「駆けル/憤ル/図ル」
~~~ハチヤ~~~
「ご主人様あああああああぁ!!」
ソブリンちゃんと擦れ違いざま、俺はトレインの先頭部分に目がけて剣技を叩きつけた。
「――回転剣旋!!」
剣の衝撃波による範囲技で、複数のモンスターにヘイトを乗せた。
「影分身!!」
「天空飛翔」
「突撃!!」
分身を囮にして一斉攻撃を躱し、直後の大ジャンプで距離をとった。移動技でさらに距離を離し、ソブリンちゃんとは別方向へ全力で逃げた。
川の流れが分かれるように、トレインは二手に分かれた。
「ご主人様あああああー!?」
「もう少し待ってろソブリンちゃん!!」
これでソブリンちゃんは逃げやすくなったはずだ。動揺から回復さえすれば、なにせ彼女の素早さだ。この程度の……っても百匹超だけど、トレインに轢かれるわけがない。
問題があるとすれば俺のほうだが……。
「うおおー!? なんか来たああああ!!」
「バカバカ!! こっち来んなあああああ!!」
ヒーローズユニオンのみんなのいる方角へ、まっしぐらに走る。
「みぃんなー!! 仲良くしようぜー!?」
叫びながら、集団の脇を猛スピードで通過する。
「うおお……ってあれ? 行っちゃったぞ?」
「あ……ああー。そういうことか? 肉釣りか?」
混乱から回復したみんなが、俺の連れたトレインから何匹かのモンスターを釣り上げてくれた。
肉釣り、というのはつまりこういうことだ。モンスターの集団を連れて走る生餌――肉とも呼ばれるがひとりいて、他のメンバーが一匹もしくは複数匹ずつ釣り出して、少しずつ数を減らしていくという狩りの仕方だ。
走る役の負担がデカすぎるし、普通はこの規模のトレイン相手にはやらないことなんだけど……。
「まあしかたねえな!!」
開き直って疾走を続けていると、ソブリンちゃんが並走して来た。
「お、ソブリンちゃん。元気か?」
「げ、げ、げ……元気か? じゃないのだ!!」
猫ヒゲを震わせながら叫んできた。
「なんで……なんで助けてくれるのだ!? 我は……あんなにひどいことをしたのに……!!」
「ひどいっていうか……」
俺はぽりぽりと頬をかいた。
「別にそんなでもなかったぜ? 最近じゃこういう修羅場ばっかだったし。麻痺してるというか慣れちまったというか。むしろ先にひどいことをしたのは俺のほうっつーか……」
「ご……」
にかっ、と俺は笑った。
「ごめんな、ソブリンちゃん。ひとりにして。――寂しかっただろ?」
「ご主人ざまああああああああああ!!」
ソブリンちゃんが、ひしっと俺にしがみついてきた。
おそらくは感涙にむせびながら、激しく頬ずりしてくる。
「うわわっ、ダメダメ!! そんな密着したら……速度が……保てな……っ」
俺とソブリンちゃんのトレインが合流し、凄まじい勢いで迫って来る。
急減速した俺のすぐ背後まで、それは一気に迫った。
「く……しかたねえな……!! 捕まってろよソブリンちゃん!!」
「え……ああ……うううううっ!?」
「こらー!! あるじ様から離れなさーい!!」
急なことすぎて、モンスター名を調べる暇がない。名前を知らなければ魔剣の力は行使できない。
なので仕方あるまい。知ってるやつの名前を呼ぶしかない。
俺は思い切り息を吸い込み、音声入力の呪文を叫んだ。
「『剣よ!! 剣よ!! 我が声を聞け!! 我が敵の名を知れ!! 其は汝の敵なるぞ!! 地の果てまでも追い駆けて、討ち果たさねばならぬ者なるぞ!! 知らざるならば胸に刻め!! 憎き其の名は――サーディン!!!!!!』」
パァアアアー。
鏡のように磨かれた魔剣の表面に、光の文字が浮かび上がる。いつもだったらモンスター名の浮かび上がるそこに、よく知っているキャラの名前が浮かんだ。
刀身は光を放ち、重力を振り切るほどの強い風を生み出した。
俺とソブリンちゃんは魔剣の力で宙に浮かんだ。その時サーディンは遥か後方にいたので、ぐぐう……っと凄まじい勢いで方向転換した。3人一緒に、強烈なGに振り回された。
「絶対手ぇ離すなよ!?」
ちょうどトレインの真っ只中を突っ切る形で、俺たちは飛んだ。
「うわああああー!? ご主人様ああああー!?」
ソブリンちゃんは必死で俺にしがみついて来る。
ルルもまた俺の後ろ頭にしがみつきながら、「こいつめ!! こいつめ!! この泥棒猫!! その魚くさい手を離しなさい!!」と盛んにソブリンちゃんを叩いている。
一本の剣と化した俺たちは、トレインを真っ二つにする形で切り裂いた。
切り裂いて、長距離を移動して――衰弱状態にあったサーディンをも貫いた。
「あ、悪いなサーディン。おまえが一番後腐れなさそうだからさ」
「てんめええええええええええええええええー!!」
サーディンは絶叫を上げながら戦闘不能状態に逆戻りした。
「てめえこらハチヤ!!」
「サーくんになにしやがる!!」
パナシュとメイルーが血相変えて詰め寄って来るが、俺は構わず駆け出した。
少し距離は離せたが、依然として背後にはトレインが迫っている。
「おまえらも逃げないと巻き込まれるぞー?」
「……はああ!?」
「ってなんだあれ!? うおおおおっ!?」
ヒーローズユニオンの面々が、また何匹かモンスターを抜いてくれた。さっすが、FLC初期からいる連中だ。混乱から立ち直るのが早い。小規模なPTをいくつか作り、着実に首級を上げていく。
あとはこれの繰り返しだ。追いつかれそうになったら魔剣で加速して引き離せばいい。そうやって徐々に徐々にトレインをすり減らしていくんだ。
終わるまでにどれぐらいの時間がかかるのかわからんけども……まあ……。
「あんだけ偉そうに宣言しちゃったからなあー……」
「まったくあるじ様はいつもいつも考えなしなんですからっ」
ルルはぷんぷんで。
「ご主人様ありがとうなのだ!! 愛してるのだ!!」
ソブリンちゃんは目にハートマークを浮かべながら大げさに愛してくれて。
どたばたとした日常が、また俺のもとに戻って来た。
そんなことを実感して、俺はまた、胸を少し熱くした。
~~~手島一平~~~
ぽかーんとした顔、というのを初めて見た。
烏塚恭二が、モニタに移る画像を見ながらあんぐりと口を開けていた。
結婚イベントの生配信。
その中で、いくつもの驚くべきことが起こっていた。
新ギルドであるヒーローズユニオンと世界喰らいとの激闘。
別ゲームである「プリンセス☆ファウンドリー」のキャラだったソブリンちゃんの登場。
リアル女の子でなくゲーム内のキャラである妖精と結婚する道を選んだハチヤ少年。
隠しキャラであるカイ人形とラクシルの再会。
今まさに整然と処理されようとしている悪役同盟のトレイン。
どれもが驚くべき出来事だった。
普通のプレイヤーなら一度も経験せずに終わるような、濃いイベントの数々だった。
すべてを計画した黒幕がいたとしたら、憤慨せずにはいられない光景だった。
「キョウさん。キョウさん」
何度も何度も辛抱強く呼びかけると、烏塚恭二はようやくフリーズから立ち直った。
「なんで……なんでだちくしょう!!」
モニタを見ながら激しく怒り出した。
デスクの上に乗っていたロボットたちを乱暴に手で払った。
「ふざけんな!! 誰がそんなことをしろと命令した!! 戻って来いなんて誰が言った!!」
一平がロボットを拾い上げると、烏塚恭二は顎に手を当て考え込むようなしぐさをしていた。
「だいたいおかしいんだ……!! ダストボックスから自分で出てくるなんてあり得ないだろうが!! あまつさえカイ人形を一緒に引き上げてくるだと!? あり得ない!! あり得ないあり得ないあり得ない!! そんなことが……どうして出来る!!」
~~~お鷹さん~~~
当麻宅の女中部屋の奥に秘密裏に設置されたPCルーム。無数のモニタを前にして、お鷹さんはほくそ笑んでいた。
ブルーライト防止のメガネには、FLCの生配信が映っていた。脇にはウインドウが表示されており、難解な文字列の集合が高速でスクロールしていた。
「……はん。小童が、脇が甘いんだよ。こちとら居場所がわかればどうとでもなるんだ」
得意げに口元を歪めるお鷹さんの背後では20代の若い女中たちが忙しげにキーボードに向かっている。
「もう~。お鷹さ~ん。なんでノリノリなんですか~」
「こんなの過重労働にもほどがありますよ~」
ひいこらと泣きごとをいう彼女らを、お鷹さんは一喝した。
「お黙りなさい!! 生徒のために体を張れなくて、なんの教師なもんかね!!」
「わたしたち教師じゃないし~」
「もうやだ~。早く帰って来てよ~。加奈子お嬢様~」
ふん、お鷹さんは鼻を鳴らした。
加奈子は別途FLCにログインしている。
機軍総督ギーラを追い、立ちはだかる機械兵たちと激戦を繰り広げているところだった――




