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【秘音言⑤】
わたしは、日本古来の色が好きです。
細かく細かく、自然に溢れた色をひとつひとつ大切に名前を付けて。その名前にたくさんの意味を託して。
歌に詠み込み、染めて見せて気持ちを伝えて、四季折々春らしく夏らしく秋らしく冬らしく装う。
そこに、自然への愛を感じるのです。
そこに、自然への尊敬を感じるのです。
そこに、自然への親しみを感じるのです。
空を淡く染める鴇色が好きです。
指に残る葡萄色には、愛の切なさを感じます。
海松色はどこかおどろおどろしいけれど、同じくらい野生の生命力が見えてくるようです。
月代の姿は、本当に有明の空にくっきりと、あるいは儚く浮かび上がり神秘を醸し出します。
漆黒の器は、なんとも注がれたこづゆを美味しそうに引き立てるのです。
どんなに語っても語り尽くせない色が、日本には受け継がれているのです。
どうですか。時には、赤とか青とか、そういうのではなく、桜色や空色が好きだって、言ってみませんか。




