雨花
雨花【あまばな、うか】
雨が水面にあたって開く波紋を、花に例えた呼び方。
しとしと。
さらさら。
春に続く長雨は、眺めのどこまでも雨浸しにしてる。
道も、空き地も、玄関先まで。
浅く、排水路へと流れて行くせせらぎ。
どこにも乾いたところがなくて、雨が張ってないところがない。
そこに、ひたすら、絶え間なく雨が降り続ける。
しとしと。
さらさら。
天から降る雨が、地に注いだ雨と出逢うたびに。
雫が、波紋を開く。
開いた紋は、同心円で大きく咲いて。
咲いた円と円が、出逢い、その形を変えて。
なめらかな、曲線が描く妙なる紋様は、まさに花のよう。
雨が降って、降って、降り続けて、世界を満たして。
そうして雨が普く世界で。
その先の雨と、後の雨とが、境界で出逢うたびに。
縁を紡ぐたびに、円を描く。
その円が、また別の円と縁を結んで花となる。
雨の花。
咲いては閉じる、刹那の花は。
摘むことなどできなくて。
触れることもできなくて。
愛でようと指で撫でれば、それは花を散らして、新たな花を咲かす。
不思議で不思議な雨の花。
雨花は、手折って持っていくことは叶わないから。
ねぇ、あのね。
わたし、いっしょに、この美しい花を見たいと思うの。
けれど、どうしても。摘むことも、手折ることも、掬うこともできないの。
だから。
どうか、あなた、ここまで。
ここで、いっしょに、天から降る花を愛でましょう?




