燈し路
燈し路【ともしぢ】
帰り道にそって淡々と街路灯が点り、それが家まで続く様子。
*檸檬月Ⅱにて、百嶺ちゃん(@mikagemone )がつくってくれました。
もう誰もいない帰り道を、等間隔に並んだ外灯が照らしている。
駅から線路沿いに、一本裏に入って家が静まり返った道にも、それから抜け出た先の車通りの多い道にももちろん、どの道を通っても光が止むことはない。
外灯の降ろす光の幕の隙間で、夜闇を息継ぎしながら歩く。
かつては、この世あらざるものが潜んでいた丑三つ時でも。
今は、不審者一人隠れることを許されない。
仕事終わりのアルコールで疲れ切った意識をなんとか繋ぎ止めて、あと数分歩けば到着するはずの家路を進む。
いまさら急ぐこともなく。
機械的に足を前に出す。
がさり、と。
緩みきった意識へ聴覚が注意を促す。
茂みからの物音は、住宅の生垣で身動ぎしていた。
じっとそこへ視線を注ぐ。
ほんの数秒も経たないうちに。
耐え切れなくなったそれが、外灯の隙間を縫って駆け出そうとした。
暗がりにまぎれるような、黒い猫。
月と星ばかりが燈る時代であれば、それは実体のわからない怪談にもなれただろうけども。
この燈し路の中では、なんのことはない、小さくてかわいい黒猫でしかなかった。
慌てて駆け去るその後ろ姿を見送って。
また別の生垣にひそんでこちらを恐る恐るうかがう瞳に、気づいてないふりをしてみせて。
また家に向けて足を踏み出す。それまでと同じように、勝手に足が動いて、周りに意識を向けずに帰る、そんなふりをする。




