恋積もる
恋積もる【こひつもる】
止まない恋心を雪に例え、降り積もり心を埋め尽くして情景を変える様子。
しんしんと、この胸に降り積もる。
あなたの後ろ姿を見る度に。
あなたの足音を聞く度に。
あなたの髪の香りを嗅ぐ度に。
あなたの体温が移った席に触れる度に。
あなたの好きなディンブラを味わう度に。
それを思い出す度に。
わたしの胸に広がる、ひとりぼっちな、どこまでも続く平坦な景色に、雪が降り積もる。白だけが広がっていく。
柔らかな雪が、しんしんと、わたしを覆い尽くしていく。
気づけば、身動きも取れなくなって。
気づけば、あなたはどこにもいなくなって。
さよなら、だけが耳の奥で、記憶の底で、何度も何度も涌いて出てくる。
しんしんと、降り積もった根雪は、けして雨になんかならなくて。涙も凍りついて流れない。
はずなのに。
はずなのに。
そんなふうに突き付けられていたのに。
泣けないと信じこまされていたのに。
根雪は降り積もって、降り積もって、その重みでさ。底から融けてしまうのだと、知ったんだ。
涙は、不意に、零れ落ちると思い知らされた。
それも、雪がこの胸を埋め尽くして。
重くて、重くて、身動きもできなくて、目をそらすこともできなくて。
逃げ出す先もわからない時に。
頬が焼けそうになるくらい、熱い雫が溢れだすと、知ったんだ。
それでも、この胸の雪景色は広がっていく。
融けた分だけ降り積もる。
あなたの仕草を。あなたの言葉を。あなたの名前を。
思い出す度に。
この胸に、恋積もる。