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指し染む
指し染む【さしそむ】
果物の汁などで、指先に色が付着すること。特に、水で流しても色が落ちない時に使う。
深く、深く、愛のように深く、蘇芳にも似た色に熟した巨峰の高貴なこと。
その一粒、一粒を、指でなぞる。つるりと、すべらせる。
それから、そっと、人差し指と親指で摘まんで。
すこし力をいれて、房から取り離す。
そっと、裂けて濡れた中身を覗かせる皮に、口付けて。
ちゅるっ。
やわらかな実を吸い込み。歯を立てて。小さく噛み、ごくり、飲み込んだ。飲み込んでしまった。
残った皮を、唇に当てたまま、指を押し込めば、めくれて。
皮の内側にこびりついた、甘い残滓を舌で舐め取る。
この皮にあまったのが、いちばんおいしい。
そして、皮が人差し指に絡みつく。
親指でこすって、はがして、捨てる。
その痕に。
葡萄色に染まった指先。
そのまま唇に這わせて、唇をなぞったら、その色が唇に移るような気がして。
でも、指の色は、すこしも褪せてはいない。
ああ、この一粒に奪われて、指し染められた。
この色に、あなたの唇も、わたしが染めたい。




