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31 ライゼンの選択




「ら、ライゼン……なのか?」

「そのとおり。吾輩もまた、こうして女体化すればケントの恋愛対象になるだろう? これで問題あるまい。さあ、吾輩の伴侶となり、嫁となるのだケントよ!」


 闇の中から現れた美少女――女体化したライゼンさんはずいずいとケントに迫っていきます。


「さあ、どうだケントよ? 吾輩のこの体は自信作と言える。中々の美少女だろう? これだけ可愛ければ、お主の食指も動くのではないか? ほれほれ!」


 美少女ライゼンさんは、ニヤニヤ笑いながらケントちゃんへと絡んでいきます。

 ケントちゃんは少しずつ後退して逃げるのですが、ライゼンさんを拒否しきれず、あっさり捕まります。

 そして、ライゼンさんはケントちゃんと手足を絡め、抱き合いながら耳元でささやきます。


「これでも……だめか? 吾輩は、お主に必要としてもらえないのだろうか」


 ライゼンさんの一言は、少しだけ寂しそうな声色を含んでいました。

 その一言は、きっとケントちゃんにとっては強烈な一撃になったに違いありません。


 孤独なケントちゃん。ライゼンさんに必要とされ、嬉しかったケントちゃん。

 でも、そんなライゼンさんを、ケントちゃんは必要としてあげない。大切にしてあげない。寂しい思いしかさせてあげない。


 それがきっと、ケントちゃんの――プライドというやつにとって、許せなかったのでしょう。


「……おい、ライゼン!」


 ケントちゃんは、ライゼンの肩を掴み、引き剥がします。


「女体化は……その、もとに戻すことはできるのか?」

「いや、不可能だな。現状、女体化の魔法は無理に肉体の改造を行うことで実現している。もう一度肉体改造を行ったところで、それは復元ではない。元の肉体には戻らないし、そもそもそれは男性の肉体に変化させるという技術だ。吾輩が研究した魔法とは、肝心の構造が異なる為に全く要領が違う」

「そうか」


 はぁ、とケントちゃんはため息を吐きました。


「いいか、ライゼン。この俺の話をよく聞け。一度しか言わんからな」


 不遜な態度で、ケントちゃんは語ります。


「俺は、お前の嫁にはならないと言った。それは、お前にとって都合のいい道具のように扱われることが嫌だから拒絶した。お前が憎くて拒絶したわけじゃない。それに……俺は、お前が俺を一人の人間として大切に扱ってくれることを、嬉しくも思っている。だから俺は、お前と向き合い、少しずつ理解しあっていきたいと思っていた。だから、お前が男だとか女だとかは関係なく……お前の真剣な願いであれば、俺は貴族として、お前に真摯に応えようと思っていた。俺の為に本当の自分の肉体を捨てる必要なんてなかったのに……馬鹿なことをしやがって」


 ケントちゃんは、なんとライゼンさんを抱きしめます。

 きゃあきゃあ、と私の周りで黄色い声が上がります。リグとアンネちゃんです。お姉さまは複雑そうな表情で見ています。リリーナ先生は、頭を抱えています。

 私は……ちょっとだけ、羨ましいなあとおもいました。

 あれぐらい、深い絆でリグと繋がりたい。そう思っていました。


 そのまま、しばらくケントちゃんとライゼンさんは抱きしめあっていました。

 中身がおデブの少年とガリガリのおじさんだったことさえ考えなければ、とても絵になる光景です。

 いや、そもそも私だって元は24才の大学生だったのですが。人のことを言えるような立場ではないのですが。


 やがて、ゆっくりと二人は離れます。


「ケント、すまなかった」

「何のことを謝っている、ライゼン。俺はお前に何も謝られるようなことはされていない」


 なんだか、ケントちゃんがイケメンなセリフを口走っています。

 というか、人ってこんなにあっさり変わるものなのですね……。

 ただ性格の悪いおデブ貴族だったケントちゃんが、まさかライゼンさんを相手にこんな優しい態度をとれるなんて。


「……いや、やはり女体化されたことはわりと怒っているな」

「ふむ、それは謝らんぞケント。いくら吾輩でも、元の生意気なだけのデブの少年など愛することはできぬからな」

「ぐぅ、それはなんというか、けっこう傷つくぞライゼン……」

「しかし事実なのでな」

「フン、仕方ない。女体化して良かったと思うことにしてやろう」


 なんだか、二人がイチャイチャしはじめました。

 うん。一件落着ですね。

TS美少女同士の絡みは精神的にはホモだが肉体的には百合……


う~ん深い!

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