表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みことエッセイ  作者: 奈月遥
54/94

雫簾

雫簾【しづくすだれ】

屋根から水滴が簾のように落ちている様子、もしくはその雫のこと。

特に雪が融けてずっと絶え間なく滴るものを言う。

 冬も去る頃、春の咲き頃に。

 屋根に残った雪はすっかり柔らかさを失って、代わりに透明感を増して。

 夜となく昼となく、ぽたぽた、つつ、と融けた雪水が屋根から滴り落ちてくる。

 時には線として。

 時には珠として。

 その姿は取り留めもなく。

 冬の眠りを覚ますように、雪滴が地面を叩く音が絶え間なく、耳を刺激する。

 屋根の端から端まで、雪垂れの粒は肩幅ほどの隙間も作らず。

 くぐれば否応なしに濡れてしまうだろう。

 肩に落ちればジャケットが雪の名残もはじかれて、手で払えばなにもなかったように済ませられるけれど。

 頭に落ちれば髪に沁み込み、融けて尚、冬の冷たさで攻め立てる。

 一歩踏み出せば呼び鈴を鳴らせるのだけど。

 その一歩を、どうにもためらってしまう。

 雪解けの滴が、はっきりと境界を区切っている。

 それはまるで。そうそれはまるで。

 ただ垂れ下がってるだけで、その奥を覗くをためらわせる、パーソナルスペースを守る呆気ない境界を造るもの。

 簾。

 透明な雪の雫は奥を隠すこともしないけれど。

 そこを静かに守る。

 眠りを抱く冬の名残、その役目を融けて後もやり通す。

 やはり、雪とは冬の化身であるらしい。

 雫簾を通って。

 冬の支配をくぐり抜けて、友に会いに行こう。

 冬も去る頃、春の咲き頃に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ