雨奏づ
雨奏づ【あめかなづ】
雨が傘や屋根、地面などを叩いて音を出すこと。
小雨奏づ、秋雨奏づなどとも使える。
もうずいぶんと降り続ける、この長雨は。
いつもは遠くまで見える窓の、この眺めを。
白く、黒く。灰に濁して、透明に重ねて。色彩を洗い流して、景色を淡くしていく。
もうずいぶんと降り続ける、この長雨は。
いつもは近くに聞こえる子供たちの、あの声を。
遠くに追いやって。ただひたすらに掻き消していく。絶え間ない轟きで塗りつぶしていく。
そうしたら、この窓のこちらがわ。
ひとりぼっち。きっと、ひとりぼっち。
ざあ、ざあ、と。
ざあ、ざあ、と。
鼓膜に降る雨が、わたしを追い立てる。
たっ、たっ、と。
たっ、たっ、と。
木の葉から零れ落ちる音が、眠りに逃げようとするわたしを起こしてくる。
落ちるように、滝のように、まっさかさまに、途絶えることのない、この長雨の、その細くて、降れれば砕ける、そんな、なんの拘束力のない、そんな、なにも責めてなんかない、この長雨の檻の中で。
わたしが勝手に造り出した、この長雨の檻の中で。
果てしない空を想う。自由な空を。
そこに向かおうとしないのは、わたしなのに。
なのにさ。
こんなふうに、こわいものと決めつけている、わたしに。
雨の隙間から、声が聞こえる。
雨の間奏に、声が聞こえる。
だから、窓を開け放ったら。
ひたすらに、とどまることのなく、雨奏づ。




