挟空
挟空【はさみそら】
ビルとビルの合い間に見える空のこと。
ビルに挟まれた空。
*檸檬月Ⅱにて、百嶺ちゃん(@mikagemone )がつくってくれました。
ビルの乱立するこの都会に、空なんてあるはずもない。
そう思っていた。
地面はアスファルトの灰色。
ビルは汚れたコンクリートの灰色。
見上げれば排気ガスがもやがかって灰色。
色がない街だ。
白でもなく黒でもなく、はっきりとしない色ばかり。
出来の悪い夢みたいだ。起きればなくなる。起きるまではとらわれたまま。
川を流れて行く木の葉のように。
時の流れに揺られてどこかへと、死だとか、孤独だとか、そういったところへ行きつくのだろう。
そう思っていた。
そう思っていたのだ。
またひとつため息を吐き出し、昔からのクセで空を見上げる。
故郷ではそうして澄み渡った青空を見詰めることで、心も晴れ上がったのだ。
期待でもなく、諦めでもなく、惰性でその動作を、過去の自分をなぞる。
その日は風が強かった。
その日はいつもより遠くへ来ていた。
その日は、少しだけいつもと違った。
その日、ビルの隙間にある空は、青くて高くて、吸い込まれそうになった。
挟空、その直立するビルがレールになって、意識がまっすぐに空へと加速されて放たれた。
空は、どこでも同じ空だった。
使い古されたその言葉が、使い古される訳が、少しだけわかった気がした。




