15 出発前夜
予定を決めた私の行動は早いものでした。
速攻で一週間ほど休むことを学校に届け出ました。
許可はあっさり降りました。
ハンター学園ですから、成績優秀な生徒がハンター活動をすることは止めないらしいのです。
そして部屋に戻って、リグにも話を切り出しました。
「あの、リグにお話したいことがあるのです」
「あら、なにかしら?」
リグは普段通り、優しげな微笑みを浮かべてこちらを向きます。
「実は……ちょっと欲しいものがあって、それを手に入れる為に遠くまで出かけてハンター活動をしようと思っているのです」
「あら、突然ですのね。それはいつ行きますの?」
「明日からです」
私が言うと、リグは驚いて目を見開きます。
「明日って……そんな急には準備は出来ませんわ」
「大丈夫です。実は、いろいろ理由があって、その欲しいものというのは1人で手に入れなければいけないのです」
「1人で!?」
さらに私が事実を伝えた結果、リグはなおさら驚き、声を上げます。
「本当に、1人で行きますの!?」
「はい。ストレージがありますから食事も野宿に必要な道具も簡単に持っていけますし。実力的に言っても、向かう場所はCランクハンター相当の難易度だという話なので、私なら問題ないのです」
「それなら、まあ……そうなのでしょうけれど」
リグは、困ったような声を漏らします。
多分、リグは私が1人で冒険に出ることを心配してくれているのでしょう。
私の能力はとても高くなりましたが、寝首をかかれたら能力を発揮する間もありません。
無敵持ちでもないので、1人というのは常に危険が付きまといます。
でも、私は1人で行くと決めました。
1人でもモンスター避けの魔道具などを使えば、野営は可能ですし。
他にも、警戒の為の魔道具や結界の魔法などを複数使えば、モンスターが寝込みを襲ってきてもまず対応できます。
何より、1人で行くことに意味があるのです。
そうまでして取ってきた贈り物だからこそ、きっと特別な意味を持つのでしょう。
そして――1人で行くからこそ。
今日、私にはリグにお願いしたいことがありました。
「それで、実はリグにはお願いしたいことがあるのですが」
「お願い? 何かしら」
「私は、これから1人で冒険にいくので、しばらくリグに会えないのです。だから今日は……思いっきり、めいっぱいリグに甘えておきたいのです」
私が言うと、リグは目をまん丸にして驚き、けれどすぐに嬉しそうに微笑んで応えます。
「――ええ、喜んで」
私はリグと一緒に、ベッドの中で寄り添っています。
お互いに、下着だけで、ほぼ裸みたいな格好で肌を寄せ合っています。
こうして触れ合っていると、リグと私が一つに混じって別の何かに変わってしまいそうな気持ちになります。
ふわふわして、暖かくて……けれど、切なくなって。
私は、むぎゅっとリグの胸に顔を埋めて、抱きつくしかなくなってしまいます。
「……リグ、大好きなのです」
「もう、甘えんぼさんね、ファーリは」
リグも私を抱きしめてくれます。
言葉は呆れるようなのに、声色はとても嬉しそうな調子で、私を甘えさせてくれます。
こういう時間が、永遠に続けばいいのに。
ずっと、私がこの温かい場所にいられたらいいのに。
そう思ってやまないからこそ、私は明日から、少しの間リグから離れます。
それは誓いの為。
永遠にリグと一緒にいることを、心の底から約束するため。
そして――私の願いを、愛を、きっとリグは受け取ってくれるはずだと、信じていますけれど。
でも、もしかしたら、という気持ちもあります。
だから、そういう可能性を少しでも小さくしたくて、私は贈り物の力を借りたいのです。
素敵な贈り物であるほど、私の気持ちと、努力が詰まった結晶であるほど、リグの心を繋いでくれるはずですから。
モノの力を借りるなんて少し卑怯な気もしますけど、それでも私はリグが欲しい。
もしもリグに嫌われていたら……きっと私は、洗脳や隷属の魔法を使ってでもリグを手に入れようとするのでしょう。
私の心の中から溢れてくる気持ちは、それぐらい熱くて、荒れ狂っていて、抑えきれないものなのです。
「――帰ってきたら、リグに伝えたいことがあるのです」
私は、気づくとそう言っていました。
「だから、待っていて下さい」
そして私は、少しずつリグの顔に近づいて――ほっぺたに、触るようなキスをしていました。
「っ!」
リグは、驚いたようにピクリと身体を反応させました。
けれど、逃げたりはしません。
「……そう、何か、大切なお話をしてくださるのね」
そしてリグは、どこか落ち着いた雰囲気のある声色で言います。
「分かりましたわ。わたくし、待っています。ファーリが帰ってくるのを――わたくしに何か素敵なことを伝えてくれると信じて、楽しみに待っていますわね」
「はい。きっと、どんなことより素敵だって思わせてみせますので」
だから――どうか、私に愛していると、言って欲しいのです。
私は、最後の一言だけはどうにか言わずに堪えました。
そしてまた、リグの胸元に顔を埋めて、リグの肌の感触を堪能しながら、ゆるやかに眠りの世界へと落ちていくのでした。




