13 思わぬ落とし穴
私の疑問に答えるかのように、カミさまは説明を続けます。
「ユッキーの前世の世界には、魔法ってものが無かった。世界のシステムとして、組み込まれてなかったんだよ。だから、ユッキーに適正はあったけど、それは意味が無かった。でも、ファンタズムには魔法があった。だから、ユッキーは元々持っていた才能をこの世界で使えるようになったんだ」
カミさまの言い分は、筋は通っていました。しかし、矛盾があります。
「では、どうして今まで私の力が誰にも気付かれなかったんですか」
「それは、私がユッキーの力を封印していたからだよ」
決まりが悪そうに、カミさまは言います。
「この際だから、正直に言うね。確かに、私はユッキーの言葉を無理に解釈した。絶対に平穏に暮らせると言えるレベルの力を与えた。……でもそれは、魔法適正のことじゃない。正直、もっととんでもない力を君に与えているんだ」
「冗談じゃないです。余計なことをしてッ!」
私は、本気で怒っていました。
今までの隠し事は、笑い話で済んでいました。
でも、今回のことは違います。
パパを、危うく殺しかけてしまったのです。
冷静に、笑って許せるわけがありません。
「カミさまのせいで、パパが死にかけたようなものじゃないですか! こんな……こんなことが、カミさまの見たかった『面白いこと』なんですか!? ふざけないで下さい!」
「違うよユッキー!」
カミさまは、弁明の声を張り上げます。
「違うんだよ。いや、違わないと言えばそうでもあるんだけど。私が君にあげた力の全ては、未だに封印してあるんだよ。だから、君はその力を使えない。突然強い力を持つと、今回みたいな事故も起こるはずだって分かってたから……だから、私が無理に与えた力が、君の父親を傷つけたわけじゃない」
カミさまの言葉が、私を責めているようにも聞こえてしまいます。
つい、私は怒りに眉を顰めてしまうます。
「でも、封印していたのは、君の魔法適正も同じなんだ。強すぎる力は、やっぱり事故を起こすから。それで、君が前世の記憶を取り戻すまでは、前世での力も封印していたんだ」
「つまり、私が雪穂であった頃の記憶を取り戻したあの日、私の魔法適正の封印が解けた。そのままパパと戦い、全力を出した私が、無意識に魔法を使ってしまい、パパを殺しかけた。そういうことですね?」
私の問いに、カミさまは頷きます。
「だから、今回の事故は……私が起こしたようなもの。私が迂闊に封印を解いてしまったから、そのせいで君のお父さんは死にかけたんだ。……謝って許されるとは思ってないけど、それでも、ごめんなさい」
カミさまは謝罪を述べて――小さく、涙を一粒零しました。
こうなってくると、調子が狂います。
怒りが収まったわけではありません。けれど、カミさまを責めてもどうにもならない、ということだけははっきりしていました。
「……まあ、過ぎたことは仕方ないのです」
「ユッキー……」
カミさまは私の方を向いて、驚いたような顔で訊いてきます。
「許して、くれるの……?」
「いいえ」
私は即答しました。カミさまはまたしょんぼりとしてしまいますが、それも仕方ないでしょう。
実際、今回のことはカミさまが悪いのです。まともな説明もせず、勝手なことをしていたカミさま。
でも――許すというわけではないですが、怒っているわけでもなくなりました。
少なくとも、カミさまに悪意は無くて、反省もしています。
一応、頭の中身は24歳を経験しています。いちおう、大人です。
小さな女の子にいつまでも怒っている気にもなれません。
「……許しはしませんけど、もう怒っていませんから。魔法適正も、カミさまがくれたという力についても、全部過ぎたことです。それに、元は私が無茶をしたからでもありますから。……これからは、ちゃんと大切なことは教えて下さいね?」
「うん、分かったよ。ごめんね、ユッキー」
カミさまは、少しだけ安心した様子でした。




