18話 酒場再生計画その1
薬草採取やら迷い猫の捜索やらが依頼内容にあるのを見ても分かる通り、冒険者ギルドは何でも屋と言ってもいいだろう。
法とギルドの流儀に反しなければ、基本的にどんな依頼でも受け付けるらしい。
なので中にはこんな変わった依頼もある。
『酒場を開いたのはいいが客が来ない。なんとかしてくれ』
前の世界であれば経営コンサルタントの領分である依頼まで受け付けるのだから冒険者ギルドの手広さには驚かされる。
ともあれ仕事があるのは喜ばしいことだ。
俺達は早速酒場へと向かい、なぜ客が来ないのかを調べることにした。
「……料理の味は普通ね」
「えと……わ、わたし的にはおいしいです」
まずは客として訪れ問題点の調査から。いくつかの料理を注文して試食してみた。
ファルとルミエナ、二人の反応を見る限り味は問題ないようだ。
「値段も…………まぁ普通ね」
「そですね。どこもこれぐらい……だと思います。たぶん」
価格もこれまた問題ないようだ。
ちなみにここの代金は俺の給料から天引きされているのでギルド経営に影響が出ることはなく、とても安心だ。
「店内も汚いわけでもないし……」
「……ちょっと狭いかなって感じるぐらいですね」
丸型のテーブルが5つに、それぞれ椅子が4つの合計20席。
日本の居酒屋に慣れている身からすれば少ない気もするが、この店の広さでは限界だろう。
「なら問題は立地かしらね」
「え……でもそれならどうしようもないですよね……?」
中心街から少し離れた場所にこの酒場はある。
確かに立地が客足の鈍い原因を作っているのは間違いない。
料理の味も値段も、店内の清潔さも問題はない。はっきりしている問題はどうしようもない立地条件だけ――ではない。
「改善の余地があるのは接客だな」
「え?」「?」
ファルとルミエナが「何を言っているんだ」と言わんばかりの表情で俺を見る。
「接客って……特に問題なかったように思うわよ?」
「は、はい。給仕のお姉さんも明るかったですし……」
ふむ。
ここは異世界。やはり俺のいた日本とでは感覚が違うようだ。
「なら少し試しながら解説していくぞ」
俺はメニューを開き、追加注文の品を選びメニューを閉じた。
「あら、注文しないの?」
「するぞ。けど店員が注文を取りに来ないのでな」
「……呼ばないと来るわけないじゃない」
呆れたようにため息をつくファル。
呼ばないと店員は来ない。きっとそれが異世界の酒場の常識なのだろう。
「俺のいた国では向こうから注文を取りに来てくれるところがあったんだ。客の動きや目線でタイミングを図ってな」
勿論呼び出しボタンや、呼ばないと来ない店も沢山あるのだが、改善という意味では客の手を煩わせない接客術を身につけるべきだろう。
「……そんなことできるの?」
「出来る出来ないで言えば可能だ。特に今は客が少ないからな」
さすがに混雑時に客一人一人の動向を見るのは無理がある。
「あとはそうだな……例えば俺達がそれぞれ自分の口で注文を伝えたとしよう」
例えば今回の注文だとイノ・シーシのシシバラ焼きが俺、パイ包み焼きがファル、野草サラダがルミエナといった内容だ。
「持ってきた料理をテーブルの中央辺りに置くのが普通だが……俺達の国では注文した人の前に置いてくれる店がある」
そうすることで手をわざわざ伸ばして自分の前に料理を持ってくるという手間が省ける。
「一々注文した人まで覚えてられないと思うのだけれど」
ファルの疑問は最もだ。
しかしながら日本が積み上げてきた接客マニュアルには簡単な覚え方がある。
「それぞれの座席に番号を振っておくと簡単だぞ。1番席が俺のいる場所で、そこから右回りに2番3番と振っていって、注文を受ける時に1番席がシシバラ焼き、といった風にな」
料理を持ってきた時に「○○のお客様」と聞くのが簡単ではあるが、どうせ改善するのであればこちらの方が接客レベルは間違いなく高い。
客の手を煩わせないのは接客の基本にして究極だ。
「けどそこまで丁寧な接客したところで客は気付くかしら?」
「そうだな。すぐには気付かないかもな」
「え……じゃ、じゃあ意味ないんじゃ……」
いや、意味はちゃんとある。
他の酒場でやってないなら意味はある。むしろやってないからこそ意味がある。
「一度隅々まで行き届いた接客を受けた客が他店へ行った時に初めてその違いに気付くんだ。一度気付いてしまえばもうこちらのもの。何気ない一つ一つのことが不便に感じ始める。良いものを知ってしまったがために、今まで普通だったものが悪いもののように思えてしまうんだ」
価格帯も味も同じ。しかしこちらは良い接客で、あちらは相対的に見ると悪い接客になってしまう。客がどちらに流れていくかはもう問うまでもない。
接客水準を一気に引き上げる。ノウハウのない他店は苦労することだろう。
なんたって水準を引き上げすぎたのが日本だからな。主なフロアスタッフがパートやバイトで構成されているファミレスだって海外の二つ星レストランクラスの接客レベルがあるぐらいだ。
「すっ、すごいです。これならお客さん来てくれるようになるかも」
「そうね。さすが私の部下、よくやったわ」
「いや接客だけじゃ駄目だ。これはあくまで『やってきた客を囲う』だけのものだからな」
いわゆるリピーター作り。
それではこの立地の悪い酒場に新規の客を取り込めない。
「じゃあどうするつもり? 勿論何か考えがあるのよね?」
「ああ」
力強く頷く。
新規のお客様を取り込むには来店の「切っ掛け」を作らないと始まらない。
ではその切っ掛けを作るにはどうしたらいいのか。
そう、ここからは――広告屋の領分だ。




