雫簾
雫簾【しづくすだれ】
屋根から水滴が簾のように落ちている様子、もしくはその雫のこと。
特に雪が融けてずっと絶え間なく滴るものを言う。
冬も去る頃、春の咲き頃に。
屋根に残った雪はすっかり柔らかさを失って、代わりに透明感を増して。
夜となく昼となく、ぽたぽた、つつ、と融けた雪水が屋根から滴り落ちてくる。
時には線として。
時には珠として。
その姿は取り留めもなく。
冬の眠りを覚ますように、雪滴が地面を叩く音が絶え間なく、耳を刺激する。
屋根の端から端まで、雪垂れの粒は肩幅ほどの隙間も作らず。
くぐれば否応なしに濡れてしまうだろう。
肩に落ちればジャケットが雪の名残もはじかれて、手で払えばなにもなかったように済ませられるけれど。
頭に落ちれば髪に沁み込み、融けて尚、冬の冷たさで攻め立てる。
一歩踏み出せば呼び鈴を鳴らせるのだけど。
その一歩を、どうにもためらってしまう。
雪解けの滴が、はっきりと境界を区切っている。
それはまるで。そうそれはまるで。
ただ垂れ下がってるだけで、その奥を覗くをためらわせる、パーソナルスペースを守る呆気ない境界を造るもの。
簾。
透明な雪の雫は奥を隠すこともしないけれど。
そこを静かに守る。
眠りを抱く冬の名残、その役目を融けて後もやり通す。
やはり、雪とは冬の化身であるらしい。
雫簾を通って。
冬の支配をくぐり抜けて、友に会いに行こう。
冬も去る頃、春の咲き頃に。




