表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みことエッセイ  作者: 奈月遥
72/94

風虫

風虫【かざむし】

風に揺れた青葉がこすれて音が鳴るのを、虫の鳴き声に例えた未言。

かさかさ、さらさら、ざわざわ。耳を澄ませば、風虫はそこかしこ。

 ふと、だれかに呼ばれた気がして。

 振り返る。

 誰もいなくて。

 左右を見渡しても、わたしのことなんか見向きもせずに、それぞれに歩んでいく人ばかり。

 となれば、気のせいか。いつものことだ。

 そんなふうに思ったけども。

 なにか、いつもの気のせいとは違うような気がして。

 どっちにしても、気の持ちようってことにはなるけど、そこは置いといて。

 確かめようと、想う。

 まぶたを落として。

 耳を澄ませて。

 体の芯に納まっている神経を、皮膚の下に走った感覚神経から、外界へと広げていく。

 気配を探る。

 その息遣いを、見つけることで。

 わたしを呼んだものに、応えようと、心を繋げようと、自分を研ぎ澄ます。

 わたしという存在を意識してない他人たちの声。

 遠くを飛んで、わたしを通り過ぎていく鳥の声。

 けたたましく、信号と倫理で規制されながら、自己判断で発進停止を繰り返す自動車のエンジン音。

 だれもかれも、どこにもかしこにも、わたしを見てくれているものなんて、やっぱりない。

 それはさみしいこと。

 もし、同じようにだれにも意識されないものがいるのなら、わたしだけでも応えたいと思ったのだけれど。

 それは、思い上がりだったのでしょう。

 さらけだした神経と自意識をしまって。

 疲れた心を、酷使してたまった熱を、溜め息で吐き出して。

 歩き出そうとした、その瞬間に。

 呼ばれた。

 空を見上げる。

 いいえ、正確には、わたしよりも背の高いものを。

 青々として瑞々しい、今にも綺麗な純水の雫を、爽やかな吐息といっしょに溢しそうな、樹木の葉が。

 風にこすれて鳴っている。

 わたしを呼んだそれは、その葉をすり抜ける時に、音を鳴らして、気配を送っていたの。

 それは、吹けば消えてしまうもの。

 それは、大気と一体にして大気そのもの。

 それは、風。

 虫のように、葉を揺らして、気配を感じさせるもの。

 風の虫は、たった一瞬だけしか存在しなくて、けれどその一瞬には確かに存在している。

 その風虫が葉を揺らす音を、聞いた時。

 わたしは確かに、その風虫の存在を世界に実在させた。

 それを人は発見という。

 ああ、よかった。

 風虫、わたしは、あなたが確かにそこにいるのを、知ったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ