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終沫と
終沫と【しゅうまつと】
「人魚」や「失恋」にかかる枕詞。
終沫と、恋を失って、人魚姫は消えていった。
叶わない恋を捨てて、消えていった。
姉たちが届けてくれた短剣も捨てて、消えていった。
海の中で吐き出された泡のように、儚く消えていった。
鯨が吐いた泡沫も、ゆっくりと浮かび上がって、海面に触れた途端に消えていった。
そしたら、そこに泡沫があったことなんて、だれにもわからなくなる。
そしたら、そこに泡沫があったことなんて、だれもが忘れ去ってしまう。
もう、そこには、なんにもない。
そう、なんにもないはずなのに。
終沫と失恋のはじけて消えた、この心は、どうして。
どうして、こんなにも、痛いのですか?
この痛みは、いつになったら、泡のように、消えて、なくなるのですか?
もしくは。
あなたが、その吐息で、新しい泡を吹きこんでくれたら。
この痛みは、愛しさにまた変わるでしょうか。




