恋告月
恋告月【こひつげつき】
告白したその日の月。
その二人だけの特別が、月に一度やってくる。
更待月を眺めては。
雲の切れ目から、細い姿を見せる更待月を眺めては。
星も黙るような静寂と夜闇が深まる中で、しずしずと光を落とす更待月を眺めては。
誰もいないこの公園で、花壇の縁に腰かけて、片膝を抱えて、自分の呼吸だけを聴いて、そのたびに白く揺れては消える息が外灯に照らされながら、更待月を眺めては。
眠れぬ夜を過ごしてる。
あなたはあの月の下で、お元気ですか。
あなたはあの月の下に、いるのでしょうか。いるのですよね。
あなたの息遣いは、まだこの耳に残っています。
あなたの体温が、まだこの手に感じられる気がします。
あなたの笑顔は、もうまぶたを閉じても、この物覚えの悪い頭の中のどこを探っても、見つかりません。
それでも、追憶を辿ってこの月に逢おうと思ったのは。
あの日の月に逢いたかったから。
ささやかれる言葉を。懸命に命に書き留めて、忘れそうになって、慌てて手帳に書き込んで、何枚も何枚も増やしていったあの一言を。
いや、一言というには長いのだけど。でも言葉にすれば六十秒もかからないその言葉を。
月が運んできてくれる気がしたから。
あの月は、あの日の月ではないのに。
今日はあの日の焼き直しではなく、今日という、確かに唯一の一日なのに。
だから、恋告月。覚えていて。
あなたがあの日の月ではなくても。あの言葉を聞いた、約束の証明人でなくとも。
今日、わたしが、またあの日を思い出し、その痕を確かめ、そしてこれから生きていくのを決めたこと。そんな今日を見た証人となって。
恋告月よ。わたしは明日を生きていく。




