23 神の一手
「こいつを避けて、おデブちゃんの救出だけ優先するわけにはいかないのかにゃ?」
アンネちゃんが、当然の解決案を一つ提案します。
「可能だろうが、後ろからこいつの攻撃を浴び続けることになるだろう。救出のめども立っていない以上、ジリ貧になるのは自明だな」
リリーナ先生は、あっさり希望が無いことを言葉にしてしまいます。
「足止めと捜索の二手に分かれる、という方向でいかがでしょう、先生」
お姉さまが、新たな解決案を提案します。
「ああ、それが最も現実的だろう」
リリーナ先生が、お姉さまの案を肯定します。
というより、相手を撃破できない以上、当然の選択でしょう。
そして、私たちは全員で顔を見合わせます。誰が囮役として残るか、相談をしようとします。
――そのときでした。
「どうやら困っているみたいだね~!」
のんきな声が、私たちの背後から聞こえてきます。
振り返ると、そこには白髪赤目の女の子……カミさまが立っていたのです。
「貴様、何者だッ!」
リリーナ先生が警戒します。私は、あわててカミさまについて説明します。
「あの、先生! あれは私の守護精霊のようなものなのです!」
「なに、守護精霊だと? そんなものは聞いたことが無いが……」
「で、ですから『ようなもの』なのです! とにかく私の知り合いで、味方なのです!」
「ふむ……まあ、協力者が増えることは現状助かると言えるのだが」
リリーナ先生が眉をしかめながらカミさまを睨みます。
「どうもどうも、ユッキーの守護精霊のようなもの、と紹介にあずかりましたカミーユという物です」
「ふむ、ユッキー、というのはファーリ君のことかね?」
「そうですよ~」
カミさまは手をひらひらと振りながら、私の方へと近づいてきます。
「さてユッキー。非常事態っぽいから、簡潔に説明するね」
「分かったのです」
「ズバリ、ユッキーの力があればあのゴーレム倒せちゃうんだよね」
「……それは、どの程度の意味で、ですか?」
「私が封印している力を使わなくても、今ユッキーが使える全力を駆使したら倒せるって意味だよ」
カミさまの言うことが分からず、私は首をかしげます。
「あの莫大なライフを、4000もある防御力の上から削り切るほどの攻撃力は私には無いのです」
「いや~、実はライフって削り切らなくても相手を倒せちゃうんだよね」
「肉体の負傷、という意味ですか?」
「いや、それ以外にもいろいろ方法があるよ。そしてユッキーは今、そのうち一つの手段を使える状況にある」
「……どういうことです?」
私は、なおさらわけがわからなくなります。
この世界、ファンタズムで戦い、相手を倒す手段は2つあります。
一つは、ライフを削り切ること。
もう一つは、戦闘続行不可能なほどに肉体を負傷させること。
ちなみに、ライフを削りきった相手をさらに痛め続けていると、いずれ死に至ります。
かつて、私がパパの命を奪いかけた原因が、このライフを削りきった分以上のダメージによるものです。
また、生存不可能なほど肉体が破壊されることでも死にます。
ただ、ライフが残っている場合は生命力がとても強くなるため、心臓や脳を潰さない限りは高い確率で生存できます。
とは言っても、出血や怪我の痛みで徐々にライフが減少していくので、全く平気というわけでもないのですが。
そしてライフ0で肉体が損傷している場合は、前世の世界のように大怪我をすればあっさり死ぬこともあります。
それが、この世界――ファンタズムでのルールのはずです。
なのに、カミさまはライフを削らず、相手の肉体の負傷もさせずに倒せると言います。
どういうことか、さっぱり意味がわからないのです。
「さて、それじゃあ詳しく説明しようか。あのゴーレムを撃破する技術――ダメージフローについて」
カミさまの口から出てきたのは、まるで馴染みのない言葉でした。




