上光
上光【かみみつ】
雲の上から透ける太陽や月の光。
古くは平安から、誰にも知られない密かな恋心を、氷の下で人知れず流れる下水に例えてきた。
どんなに隠そうとしても、溢れ出てしまう恋心を上光に例える。
記念すべき、ひとつ目の未言です。
ちょうどこの頃、古今集を読んでいて。
やはり、わたしは古今集のたをやめぶりというか、情景に心情をかさねる表現が、好きなのです。
その中で、たびたび出てきてとても気になった言葉が「したみづ」――「下水」、冬に張った氷の下を流れる水。誰にも気づかれない、誰にも気づかせない、けれど確かに胸の奥で流れて溢れそうになる想い。
なんて、美しい言葉なのでしょう。
透明な氷の奥で人知れず流れ続ける、絶え間ない想いは、なんて尊いのでしょう。
そして同時に、なんてさびしいのでしょう。
気づかれないのに、止まることがないなんて。だれもその溢れそうに逸る気持ちの行き場を用意してあげないなんて、あげられないなんて。
そして、気づかれずに隠された想いがあるなら、隠してもどうしても気づかれる想いもあるものです。
例えば、ついいつも追ってしまう視線とか。
例えば、一人にだけ明らかに違う態度になってしまうとか。
例えば、ノートの端を埋め尽くしてしまうほどに名前を書いてしまうとか。
そんな微笑ましくて、希望に満ち溢れた想いの火照りを。
雲に隠されても差し込める光に譬えて。
上光と、その溢れる煌めきを呼ぼう。