涙星
涙星【なみだぼし】
①流れ星を頬伝う涙に例えた未言。
②涙で滲んだ星灯りのこと。涙月という類語もある。
世界は、それを見る眼によって、在り方を変える。
ヒトの眼に映る世界。多くの人が知る世界。
サカナの眼に映る世界。湾曲した視界に空が納まる世界。
昆虫の眼に映る世界。たくさんのセカイが並べられて映る世界。
トリの眼に映る世界。空高くから果てしない地上を見降ろす世界。
ネコの眼に映る世界。動くものだけが鮮明で、風景がぼんやりと包まれる世界。
世界は、それを見る眼によって、在り方を変える。
裸眼では歪んで霧がかかったかのような世界、眼鏡がその輪郭を明確にした世界。
サングラス越しに色づいた世界。
ビニール傘を見あげて、水滴が重い雲を閉じ込めた世界。
レースのカーテンに透けて、夏の陽射しも柔らかく、爽やかな世界。
世界は、それを見る眼によって、在り方を変える。
夢に満ち溢れた青春の眼に映る、どこまでも飛んでいけそうな青空。
ひとりぼっちで歩く中で眼に映る、重苦しい雲から落ちてくる鈍色の雪。
はじめて海に潜って興奮した眼に映る、色鮮やかな魚たちと透き通った海、楽しげに揺れる泡。
明日もどうなるか分からない目に映る、今にもこの身を飲み込んできそうな濁った海、恐ろしげにざわめく波。
涙に映った星。瞬きは乱反射して、なおさらまぶしくて。
涙に映った星。一緒に零れ落ちて、瞳から消えてしまって。
涙に映った星。失った恋のように、なにもわからない。
そんな涙星を、小さなガラス瓶に受け止めて。
栓をして、いつまでもその瞬きを封じ込めておけたら。
きっと、その涙星は、ことあるごとに。
わたしにはげましをささやくでしょう。