01 私、転生してました!
真っ白でシンプルな内装の、けれど決して質素ではない部屋。
後ろと正面の両方に扉があって、私はその一つを前に立ち止まっています。
そう、今日は私――ファーリ・フォン・ダズエル(10歳)が、パパから剣術の実技指導を受ける日。この扉を開けば、先にはパパとの決闘の場所が待っているのです。
でも、私の足は進みません。
動く気にもなれないのです。
だって――私、自分が転生者だってことを思い出してしまったのですから!
それはある日のことでした。
私――ではなく、僕がまだファーリではなく、24歳の男子大学生、『南條雪穂』として過ごした最後の日です。
僕の部屋に、一人の女の子がいました。
長い白髪のキラキラした、瞳の赤い女の子でした。歳は、12歳ぐらいでしょうか。
そんな女の子が、気づくと僕の部屋にいました。
僕もまた、気づくと女の子の前に正座していました。
なんで?
疑問を抱くよりも先に、女の子が口を開きます。
「どうも、南条雪穂さん。私、神さまです」
すごいことを口走った!
「はぁ、どうも」
でも僕は落ち着いています。
正直、慌てても意味がないのです。慌てるぐらいなら、つつがなく話を進めたいのです。
「さすが雪穂さんです。私が見込んだ通り、こんな異常事態にも冷静でいらっしゃる」
「いえ、冷静といいますか。なんもできねぇと言いますか」
「ともかく、私は神さまなんです。そこんとこいいですか?」
「まあ、ひとまず」
早くこの話、終わらせたいです。
何しろ、明日から大学は試験です。今日も、さっきまで一人机に向かって勉強をしていたところです。
恥ずかしながら、僕はいわゆる留年というやつを経験しておりまして。
というのも、サークル活動やバイトでお金が貯まるのが楽しくて、授業の大半を自主休講……いいえ、正直に言いましょう。授業のほぼすべてを自主休講する日々が続いていました。
さすがにこのままではまずい! と思いました。
なので、今日は気合を入れて、めずらしく机に向かっていたのです。
ですから、この謎の女の子の相手をしている暇は無いのです。
「で、神さま。僕になんの要件でしょうか」
「はい。まあ、分かりやすくいうと、転生して頂きたいなぁ、と」
「転生ですか」
「はい。実は私、こんど新しい世界作るんですね。で、一から全部作るのってけっこう大変なんで、昔作った世界とか人間とかの設定を流用するんですよ」
「はぁ……」
「で、今回は雪穂さんを流用させていただこうかなぁ、と思いまして」
「僕ですか。なぜ?」
不思議な話です。僕という人間は、正直ただのダメ人間です。
取り柄も特にありません。通っている大学の偏差値は高めなので、世間一般よりは知恵のある方だとは思いますが……。
正直、わざわざ神さまに注目される理由が思い当たりません。
すると、神さまはふふっ、と笑って答えを話してくれます。
「雪穂さんを選んだのは、あなたが特別優れた人だから、とかそういう理由じゃないんですよ」
「ほうほう」
「という話をするには、そもそも世界って何なのか、っていう話からしないといけませんね」
「えっ、すごく壮大ですね。長くなります?」
「はい、少々」
「じゃあ、お茶淹れてきますんで」
「これはこれはご丁寧に」
僕は一旦、席を立ちました。ワンルームアパートの狭い部屋の中、台所はすぐそこです。
神さまにじ~っと見られながら、僕は粉末の玄米茶でささっとお茶を用意するのでした。