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みことエッセイ  作者: 奈月遥
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星凪

星凪【ほしなき】

日が落ちた直後、空は薄暗いが星も月も見当たらない夜空。

街頭が多い都会や明るい建物から出た直後に起こる現象。

 気が付けば、辺りは薄暗闇の中にあった。

 この間まで、この時間帯はまだまだ日が高かったはずなのにと思いながら。

 その、この間、っていう時期がいつだったのか。

 思い返してみる。と。それは。

 もう一月も前のことを考えていたと気付く。

 その間の夕刻はどこにあったのか。確かにその時を過ごして、ここに立っているはずなのに。

 その、一月前のこの間には、太陽の光に目をしかめた空を見あげれば。

 人工の光。ビルの窓から漏れる蛍光灯。街灯のLED。客引きのイルミネーション。

 これはこれで、まぶしい。

 その人光の先にある夜闇には、星が――。

 そこには、星があるはずなのに。

 もう少し時間が遅れたら、夏の大三角が西に傾いているのを昨日も見たし、その後には天馬の体が空を横切るのも知っている。

 空は確かに、緩やかな黒を、もしくは濃紺を、浸しているのに。

 そこには星の瞬きはなかった。

 いいや、ないんじゃない。星は昼間でも空の彼方にある。ただ、太陽という桁違いな輝きがそれらを飲み込んでいるだけで。

 だから、これは。

 人が求めた安らぎが。人が求めた快さが。人が求めた人に適した環境が。

 それを具体化された、この人工の光の氾濫が。

 星に反乱したのだ。星を駆逐したのだ。

星を人の瞳から奪い去ったのだ。

 星は、凪いでいる。

 過去の生命の亡骸を、その果てを、地面の下から暴き立て、燃やした光で。あるいは、星が弾け飛ぶ瞬間に生まれた原子を掘り起し、封じ込めて得た光で。あるいは、河川の摂理を歪めて、その下流にある生態系への恵みを調整して、そうして奪った水の流れで作った光で。

 人は、瞳から星を奪ったのだ。

 星凪の空、星は唄わず、星は泣かず、星は瞬かず。

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