたげて低く下げました。
「まあまあ。加護は貰えませんが、こういうのはどうですか? いざという時に私の手助けをする。これを加護の代わりに飲んでくれたら、いちおう負けたそちら側のメンツも多少は立つのではないかと」
あまりにも白真龍が落ち込むので、私はそう言って改善案を出しました。
「ふむ……要するに将来困った時にお主を助ける加護を与えたような感じで、これからも亜神業界で偉そうな顔をしておればよいのだな。ならばわかった。その方向で加護を与えた体裁にしようぞ」
喋り方は尊大な感じですが、言ってることは妙にみみっちいです。
が、そこら辺は気にしないでおきましょう。
「ところで少女よ。お主は如何様にして我を戦闘不能にしてみせたのだ?」
加護についての話が終わったら、次は白真龍の方から質問が飛んできます。
「我は神より賜った守りの力により、コード強制は受けぬように作られておる。だが、我は確かに、突如ライフがゼロとなって倒れた。しかも、お主は攻撃もせずにただ回避を続けていただけであった。なにゆえ、我は倒されたのだ?」
白真龍の疑問は、もっともなものです。
もし私が何の知識もなく、突然攻撃も受けずにライフがゼロになって倒されたら、同じように困惑するでしょう。
「えっと……説明をするには、いくつか説明しなければならない前提知識があるのですが。話が少し長くなってもいいのなら説明しますけど、大丈夫ですか?」
「構わぬ。もとより、我は転生直後を狙ったハンターと戦う以外は食って寝るだけの生活を送る身だ。むしろ、たまにはこういう娯楽が無いと退屈すぎて死んでしまう」
「はぁ。そういうものなのですか」
ともかく、話が長くなってもよいのなら説明もできます。
「では……白真龍さんは、マーキングというものはご存知ですか?」
「知っておる。攻撃を当てた相手を覚えておく技能だと把握している」
「ふむふむ。では、ゴーストピアスという技術については?」
「知っておる。我は使えぬが、亜神業界の他の奴らには使える者も存在しておるからな」
「なるほど。これなら、核心部分から話してもよさそうですね」
そして、私は肝心な種明かしを――私が使ったテクニックの名前を口にします。
「私が使ったのは――永続マーキングと呼ばれる力です」




