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15話 後輩との初仕事その1

 昨日管理局で獲得に成功した新人。

 黒い魔女帽子に黒いローブ。真っ赤な髪は顔の半分が隠れるほどに長い。身長は小柄だが胸の辺りだけゆったりとしたローブを着ていても立派に主張している。

 名前はルミエナ・レイマーク。歳は今の俺と同じ17歳。

 二年前から冒険者として活動していたらしく、冒険者歴は二年でランクはEランク。


 ……というのが、俺の知っているルミエナの情報。それ以外は知らされていない。

 そして知らされていないどころか、昨日管理局で入会手続きをした後すぐに別れたので会話らしい会話はしていない。

 それなのに今日、ルミエナが出勤してくるなりファルに。



「仕事よ。二人で行ってきなさい」



 と送り出されてしまった。

 いきなり仕事なのは俺個人としては嬉しいのだが、いち早く社畜化させる為にも、俺が前世で経験してきた例の研修をさせた方がいいのではないかと進言してみたところ。


『経済的余裕がないのよね。だからあの子の教育は稼がせながら同時にやっていく方針でいくわ。だから貴方も協力しなさい』


 と、中々に黒い事を言っていた。頑張ります。

 ……とはいえ結局自己紹介する間もなく、現場へと向かうことになったので当然。


「「…………」」


 現場へと向かう道中、俺達の間に会話はない。

 普通は先輩である俺から声を掛けていくべきなのだろうが……俺には躊躇ってしまう事情がある。



 ――あれは前世で初めて俺に後輩が出来た時のことだ。

 ずっと新人扱いだった俺が先輩になった。当時は嬉しかった。嬉しさのあまり少し構いすぎていたのかもしれない。仕事は勿論会社の規則や施設の使い方も一から十まで教え、仕事が遅れていたら手伝って、昼食にも何度か誘って奢って、とにかく可愛がっていた。

 けれどそんなある日のことだった。


『すみません伊藤さん……自分この仕事無理です……今までありがとうございました』


 俺にそう言った日、彼は退職した。彼が配属されてから丁度一ヶ月のことだった。

 悲しかった。けれど彼が辞めてしまったのはきっと俺の接し方が悪かったせいだ。反省した俺は次に出来た後輩には厳しく接することにした。

 けれど。


『すみません伊藤さん……自分この仕事無理です……今までありがとうございました』


 俺にそう言った日、彼は退職した。彼が配属されてからまだ一週間も経っていなかった。

 その次に出来た後輩も、そのまた次に出来た後輩も、色々と接し方を考え試してみても三ヶ月以上勤務してくれる人はいなかった。

 俺にはそんな過去がある。正直トラウマと言ってもいい程気にしている。

 だから俺は、後輩にどう接するべきなのか今もわからないままでいる。



「「…………」」



 とはいえこのまま無言が続くのはどう考えても一番最悪なパターン。

 自己紹介もまだなのでルミエナは俺のことをなんて呼べばいいのかすらもわからないと思う。

 これは仕事の為、これは仕事の為。苦手だからとかわからないからって理由で避けちゃいけない道。……よし、やるぞ。


「俺はイトーだ。よろしく頼む」


「え、あっ、はい。よ、よろしくお願いします……」


「「…………」」


 再び訪れる無言。

 ……くっ失敗だ。タイミングや内容をもっと考えるべきだった……!

 だが俺はくじけない。この子、ルミエナがいなければ受けられる仕事が減ってしまう。理想の仕事環境を得るためにもこんなところで躓いててはいけない。

 まずはお互いを知ることから始めよう。過干渉にならないようプライベートに関する話題は避けるとして……やはりここは仕事の話だな。


「ルミエナは今回の依頼みたいな仕事、やったことあるのか?」


 俺達がファルから任された仕事。それは山道の調査だ。

 5日程前に行商人が山道を通行中、突如現れた山賊に襲われ積荷を奪われる事件があったらしい。

 本来なら山賊討伐依頼が高ランク冒険者向けに山道の管理者辺りから出されるのが通例のようだが、今回はこの5日間で一件しか被害報告がないので、もしかすると行商人が『山賊による被害に遭った』と出任せを言って保険会社(山賊被害保険なるものがあるらしい)から保険料を騙し取ろうとしている可能性有りとのことで、本当に襲われたのかどうか証拠になりそうな物や痕跡を探す、というのが今回の依頼だ。


「えと……あります。あたしはついていってただけですけど……」


「いやそれでも助かる。俺は未経験だからな。頼りにさせて貰う」


 あ、しまった。

 つい頼りにしているなんて言ってしまったが、これはプレッシャーを与えてしまうのでは……。


「頼り……このあたしが頼りに……ふひっ。ふひひ」


 ……大丈夫、みたいだな。うん。

 外見が少し……いや結構暗い感じなのでその笑い方はちょっと不気味に見えてしまう。

 でもまぁ頼られるのが嬉しいという気持ちはわかる。俺もそうだしな。


「一応目的は調査ってことになっているが……こういう依頼で山賊に遭遇する可能性ってあるのか?」


「んと、それはないです。被害報告が少ない場合は大体保険金目当ての虚言か、虚言じゃなくても既に山賊さん達が移動した後かのどちらか……です」


 なるほど。まぁ少しでも危険性があるなら低ランク向けの依頼にはしないか。


「け、けど。野生動物や魔物は普通に襲ってくるかもなので、そこは気を付けないといけないです」


「周囲の警戒を怠るなってことだな。勉強になる」


「い、いえ。あたしは人から教わったことを言ってるだけでそんな……ふひふひい」


 と言いながらも凄く嬉しそうだ。微妙に身体をくねらせている。


「後は……お互いの戦い方の確認だな」


 戦闘になる可能性がある以上、これは必須だろう。

 強いらしいカマセイ君にほぼ無傷で勝てたとはいえ、俺一人で戦う訳じゃないしな。


「俺は基本的に接近戦だ。その辺の魔物の攻撃程度なら傷一つ負わない自信がある。盾にでも囮にでもなんでも使ってくれ」


「……す、すごいですね。あたしは防御には自信がないので……羨ましいです」


 おぉ……目は髪で隠れているがなんだか尊敬の眼差しを受けている気がする。

 ふふっ冒険者歴もランクも負けているが先輩らしいところを見せられたようだ。


「で、でもあたし魔術にはちょっと自信がありますっ」


 そう言ってローブの中をごそごそしたかと思うと、辞書みたいな分厚さの本を取り出した。


「それは?」


「あたし自作の組込魔術本です」


 あらかじめ本に組込魔術を仕込んであるのか。

 なるほど、これなら多種類の魔術を使い分けられる。


「それ全部で何種類ぐらいの魔術が使えるんだ?」


「えっと、今は321種類ですね」


「なっ……!」


 あまりの多さに絶句する。

 あんなよくわからない公式を含んだ魔術陣を300個以上も描いたっていうのか……。


「それ、ちょっと見せてもらっていいか?」


「……え、えっとさすがに中身は……魔術師の命なので……ちょっと……」


「ああいや、中身を見せろって意味じゃない」


 魔術は魔術陣に触れ、対応した言葉を口にするだけで体力を消費して簡単に発動する。

 故に自分で構築した魔術陣を他人に漏らすことは自分の成果を明け渡すのと同義。俺が愛用している『すぐに使える生活魔術』のように組み上げた魔術陣を公開することで商売している者もいるが、魔術を戦闘の基にしている魔術師にそんなことを頼むのは非常識というものだろう。


「ちょっと試しに術を掛けてみてほしいんだ。俺に」


「…………えっ。い、イトーさんにですか?」


「そうだ。ルミエナの実力を知っておきたい」


「で、でも危ない……ですよ……?」


「かけて欲しいのは拘束魔術だ。それなら動けなくなるだけで済むだろう?」


 これなら危険性はないし、カマセイ君に掛けられたことがある術なので比較しやすい。


「で、でもでも……しばらく動けなくなりますよ……?」


「ちょっとの間だけなら何の影響もないさ」


 今みたいな街道沿いなら魔物が襲ってくることもないだろうし。


「えと、じゃあ……い、いきますよ?」


「よしこい」


「――32ページ」


 ルミエナが本を手にしてそう呟くと、どういう原理なのかひとりでに本のページがパラパラと捲れていく。そして開いたページに手を当て。


「拘束魔術――三式!」


「ぐっ!」


 魔術が発動し、動けなくなる。

 カマセイ君のアースバインドと同じだ。身をよじろうとしても、一歩踏み出そうとしても、前のめりに倒れようとしてもぴくりとも動けない。

 ……相変わらず気持ち悪い感覚だ。


「さっき三式って言ってたが二式とか四式とかもあるのか?」


 魔術が働いている間は身動き一つ取れないので、暇つぶしも兼ねて質問してみる。


「えとはい。詳しいことは言えないんですけど、一応適正射程とかもあるので使い分けてます」


「なるほど。それは凄いな」


「そ、そですか? ……ふひひ」


 使い分け出来るってことはカマセイ君みたいに射程より近くに入られても、もっと適正射程が短い魔術に切り替えれば自爆することなく発動出来るということ。

 魔術師には魔術師なりの戦法ってのがあるんだな。


 さて、カマセイ君と戦った時の感じだとそろそろ効果が切れる頃だな。


「……あ、あれ? まだ動けないぞ」


「はい。まだまだ効果は続きます」


 ……えっ。


「い、いや俺が前に拘束魔術を受けた時はすぐに解けたんだけど……」


「えと、魔術陣によって威力は変わるので……」


 それはあれか。

 カマセイ君の拘束魔術が弱……いや、解いた時は周りが驚いていたからそれはないか。だとするなら……ルミエナの魔術がそれだけ強力、ということになるのか。


「ルミエナ、天才だったんだな」


「ふ、ふえっ!? て、てんさい……あ、あたしが……て、てんさい……ふひっ」


 あまり言われなれていないのか、だらしなく口元を緩ませる。

 カマセイ君よりも強力で、しかも射程距離を使い分けられるんだ。天才と表現してもいいだろう。



 ファルという理想の上司。

 天才魔術師の後輩ルミエナ。

 そして俺の労働力。

 これから先待っている仕事の数々とギルドの明るくブラックな未来に期待せずにはいられない。




 …………ところであと何分ぐらいで動けるようになるのだろうか。

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