「突撃!! 迎撃!! 大乱戦!!」
~~~ハチヤ~~~
乗り物での長距離移動中には敵に襲われるのがRPGのお約束だ。魔導列車での旅は、当たり前だけど平和なものとはいかなかった。連戦に次ぐ連戦。強敵に次ぐ強敵との戦闘と相なった。
だけど今回はこちらの戦力が素晴らしく整っていた。なにせ世界喰らいとの死闘や悪役同盟のトレインを乗り切った、あの結婚イベントの時の面子がそのまま集まったのだ。
FLCでも選り抜きの精鋭たちの前では、ちょっとやそっとのモンスターなど恐るるに足りない。ひとりの被害者も出さずにてきぱきと排除され、俺たちのPTはぶっちゃけほとんど観戦していただけだった。
マドロア地下の隠しプラットフォームで列車を降りると、すぐに広場に行き着いた。
至るところ鉄骨がむき出しになり謎の煙が噴き上がるスチームパンクなデザインの広場には、すり鉢状に階段が設えられていた。
そこには俺たちを見下ろすように機械兵がずらりと待ち構えてて、そしてそして――
「やーやーやー!! 北の果てまではるばるようこそ!! ヒーローズユニオンの諸君!!」
とってつけたような恭しいしぐさで、男は一礼をした。
丸耳族の男。歳の頃なら30半ばといったところか。根元の赤い金髪に眼帯、無精ひげがうさん臭さを醸し出していた。
黒のパンツに皮鎧、分厚いコート。腰には黒地に銀の装飾を施した一発銃が2本。
職業は銃士。
「……ぬばたまの、遥けき深みより生じた一粒種。人呼んで隻眼のギーラ。もしくは――機軍総督ギーラと申します」
「悪党め、黙りなさい!!」
魔法少女に変身したアンバーが、鳥頭の杖をびしっと突き差す。
「ここで会ったが百年目!! あんたの悪行も今日でおしまい!! 大人しく縛につくならよし!! つかないならば……」
「……つかないならば?」
ギーラは肩を竦めた。
「――皆殺しよ!!」
アンバーは堂々と宣言した。
「いやちょっとおまえ……握り拳して言うことじゃねえよそれ。どっちが悪党だか……」
傍らのバドが引き気味の声を出す。
機械兵が「ギギ……?」「ガガ……?」と騒ぎ出す。
「うっさいわね!! 力こそ正義よ!! 勝った方が正しいのよ!!」
「どうしてそんなコになっちまったんだおまえはぁ……」
頭を抱えるバドと、鳥頭の杖を振り回して気勢を上げるアンバー。
若いカップルの微笑ましいやり取りに、周囲から囃し立てるような声が上がっている。
「あっははは!! いいぜいいぜ!! その意気だ!! おまえ話がわかるじゃん!!」
牙を剥いて笑ったイチカが先陣切って突撃していく。
「ちょっとちょっとイッチーちゃん……」
群がってきた機械兵からイチカを守るようにサーディンが続き、パナシュとメイルーがそれを援護し、そして――大乱戦に突入した。
「バカかー!! せっかく陣形整えてから仕掛けようと思ってたのに、これじゃ台無しじゃねえかー!!」
「うるっせえよハチコー!! そこの嬢ちゃんも言ってただろうが!! 力こそ正義なんだよ!! ぶん殴ってぶち倒して勝てばいいんだよ!!」
「そーそーそー!! お姉さん話がわかるー!!」
「脳筋シスターズは黙ってろっての!!」
「……ったく」
手近な機械兵を攻撃しながら、俺はぼやく。
「いやー壮観ですねえー!!」
手庇しをしながらルル。
「こーゆうのを見ると、なんかこう……うずうずしてきますね!! あれですか!? ひさしぶりにドシッとしたのいっときますか!?」
「目ぇきらきらさせて言うこっちゃねえよ!! ひさしぶりにガッツリ食っときますかみたいに言うこってもねえよ!! そもそもこんなに敵が密集してる状況で、トレインも何もあったもんじゃねえよ!!」
「なんなら他エリアから連れて来てもいいんですよ!? 特盛りドーンですよ!? メガ盛りドドーンですよ!?」
手をがばっと広げてルル。
「なにがおまえをそこまでさせるんだよ!?」
「いーいじゃないですか!! これがルルの生きがいなんですよ!! 生きた証なんですよ!!」
「そんな存在証明はいらん!!」
トレインを誘発させることに生きがいを感じる嫁っていうものなんだかなあ。
俺の心労をよそに、戦況はこっちの優勢に動いていた。
なにせ百戦錬磨のヒーローズユニオンだ。迂闊に範囲魔法すら打てない乱戦の中にあっても的確に衆を成し、壁を作り、一体一体確実に敵を葬っていく。
「……こりゃすげえ。ほんとに出る幕ないなあ……」
「ほらコースケ!! しょぼくれてないでどんどんいくぞ!!」
コルムが笑いながら弓技を連発している。
アフガンハウンドの聖騎士バクさんが、コルムを機械兵から守っている。
「いや別にしょぼくれちゃいねえけどさ……」
いつもこんな顔だけど……え、なに、いつもしょぼくれてるってこと?
「こーくん頑張って!! みんな見てるよ!!」
俺の耳元に降りて来て騒ぎ始めたのは、とーこ扮するピンク髪のガイド妖精のチャコだ。
チャコはみんなを督戦し、今日も今日とて動画の生配信を行っているのだが……。
「個人的な応援は厳に慎むように……」
「あ……いけない」
俺の指摘に、チャコは慌てて口を塞いだ。
「また坂崎さんに怒られる……」
周囲をきょろきょろしながら、でもこっそり囁くような声で「がんばってね。こーくん」とハートマーク付きのつぶやきを残して飛び去った。
「……っ」
その後ろ姿を目で追いながら、俺は一瞬言葉に詰まった。
涙にしてもとーこにしても、形的には俺が彼女らをフッたことになってるはずなんだけど……なんかあんまり前と変わらないというか……むしろ心なしか、攻撃力が上がって来てるような気がするんだけど……。
小巻が話しかけてくる機会も最近やたら増えたしなあ……ううーむ……。
「どうしたんですかー? あるじ様ー?」
バクさんの援護をしていたルルが、戻って来るなり不思議そうな顔をした。
「あー……えっと……」
なんとなくへどもどしていると、広場に轟音が轟いた。
――ドズン。
凄まじい銃声が鳴り響いた。
まばゆい光が戦場を貫いた。
「あれが絶命銃か!?」
「ジェイク卿が一撃で沈んだぞ!! マジかよ!?」
「必中即死技とかどういう了見だよ!!」
「クソゲー反対!! 戦力の不均衡反対!!」
「うおお、シュプレヒコールを上げろー!!」
驚愕と興奮が広がる。
絶命銃を撃ったのはギーラだ。銃口から煙を上げるそれを投げ捨て、次のを構える。一発銃だから都合ふたりにしか被害者が出ないのがさいわ……あれ?
もう一発を撃った後、ギーラはばさりとマントを広げた。
その内側には、びっしりと吊るされた何十丁もの絶命銃があって……。
「……あの銃のいいとこってさ、それ以上被害が広がらないところだよな。HP半分になったら~系の迷惑スキルが発動する隙が無い」
「シニカルなご意見ですねえ……」
「……そういうゲームだから仕方ねえんだよ」
こんな密集状態で、周囲のキャラごと強制的にテレポートさせちまう極限状況強制転移なんかくらってみろよって話。そっちのほうがダメージとしては遥かにデカい。
「とはいえどうするか……」
ギーラは絶命銃を一丁撃っては捨て、一丁撃っては捨てを繰り返していく。銃の数だけ被害者が増えてく。
あちこちのPTから悲鳴が上がる中、ひとりだけ冷静な人がいた。
「『永の軛の指輪よ。我は呼ぶ。其の名を呼ぶ。其は真名であり忌名である。――ギーラ』」
ギシィッ。
音を立てて、ギーラの動きが止まった。
「……へっ」
にたり……、モルガンが悪い笑みを浮かべる。
「あれボスキャラにも効くのかよ!?」
「つくづくえっぐいアイテムですねえ……」
俺とルルがどん引く中、モルガンは腕組みして傲然と顎をしゃくった。
「――さ、あんたら。いまのうちよ。やってしまいなさい」
あんたのそれは何ポジションなんだってのはともかく、
「うおおおおおおおおお!!」
「一気に畳めえええええ!!」
「一番手柄じゃああああ!!」
動けないギーラに向かってヒーローズユニオンの面々が殺到した。
と、その動きが一斉に止まった。
――ウオオオオオオオオオンッ!!
ミスリル機械兵がギーラの前に立ちはだかった。
ヤスパールに似た印象の、長髪の女性タイプ。名前はメリダ。武器は所持せず、両腕にくくりつけたバックラーを前面に向けている。
バックラーにはスパイク代わりの顔が刻まれている。左右ともに獅子。鋭く牙を剥いた双頭の獅子が、勇ましく口を開けている。
物理効果を及ぼすほどの音波兵器。そいつが正面広範囲に向かって吼え声を発している。
「ぐううううっ!? なんだこりゃあ!?」
「う……ごけねええええ……!?」
「足が……足があぁああああ!!」
範囲内にいた全員の動きがとまった。足をその場に縫い付けられ、一切の行動がとれないでいる。
「……範囲バインドプラス恐慌とかチートすぎるだろおい」
「チート具合でいったらこっちも負けてませんけどねえ……」
あはは、とルルが笑う。
「防御魔法がー!?」
「歌の支援効果がー!?」
「オレの剣から輝きが……消えた!?」
なんて言葉も聞こえてきた。
「強化魔法ブレイクまであんのかよ……」
「……なんだか、ひどい目にあってるはずなのにみんな楽しそうな感じなんですけど……」
「あー、わかるわかる。アクシデントや理不尽に慣れすぎて感覚がマヒすると、最終的にはそれが快感になったりするんだよ。『ぐぎゃー!?』とか『うぎゃー!!』とか、ああいう悲鳴あげるの楽しいんだよ、意外と。滅びの美学というか……」
「訓練されたプレイヤーってやつですか……」
そうそれ。そんなやつ。
そうこうしてるうちに、モルガンの指輪の効果時間が切れた。
再びギーラが動き出す。
「モルガーン。早く次を……ってあんたもかよ!!」
モルガンまでも、メリダの盾の効果範囲に巻き込まれていて動けないでいる。
「ありゃりゃ……これはけっこうピンチ……ですかねえ……?」
俺はため息をつくと、こきこき肩を鳴らした。
「仕方ねえな……いっちょいくか。ルル」
「あいあい!! あるじ様!!」
ルルが敬礼ポーズを決めてくる。
「ラクシル。ヤスパールも」
「……ン。……マスター」
「……ン。……マスター」
……どっちがどっちだかわかんねえな。ちなみに最初の方がラクシルで、あとのがヤスパールな。
俺のことをマスターって呼んでるけど、別に例の主従の契約を交わしたわけじゃない。お姉さん格のラクシルの真似をしてるだけ。
「コルム、アール。援護を頼む」
「オッケー任せろ!!」
「よし行こう!! ハチヤ!!」
声を合わせ、拳を突き合わせ、俺たちは乱戦の中に分け入った。




