「マドロアへ」
~~~ハチヤ~~~
結婚イベントの直後から、世界は変容を始めた。
モンスターの数が増加した。
思考ルーチンが強化されたのか、ねちねちといやらしい攻撃をして来るようになった。
その代わり、NPCたちが援護してくれるようになった。各地の騎士団や自警団、旅する属性のNPCたちが剣を抜いて魔法を飛ばして、共に戦ってくれるようになった。
戦争イベントもひっきりなしに起こった。都市だけでなく、小さな村や町すらも戦場になった。
戦争屋はもちろん狂喜したし、愛着のあるNPCたちと肩を並べて戦えるということで、出戻り組も喜んだ。
ロックラント帝国の攻勢が激しさを増した。機械都市マドロアや悪役同盟が同調し、両面から妖精側を攻めたてた。
王都近辺ではコデット率いる魔法少女たちや、悪役同盟とは袂を分かったソブリンちゃん率いる猫耳族が攻防に活躍し、ぎりぎりの均衡を保ってた。
カロックの村ではレフが意外なリーダーシップを発揮しているらしい。
北方じゃレイミアやエジムンドさんらも参戦しているらしい。
みんなに会いにいきたい。懐かしのあの村や街を守りたい。
衝動を抑え込みながら、俺たちはマドロアへ向かうことになった。
マドロアの首脳部を、軍部の長である機軍総督ギーラを討つのが目的だ。
ヒーローズユニオンも同行してくれるので戦力は充分だが、それでもさすがに正面から突撃して大立ち回りというわけにはいかなかい。正面からの力ずくでは勝てない。あくまで局地戦。総督府へ密かに侵入して討ち果たすミッションだ。
侵入には魔導列車を使うことになった。
魔導列車名は蒸気機関車みたいな見た目で、魔素を動力源とする。
王都近郊、レイ・ボワル禁漁区の地下の、鎧喰らいたちの集う空洞のさらに奥の頑丈な扉の向こう側に、隠された駅があった。数体の機械兵を倒して、俺たちは駅を占拠した。
軌道は2本。1本はギーラが使って逃げたのだろう。8両1編成が残っていた。
マドロアから王都近傍への直通。
当然秘密のルートだろうから、逆侵入には都合がいいってわけ。
プラットホームに全員が集まった。
「うおおおー!! 凄いでござるなこの剣は!?」
ジェイク卿操るジェイクが聖騎士専用の長剣を眺めて歓声をあげる。
「こっちの杖も凄い能力じゃよー!? パラメータの上りが半端ないんじゃよー!?」
刹那ほたるさんのバロンウッドも稲妻の形の杖を振り回して盛り上がっている。
「みんなには協力してもらったから。……ほら、モルガンもそんなにぶすくれてないで」
宝物庫の中のアイテムを均等に分配したことにご立腹な様子のモルガン。
「だって……わたしが見つけたのに……」
「9割9分、あの闘女さんのお手柄ですけどね……」
ジト目でモルガンを見やるアンバー。
「師匠もこれさえなけりゃあなー……」
バドと共に重いため息をついた。
当のイチカはまったく気にしていないどころかいまだに経緯すら知らないようで、鎧喰らいのブロミーの上にあぐらをかき、マヤやサーディンたちと賑やかにお喋りしている。
「――ごほん」
アールの咳払いに、みんな静かになった。
「みんな揃ったところで、今回のミッションの概要を説明しよう」
兎耳族の少女のアールが、男の子みたいな口調で冷静に作戦を説明していく。
「目的はふたつ。ひとつは機軍総督ギーラの討伐。もうひとつが千眼に連れ去られた行方不明者の捜索だ」
ほういほうい、とバロンウッドが飛び跳ねながら手を挙げる。
「ギーラの討伐はマドロアの勢力を弱めることじゃよな? それはわかる。では行方不明者の捜索というのはなんじゃ? 何を目的とする?」
狙いをもった質問だなと、俺は感じた。
団体行動指針に疑問を持つ者に説明するために、あえて聞いてくれている。刹那ほたるさんなりの気遣い。
「説明しよう」
アールはすべて承知したようにうなずいた
「一連の騒動のすべてに関わっていたのが千眼という男だ。古来より存在し、いたるところに策略の糸を張り巡らせてきた。カロックの村で。妖精釜で。ボクらは二度、彼と戦った。二度とも決着はつけられなかった。彼は常にボクらの前に足跡を残して来た。おそらくは悪の総帥として。自分の後を追って来いと。待っていたのが、誘拐された子供の行く末と、絶命砲の発射という結果だ」
「絶命砲っていうのは……」
「禍と呼ばれるあの大災害の原因だ」
ざわめきがプラットホームに満ちる。
「絶命砲のもととなった絶命銃を開発したのがマドロアの兵器廠だ。生物の今わの際の負の感情をこめて撃ち出すその武器は、材料集めに多大な労力を伴う」
「材料っていうとまさか……」
「そのまさかだ」
アールは小さく息を吐いた。
「――命だよ」
ざわめきが静まるのを待って、アールは再び話し始めた。
「カロックの村で、ボクたちはいくつかのアイテムを得た。人に成りすますことの出来る外套と、キティハーサの古地図、拳大の琥珀の塊。外套に関しては、これはある種のメッセージだろうと思う。自分は何者にでも成りすますことができるぞと。古地図に関しては、虫食い穴の位置からキャラバン隊の宿営地を指し示すものだということがわかった」
「キャラバン隊?」
「みんなも見たことがあるだろう。各町や村を回るキャラバン隊。どこへ行って何をしていても怪しまれない、黒子のような存在。子供を攫い歩くのに最適な存在」
『――!!』
みんなが息を呑んだ。
俺もこれを聞かされた時には驚いた。あんなに身近な、本当にどこででも見かけるようなありふれたものが、陰謀をもって作られたものだなんて……。
傍らのラクシルが、カイ人形をぎゅっと抱きしめた。
――そうだ。カイも昔の映像の中で語っていた。キャラバンなんかに行かせなきゃよかったって。
ラクシルがキャラバンを見に行ったことで、彼女の隠遁生活は終わりを告げたのだ。
アールは続ける。
「そしてこの琥珀の塊だが、これは魔導列車の駆動キーだった。攫われた子供たちは、おそらくこれを使って運ばれた。行き先はそう、マドロアだ――」
魔素エンジンに火が灯る。黒鉄で造られた車体が、ぶるんと身震いするように唸りを上げた。
「やべえ!! 列車やべえ!!」
「これは燃えるわー。厨2心くすぐられまくりだわー」
「乗り物系っていいよね!? 船とか飛空艇とかさ!!」
ヒーローズユニオンの面々が歓声を上げて乗り込んでいく。
「アール」
最後まで残ったアールの肩を叩く。
「ん? どうした? ハチヤ」
「いや、おまえはすごいよなと思ってさ。あんなに堂々と、みんなの前で。ほんと、感心するよ」
「ああ……ありがとう」
アールは苦笑した。
「千眼と一緒さ」
「……へ?」
俺が戸惑っていると、アールは肩を竦めた。
「千眼は悪役なんだよな。悪役だから、ヒーローたちに示さずにはいられない。自分のあとを追って来いって。悪事の限りを見せつけてやるって。誇示しないではいられない。だから彼のあとを追えば、自然にクエストは進む。ボクは探偵だから、推理せずにはいられない。謎を解き明かさずにはいられない。そして同時に、ひとりの女の子でもあるからさ……」
アールはルルがカイ人形と話してるのを確かめると、こっそり俺の耳元に顔を寄せた。
「キミに褒めてもらいたくて、必死なんだ――」
俺が硬直してるのを見て笑って、アールはととんと軽い足取りで列車に乗り込んだ。




