第一章Ⅱ
「くそ!こうなったら………」
男は赤い液体の入ったびんを取り出した。それを口に含んだのだ。
「あいつ…吸血鬼だったのか」
亮一はその行為を見た瞬間すぐにわかった。そしてそのことは何を意味するかまで理解ができた。
「これでもくらいやがれ!」
男は近くにあったベンチに向かって手のひらを見せた。
その瞬間、ベンチは宙に浮いた。そしてそのベンチが亮一とガーディアンの女性に向かって飛んできた。
(恐らく、あの吸血鬼の能力は念動力か、だったら…………)
何かを考えた亮一は、自分の荷物から二丁の拳銃を取り出した。
「「対吸血鬼特殊武装エクスキューター No.003 ’ウリエル ’ 起動しました。」」
「「登録ユーザー司馬亮一 確認しました。使用許可を出します。」」
拳銃から声が発せられた。これはエクスキューターと呼ばれる吸血鬼を討伐するためのいわゆるリーサルウェポンである。形状は種類によって異なり、亮一の使うエクスキューターは二丁拳銃である。
「どうして?あなたがエクスキューターを持ってるの!?」
なぜ、はたから見たら一般人である男つまり亮一がエクスキューターを持っているのかまったく理解ができなかった。
「まぁ、いろいろとね。事情があるんだよ!悪いけど後で話を聞こう。今はこいつだな。」
そう言うと、赤い液体 人の血を飲んだ男のほうを見た。彼はかなりの興奮状態であり加えて能力が使える。普通に相手にすればかなり厄介だ。
「おいおい、貴様ら俺をのけものにしてるが…そんな余裕はねぇぞ!!!!」
その瞬間近くに停車していた車を能力で投げ飛ばしてきた。だが……
「悪いね。君がいくら能力をつかえても、
散々吸血鬼と戦った俺には素人の悪あがきにしか感じないんだよ。」
亮一は飛んできた車を軽くかわし、両方のトリガーを引いた。その瞬間、男は膝まづいて倒れた。男の右手と左足からは大量の血が出ている。
「うぅあぁぁぁ!!!!」
男は悲鳴をあげた。撃たれた箇所から想像を絶する痛みが感じているのだろう。そしてその痛みにもがいた後男は動かなくなった。
決着はほんの一瞬で終わった。それを見ていたガーディアンの女性は呆然としていた。ただの一般人が、吸血鬼を一瞬で仕留めたことに現実味が感じなかったのだろう。
「うそたった一瞬で………あなた!一体何者なの!?」
女性は亮一に対して質問してきた。さっきの出来事でただ者ではないと思ってるはずだ。それはそのはず、
人間でましてや一般人が吸血鬼を倒すなんて不可能なのだ。
「俺か?俺は通りすがりの狩人だよ」
「狩人ですって!?ここでは一般の狩人は行動ができないはずよ!?」
未来は亮一に対して厳しい言葉を言った。
彼女の言う通り、本来、狩人たちはこのアクアガーデンにおいてガーディアンに所属していなければ行動ができず、もし違反した場合は厳しい罰則を受けることになる。
しかし亮一はガーディアンへと配属される予定である。そのため罰則は受けない。
「今日からガーディアンに配属されることになったんだ。君もガーディアンだよね?よろしくね!」
「え?そんな話聞いてないわよ?………もしかしてあなた、本土の方から派遣された狩人?」
これまでの出来事を自分なりに解釈して亮一に聞いてきた。
「そうだよ。新しくガーディアンに配属されることになった司馬亮一だよ。よろしく。」
「そうなのね。それは失礼、私の名前は朝比奈美久よろしくね。新人さん」
2人は軽く挨拶を交わした。都合よくガーディアンの職員に出会えたため亮一はさっそく本題をきりだした。
「そういえば、迎の車があるって聞いたんだけど、知らないか?」
ここに来る前に藤堂さんから送迎の車が来ると言われたが結局のところ来ていなかったのだ。
「あ、それ私の役目なの。でも車ならこの男が投げ飛ばして大破してるわよ?ほらあそこ。」
美久は指を指した。その先を見ると、ついさっきの戦闘で男が投げ飛ばした車であった。
しかしその車は原型はとどめてはおらず鉄の塊のようになっていた。
「えぇ!?あの車だったの!?じゃあどうやって本部まで行くの?確かここから結構な距離だったよね?」
「…………うーん、どうにかなるわよ。」
美久は亮一の質問に対して清々しいくらいの笑顔を見せて答えた。その笑顔は美しく可愛いものの、何の解決にもならなかった。
「いやいや!!かるすぎるだろ!?」
「もうーー、細かいわね!大丈夫よ!インカムで呼べばいいんだし。」
そう言うと身につけていたインカムから仲間を呼び出した。
「ああ、芦沼さん?悪いけど空港まで車で迎えに来てくれないかな?
今日からこっちで働く人の送迎があるの?えぇ? 行ったけど車壊されたの。とにかくはやく来てね。」
通話は終わった。しかしまぁなんというだろうか。とてつもないわがままぶりである。まるで女王のようにも感じた。
「迎えどれくらいかかるの?」
亮一は聞いてみた。
「あと20分程だってまぁ気ままに待ちましょ?
あなたの話も聞きたいし。」
そう言うと彼女の紅い髪がなびいて一瞬、亮一は見とれてしまった。
(普通にしてれば可愛いよな……)
口に出しては言えなかったが、誰もがそう思うはずだと亮一は心の中で呟いた……