33.5話 チームで仕事をするということ
(投稿しようと思っていて2年ぐらい塩漬けにされていたのを発掘しましたので…)
「い、いとーさん……」
ルミエナが名を呼ぶ。
息が完全に上がっており、転げ回りでもしたのか真っ黒なローブも所々破けていて、奥に見える肌は擦り傷が目立っている。
「頑張ってくれたんだな」
辺りを見てみると、俺がさっきふっ飛ばした男の他にもう一人気絶していて、黒焦げになった魔物の死体らしきものもある。
……一人でここまでの成果を出してくれているとは本当によく出来た後輩だ。俺も先輩として恥ずかしくない仕事をするとしよう。
「さて……」
ルミエナを背にしたまま残りの一人。魔狩りの鎖のギルドマスターもとい小物に向き合う。
俺がここに来ることを予想していなかったのか、相手は目を見開いた驚愕の表情で俺と、俺がさっき吹き飛ばして倒れたギルドメンバーの男を何度も交互に見た後。
「おま、お前……どうやってここに……」
ぷるぷると手を震わせながら俺を指差す。
「そりゃ走って来たに決まっているだろう」
質問の意図を分かっておきながら敢えてすっとぼけてみる。
「そういうことじゃねえ! 他の奴らはどうした!?」
予想通りの反応をとってくれるお相手。
追い詰められている時の反応が小悪党そのものだ。
「業務上の障害だったからな。当然排除してきたさ」
「…………全員を……だと……何人いると思って……」
「全部で19人だったか。それから今ふっ飛ばしたのが20人目で――お前で21人目だな」
武器を使うことに慣れていない俺は基本的に殴る蹴るといった戦い方をしている。今回も例に漏れずその戦い方で20人をなぎ倒してきたので、少なからず俺の身体には戦いの痕――端的に言ってしまえば、自分を含めた色々な人の血がついていたりする。
そんな格好の俺が「次はお前だ」と宣告して、ゆっくり距離を詰めていくものだから。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
両手の手の平をこちらに向けて、焦った様子で制止しようとする。完全に及び腰になっており、どう見ても俺とやり合おうという体勢ではない。
「こっちの負けを認める! 妨害したことも謝る! だからこれで終わりにしよう、な?」
それは良い申し出だ。
ファルからの命令は魔狩りの鎖に勝つこと。途中の妨害についても認めてくれるなら何らかの取引材料に使えそうだしファルも喜んでくれることだろう。
しかし今回に関してはここで切り上げるつもりはない。
歩みを止めず、近付いていく。
「こっ、これ以上やるつもりなら管理局に報告するぞ! それは避けたいよな!?」
尚も近付いてくる俺に対し、じりじりと後退しながら説得材料を並べる。
「む……」
確かに先に仕掛けたのは向こうでこちらは自己防衛をしたという言い分が通じるのは今だけで、向こうが謝罪の意を表明している以上、手を出してしまうと罰せられるのはこちらになるだろう。
いわばコンプライアンス違反。
上司の命令や会社のためなら違反せざるをえない場面もあるだろうが、発覚してしまえば企業に大打撃を与えかねない事象。避けなければならない。
個人的にはここで思い出したくないほどのトラウマを植え付けて、管理局への報告を防ぐ道を選びたいところだが企業的リスクがある。かといって大事な後輩を傷つけた輩に何もしないと言うのはさすがの俺でも気が収まりそうにない。さて、どうするか。
――そう考えている時だった。
「ストーンブラスト!!」
男がそう叫んだと同時に、突如大量の石礫が目の前に迫ってくるのが見えた。
完全に油断していた俺は咄嗟に腕で顔を防ぐのが精一杯で躱す余裕もなく、身体全身に石礫を受ける。
「はっ! 馬鹿が! 隙だらけなんだよ!」
どうやら不意をつかれてしまったらしい。
男の勝ち誇った声が、今もなお襲ってくる石礫の向こうから聞こえてくる。
「さすがの不眠不死も俺のこの魔法をまともにくらえばさすがに無事とは――」
「……そうだな、無事とは言えないな。ちょっと痛いし」
石礫の襲撃が止み、身体を確かめる。
服はさっきよりもかなりボロボロになっている。まぁ鋭利な石があれだけ飛んでくれば当然か。痛みは…………ちょっとジンジンと痛いな。数カ所だけだが擦り傷になっているところもある。
ルミエナのところには……うん、大丈夫だ届いてない。あくまで俺だけを狙った攻撃だったようだ。
「お、おま……な、なんであれで……平気なんだ……」
「別に平気って訳でもないぞ。服破けてるし。あ、ほらこの辺とか血出そうになってる」
顔を防いでいた腕の部分を見せながら言う。
「俺のとっておきがその程度の…………」
驚いているのかショックを受けているのかよくわからないが、まぁとにかくこの展開は俺にとっては好都合。
「さて……じゃあそっちが仕掛けてきたってことだし」
先程まで考えていた問題を綺麗に解決する方法をわざわざご本人が提示してくれたので。
「ま、待て今のは間違いで――!」
「二度とうちの大事な後輩に手出させないように、身体に刻み込ませて貰うぞ」
業務外ではあるが後輩が心置きなく働けるよう、ここで前職のことは精算するとしよう。
◇
「あの……あたし重くないですか……?」
俺の背中に背負われているルミエナが、遠慮がちに話す。
魔狩りの鎖ギルドマスターに割と痛い目に合ってもらったあと、ルミエナを助け起こそうとしたのだが腰が抜けてしまっていたらしく、中々立ち上がれそうになかった。
加えて体力も精神的なところもかなり消耗していたのだろう。助け起こそうと握った手は震えていて回復するのにも時間が必要そうだったので、結果俺はルミエナを背負い出口へ向かうことにしたのだった。
「いや、大丈夫だ。もう少しゆっくり歩いたほうが良いか?」
なるべく揺らさないように気を付けているが、人を背負って歩く経験なんて前世含めて初めてなので勝手がわからない。
「は、はい。大丈夫です。乗り心地いいです」
「そうか」
それなら良かった。
乗り心地が良いというのは一応褒め言葉として受け取っておこう。
「あの……イトーさん、ごめんなさい……」
「気にするな。人一人背負うぐらいどうってことない」
見た目通りルミエナは軽い。
依頼ではもっと大きく重い荷物を運ぶこともあったのでこれぐらい問題ない。
「えと、それもあるんですけど……お仕事、うまくできなくて……」
「? ちゃんとワーウルフ討伐しただろ?」
「で、でもその後結局イトーさんに助けてもらって……」
そう口にするルミエナの言葉尻がどんどんと小さくなる。
立派に仕事を完遂したというのに、魔狩りの鎖の妨害というイレギュラーな事態に完全に対応出来なかったことで落ち込んでしまっているようだ。
「そもそも一人で出来ることには限界がある。だから助け合うのは普通のことだ。気に病む必要はない」
「でも……イトーさんってなんでも出来るじゃないですか……」
「いいや」
首を振る。
後輩から仕事が出来る先輩と見られていたというのは嬉しくもあるが、それがルミエナの自信を少なからず奪ってしまっていたのかもしれない。
「例えばそうだな……今、この状態で自分の背中を見ることができるか?」
「え? えと……」
一瞬きょとんとしたものの、背中でモゾモゾと動き始める。
自分の背中を確認しようとしているのだろう。左右身体を捻って何度もチャレンジしようとしているのを背中から感じ取れた。
やがてその動きも収まり。
「み、見れないです……」
想定通りの答えが返ってきた。
「だろ? でも他に人が居て頼めるなら簡単だ。背中見てくれって言うだけだからな。そんな風に自分だけでは難しい、苦労する、無理だってことでも協力すれば簡単になる」
一人で何でも出来るなら一人で仕事をすればいい。
しかしそうはせず、誰かと組むのは一人で出来ることに限界があるからだ。
「仕事は役割分担だ。この仕事で言うと俺が足止めしてルミエナが討伐する――お互いがベストを尽くしたからこそ成果を出せた」
ひとりひとりやっていることは違っても、仕事を成功させる、業績を上げるためにみんな同じところを向いて、それぞれの役割を果たそうと動く。
そういう風に組織や世の中というのは回っている。
「だから今日の仕事は、俺達二人で勝ち取った成果だ。誰がなんと言おうと俺達二人が揃っていなきゃこの結果は出せていない。自信を持っていいと思うぞ」
「…………はい」
俺の言葉がどこまで響いたかはわからない。
けれど、少しだけ安堵したように感じられる声。
それからさっきよりも俺に身体を預けるようになったのを感じながら、ファルの待つ出口へとゆっくり歩き続けるのだった。




