22 力を望む理由
世界を作り変えるほどの力。
そんなものが、私に宿っている。
突然言われても、どうにもピンと来ません。
「えっと……それで、そのスーパーコードという力を使う上で、私には何かデメリットのようなものはあるのですか?」
ひとまず、気になる部分を質問します。
どれだけ強い力でも、デメリットがあれば使い物になりません。
「特にデメリットは無いかな。ただ……スーパーコードは神の世界の力だ。この力を使うってことは、ユッキーは今以上に人間であることを辞めることになる」
「人間をやめる、ですか」
言われて、私は考えてみます。
たしかに今、私は人間ではなく準亜神という存在です。
けれど、今のところそれで困るようなことは一度も起こっていません。
「正直、あんまり問題無いような気がするのです」
ぼんやりと、そうつぶやきました。
カミさまは、呆れたような苦笑いを零します。
「あはは。まあ、急に想像しろって言っても無理か。――神になるということは、とても長い時間を生きるということだよ。家族も、大切な人も、知り合いもいなくなって、誰とも関わることが無いまま何万年、何億年と生きていくんだ」
私は、カミさまに言われてから少し創造してみます。
リグがいない。お姉さまがいない。アンネちゃんがいない。
パパやママがいない。リリーナ先生がいない。
誰も私が知っている人のいない、私の知っている人がいない世界。
「それは……とても、冷たく感じます」
私がつぶやくと、カミさまはぎゅっと、私を抱きしめる力を強めました。
「そうだよね、ユッキー。とても冷たくて、悲しくて、つらい。だから、ユッキーは神になるべきじゃない。私は、本当はそう思ってる。でもね、それでも私は言わなきゃいけない」
カミさまの声は、震えていました。
きっと、それだけ言いづらいことを言おうとしているのでしょう。
「……この世界は、私以外にもたくさんの神がたくさんのモンスターや人を作っている。だから、今の白真龍の山ぐらいの驚異なんて、そう珍しいものでもないんだ。そんな世界で、例えばリグレットお嬢さんやクエラちゃん、アンネちゃんのような誰の制作物でもない、自動生成で生まれた人間は、あまりにも弱すぎる」
弱い、という言葉は、たしかにそうなのかもしれません。
人間としてであれば、リグたちはとても強いのです。
けれど……リグたちでは勝てないようなモンスターが、今は白真龍の山にはうじゃうじゃ居ます。
それにカミさまの言う通りなら、この山のモンスターよりもずっと強い存在がまだまだあちこちに存在しているはずです。
確かに、考えてみればリグたちの力はあまりにも小さいと言えます。
「神々が思いのままに作った自由な存在が、好き勝手に暴れているのがこのファンタズムっていう世界なんだよ。だから、ユッキーにとって大切な人は、いつどんな時にあっさり死んでしまうかも分からない」
死ぬ。その言葉に、ゾッとします。
私は模擬戦で、危うくパパを殺しかけてしまいました。
あのときでさえ、とても苦しいと感じていたのです。
もしもリグが――お姉さまやアンネちゃんが、何者かの手で殺されてしまったら。
私はきっと、正気ではいられないでしょう。
「そんな世界で、ユッキーが本当に大切な人を、本気で守りたいって言うなら、力が必要だ。それも、神々の生み出した強き存在に負けないほどの力。神にも匹敵する力が必要になる」
そこまで聞いて、ようやく分かりました。
なるほど。だから、カミさまは私にスーパーコードの話をしていたのですね。
「――ねえユッキー。本当なら、私はスーパーコードのことなんか教えずに、ユッキーには人間並みの実力者として、リグレットお嬢さんたちと一緒に幸せに暮らしてもらうのが一番だったって思ってる。でも、ユッキーには力がある。リグレットお嬢さんを好きになってしまったなら……本当に守りたいって思ってるなら、避けて通れない力だよ」
つまり、カミさまは私に選べと言っているのでしょう。
安全は保証されないけれど、リグや大切な人たちと一緒の人生。
安全だけれど、大切な人が居ない時間を、永遠とも言えるほど永い間過ごす人生。
どちらか、二つに一つ。
「さあ、ユッキーはどうする? 今までどおりでいい? それとも、今以上の力を望む?」
カミさまは、私に問いかけます。
恐らくカミさまが言いづらそうにしていたのは、この選択が原因でしょう。
もしも私が力を望めば、私は永い時間を寂しく過ごすことになる。
もしも私が今までどおりでいれば、大切な人をいつ失うかも分からない。
どちらにせよ、現実は残酷です。
そんな残酷な話を、私に突き付けているのです。
言いづらいのも納得です。
でも――大丈夫。
私は迷うまでもなく、答えを決めています。
考える必要もありません。
いいえ、答えはとっくに出ている。選んでいるのですから。
「カミさま。私は――力を望むのです」




