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みことエッセイ  作者: 奈月遥
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硝子水

硝子水【がらすみづ】

炭酸水、特にラムネやサイダーのこと。

喉に硝子が突き刺さるような痛みがあって刺激的ですね。

 暑い暑い真夏の太陽が、強く強く陽射しを突き刺してくる。

 吹き出る汗もそのまま蒸発してしまいそうなほどの熱気が、体も心も責めたててくる。

 その熱気はアスファルトの上で世界を歪めて、目に見えるほど。

 耳の裏に違和感があって、こすればざりざりと塩が削れた。

 空は青く高く、果てしなく。どこまでも灼熱の陽射しを遮るものはない。

 入道雲は山の向こう。雨は期待できそうもない。

 このまま茹ってしまったら、日射病で倒れてしまいそうだ。

 そんな中で、見つけた駄菓子屋はオアシスにも思えた。

 店先の水が溢れてる水槽で、ジュースが冷やされている。

 迷わず手を伸ばしたのは、懐かしい瓶。

 濡れた瓶は、つるりと光を滑らして、硬質な冷たさが手のひらから体温を奪っていく。そのまま心臓から吐き出される熱も吸い込まれていくようで、快い。

 中指と薬指の間に瓶を引っかけてお店に入ると、しんとした蔭りと古めかしい埃と木の香りが、冷房もないのに、ものすごく涼しさを感じる。

 ほっと息を吐き、すっと懐かしい香りを吸い込んだ。

 お店の奥に隠れてたお婆ちゃんに、小銭を払って、また真夏の空の下へ。

 飲み口のビニルを破り、乗せられたプラスチックの玉押しを押し込む。

 しゅわ、っと泡が噴き出して、手にまとわりついた。

 べたべたするけれど、それが不快にならないくらいひんやりと手の熱が奪われていく感触が気持ちいい。

 瓶に口を付けて、ひと息にあおる。

 ごくっ、ごくっ、ごくっ。

 喉を鳴らす度に、痛みが走る。

 硝子の破片が喉を通るような、鋭い痛み。

 氷にも似た冷たさが喉を苛む。

 炭酸が弾けて、突き刺さるような感覚が。

 痛くて、痛いけれど、爽やかで。

 ひと息に飲みきって、溜まった息を、かふっ、と吐き出した。

 痛みが、爽快な気持ちよさを何倍にも引き立ててくれた。

 纏わりつく暑さと汗ばんだ気持ち悪さが、取り払われる。

 硝子水の、その刺激が、うだって曖昧だったわたしの意識を目覚めさせて。

 ああ、空が青くて、美しくて。

 世界が爽やかな景色に塗り替えられた。

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