10/94
山駆けの
山駆けの【やまがけの、山駆ける】
「箱根」や「駅伝」にかかる枕詞。
今年は、箱根駅伝にわたしの母校が初出場した。
天下の嶮を駆ける青年の躍動。
迸る情熱を足に伝えて、走り続ける。
その中で、トップ争いに食いついていたのに、足を止めてしまった選手がいた。
息も絶え絶えに道路に崩れ落ちて、しかし、また立ち上がった。
懸命に全身の力を掻き集め、振り絞り、足を奮い立たせる。
遅くとも、一歩を踏み出し、また足を踏み出し、踏み出し続けて、また山を駆ける。
他の選手に抜かれながらも、最後まで走り切り、ゴールを越えた。
その直前で、何度も倒れかけて、地面に手を突きながらも、ゴールを越えた。
なんて、勇ましい姿だろうか。
最後まで諦めずに、仲間のために襷を繋いだ。
仲間は走り切って倒れた戦友を、大切に抱えて運んで行った。
友情とは、絆とは、この姿を指して言うのだろう。
そして、遅ればせながらも、わたしの母校がゴールへ辿り着いた。
ゴールを越えて、来た道を振り返った。
背筋を伸ばし、一礼。
山駆けの箱根には、青年の雄姿が刻まれている。




