月の環
月の環【つきのわ】
繊月に稀に見られる、月の輪郭に沿って光る環。
わたしは月の環を結婚指輪にほしいです。
二日月の繊月は、わたしの誕生を見守ってくれた。
細く細く可憐な姿、それでいてはっきりと光るその姿は鋭く、まっすぐに目に映る。
夕方のまだ早い時間、春でもまだ明るい頃に、もう西に傾いている。
その姿をずっと見つめていると。
さっきまで欠けていたその姿、先端と先端は離れていたのに。
つつっ、とその切っ先が伸びていって。
ほんの少しの時間、帰り道を歩いている間に、両端が結ばれて、環になった。
エンゲージリングに見えた。
黄金の環、現れるかどうかもわからないその姿に。
それを贈られたなら、その絆と約束が永遠だと信じられる。
二日月は透明の月。純粋で、ありのままに世界を感じて、自分の世界に生きる存在。
それでも、なぜ繊月は環になったのか。
いつでも、というわけではなさそうで。
妖精が来たのか、世界がつながったのか。
その月の環に添うように、左手を掲げてみる。
その光が薬指に絡まったように思えた。
月の環を、手のひらに握り込んでみる。
開いても、なにもないけれど。
いつか、確かなものが、きっと。
この手の中に、もしくは、この胸の内に。