表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みことエッセイ  作者: 奈月遥
62/94

翠月

翠月【みづき】

月のように明るく、翠の光を放つことから、螢のこと。

また、「水祈」――水の周りで祈るように光ることも語源になっている。翠月虫とも言う。

 紅い月は異世界の門を開くと言う。

 碧い月は幸運を降らせると言う。

 それなのに、翠の月は聞いたことがない。

 白い月は寒い夜空に冴え冴えと輝く。

 黄金の月は秋の実りをとろりと照らす。

 それでも、翠の月は見たことがない。

 それは現実にはないのだろうか。

 翠に透き通る月を思い浮かべる。

 幻想に包まれたその月を。

 その瑞々しい光を浴びて、祈る乙女の頬を伝う滴を。

 夜の暗がりに、乙女の頬を照らすことができるのは、月明かりだけ。

 なのだろうか。

 あの、美しい滴に光を宿せるのは、月だけだろうか。

 夜を照らすほど灯りを氾濫させるのは、月だけだろうか。

 そんなことを考えていたら。

 耳の奥で、川の音が記憶に残響する。

 林の横を流れる小川に沿って、サンダルで砂利を踏みしめた感触が蘇る。

 雲が月を隠し、夏の湿気った空気は一様に漆黒の闇に沈んでいた。

 そこを、ちらっ、ちらっと。

 翠の光が過ぎ去った。

 夢中で目で追ったのを覚えている。

 川の流れの上を、すべるように灯っては消える翠の光と、川にかかる草陰に潜んでじっと光る翠の灯火と。

 呼ぶ光、誘う光。

 光は声で。

 祈りのようで。

 その翠が瞬く度に、その周りが浮き上がる。

 ふと、手を伸ばし。

 指を差し出したら。

 その爪が翠の透き通った光を跳ね返した。

 翠の月は、空ではなくて山の中にあった。

 翠月は、水辺で祈りのように愛をささやいていて。

 はと、現実に戻ったら。

 夏が来たら。

 キミとあの翠月を見に行こうと思ったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ