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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
少女協定

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96/118

「駆けル/憤ル/図ル」

 ~~~ハチヤ~~~



「ご主人様あああああああぁ!!」

 ソブリンちゃんと擦れ違いざま、俺はトレインの先頭部分に目がけて剣技を叩きつけた。

「――回転剣旋サークルブレード!!」

 剣の衝撃波による範囲技で、複数のモンスターにヘイトを乗せた。

影分身シャドウ・ダブル!!」

天空飛翔エアリアル・ジャンプ

突撃チャージ!!」

 分身を囮にして一斉攻撃を躱し、直後の大ジャンプで距離をとった。移動技でさらに距離を離し、ソブリンちゃんとは別方向へ全力で逃げた。


 川の流れが分かれるように、トレインは二手に分かれた。

「ご主人様あああああー!?」

「もう少し待ってろソブリンちゃん!!」

 これでソブリンちゃんは逃げやすくなったはずだ。動揺から回復さえすれば、なにせ彼女の素早さだ。この程度の……っても百匹超だけど、トレインに轢かれるわけがない。

 問題があるとすれば俺のほうだが……。

 

「うおおー!? なんか来たああああ!!」

「バカバカ!! こっち来んなあああああ!!」

 ヒーローズユニオンのみんなのいる方角へ、まっしぐらに走る。

「みぃんなー!! 仲良くしようぜー!?」

 叫びながら、集団の脇を猛スピードで通過する。

「うおお……ってあれ? 行っちゃったぞ?」

「あ……ああー。そういうことか? 肉釣りか?」

 混乱から回復したみんなが、俺の連れたトレインから何匹かのモンスターを釣り上げてくれた。

 肉釣り、というのはつまりこういうことだ。モンスターの集団を連れて走る生餌――肉とも呼ばれるがひとりいて、他のメンバーが一匹もしくは複数匹ずつ釣り出して、少しずつ数を減らしていくという狩りの仕方だ。

 走る役の負担がデカすぎるし、普通はこの規模のトレイン相手にはやらないことなんだけど……。


「まあしかたねえな!!」

 開き直って疾走を続けていると、ソブリンちゃんが並走して来た。

「お、ソブリンちゃん。元気か?」

「げ、げ、げ……元気か? じゃないのだ!!」

 猫ヒゲを震わせながら叫んできた。

「なんで……なんで助けてくれるのだ!? 我は……あんなにひどいことをしたのに……!!」

「ひどいっていうか……」

 俺はぽりぽりと頬をかいた。

「別にそんなでもなかったぜ? 最近じゃこういう修羅場ばっかだったし。麻痺してるというか慣れちまったというか。むしろ先にひどいことをしたのは俺のほうっつーか……」

「ご……」 

 にかっ、と俺は笑った。

「ごめんな、ソブリンちゃん。ひとりにして。――寂しかっただろ?」

「ご主人ざまああああああああああ!!」

 ソブリンちゃんが、ひしっと俺にしがみついてきた。

 おそらくは感涙にむせびながら、激しく頬ずりしてくる。

「うわわっ、ダメダメ!! そんな密着したら……速度が……保てな……っ」

 俺とソブリンちゃんのトレインが合流し、凄まじい勢いで迫って来る。

 急減速した俺のすぐ背後まで、それは一気に迫った。


「く……しかたねえな……!! 捕まってろよソブリンちゃん!!」

「え……ああ……うううううっ!?」

「こらー!! あるじ様から離れなさーい!!」

 急なことすぎて、モンスター名を調べる暇がない。名前を知らなければ魔剣の力は行使できない。

 なので仕方あるまい。知ってるやつの名前を呼ぶしかない。

 俺は思い切り息を吸い込み、音声入力の呪文を叫んだ。

「『剣よ!! 剣よ!! 我が声を聞け!! 我が敵の名を知れ!! は汝の敵なるぞ!! 地の果てまでも追い駆けて、討ち果たさねばならぬ者なるぞ!! 知らざるならば胸に刻め!! 憎き其の名は――サーディン!!!!!!』」

 パァアアアー。

 鏡のように磨かれた魔剣の表面に、光の文字が浮かび上がる。いつもだったらモンスター名の浮かび上がるそこに、よく知っているキャラの名前が浮かんだ。

 刀身は光を放ち、重力を振り切るほどの強い風を生み出した。

 俺とソブリンちゃんは魔剣の力で宙に浮かんだ。その時サーディンは遥か後方にいたので、ぐぐう……っと凄まじい勢いで方向転換した。3人一緒に、強烈なGに振り回された。


「絶対手ぇ離すなよ!?」

 ちょうどトレインの真っ只中を突っ切る形で、俺たちは飛んだ。

「うわああああー!? ご主人様ああああー!?」

 ソブリンちゃんは必死で俺にしがみついて来る。

 ルルもまた俺の後ろ頭にしがみつきながら、「こいつめ!! こいつめ!! この泥棒猫!! その魚くさい手を離しなさい!!」と盛んにソブリンちゃんを叩いている。


 一本の剣と化した俺たちは、トレインを真っ二つにする形で切り裂いた。

 切り裂いて、長距離を移動して――衰弱状態にあったサーディンをも貫いた。


「あ、悪いなサーディン。おまえが一番後腐れなさそうだからさ」

「てんめええええええええええええええええー!!」

 サーディンは絶叫を上げながら戦闘不能状態に逆戻りした。

「てめえこらハチヤ!!」

「サーくんになにしやがる!!」

 パナシュとメイルーが血相変えて詰め寄って来るが、俺は構わず駆け出した。

 少し距離は離せたが、依然として背後にはトレインが迫っている。

「おまえらも逃げないと巻き込まれるぞー?」

「……はああ!?」

「ってなんだあれ!? うおおおおっ!?」


 ヒーローズユニオンの面々が、また何匹かモンスターを抜いてくれた。さっすが、FLC初期からいる連中だ。混乱から立ち直るのが早い。小規模なPTをいくつか作り、着実に首級を上げていく。

 あとはこれの繰り返しだ。追いつかれそうになったら魔剣で加速して引き離せばいい。そうやって徐々に徐々にトレインをすり減らしていくんだ。

 終わるまでにどれぐらいの時間がかかるのかわからんけども……まあ……。

「あんだけ偉そうに宣言しちゃったからなあー……」

「まったくあるじ様はいつもいつも考えなしなんですからっ」

 ルルはぷんぷんで。

「ご主人様ありがとうなのだ!! 愛してるのだ!!」

 ソブリンちゃんは目にハートマークを浮かべながら大げさに愛してくれて。

 どたばたとした日常が、また俺のもとに戻って来た。

 そんなことを実感して、俺はまた、胸を少し熱くした。



 ~~~手島一平てしまいっぺい~~~



 ぽかーんとした顔、というのを初めて見た。

 烏塚恭二からすづかきょうじが、モニタに移る画像を見ながらあんぐりと口を開けていた。

 結婚イベントの生配信。

 その中で、いくつもの驚くべきことが起こっていた。

 新ギルドであるヒーローズユニオンと世界喰らい(ワールドイーター)との激闘。

 別ゲームである「プリンセス☆ファウンドリー」のキャラだったソブリンちゃんの登場。

 リアル女の子でなくゲーム内のキャラである妖精と結婚する道を選んだハチヤ少年。

 隠しキャラであるカイ人形とラクシルの再会。

 今まさに整然と処理されようとしている悪役同盟ヴィランズストライクのトレイン。

 どれもが驚くべき出来事だった。

 普通のプレイヤーなら一度も経験せずに終わるような、濃いイベントの数々だった。

 すべてを計画した黒幕がいたとしたら、憤慨せずにはいられない光景だった。


「キョウさん。キョウさん」

 何度も何度も辛抱強く呼びかけると、烏塚恭二はようやくフリーズから立ち直った。

「なんで……なんでだちくしょう!!」

 モニタを見ながら激しく怒り出した。

 デスクの上に乗っていたロボットたちを乱暴に手で払った。

「ふざけんな!! 誰がそんなことをしろと命令した!! 戻って来いなんて誰が言った!!」


 一平がロボットを拾い上げると、烏塚恭二は顎に手を当て考え込むようなしぐさをしていた。

「だいたいおかしいんだ……!! ダストボックスから自分で出てくるなんてあり得ないだろうが!! あまつさえカイ人形を一緒に引き上げてくるだと!? あり得ない!! あり得ないあり得ないあり得ない!! そんなことが……どうして出来る!!」



 ~~~おたかさん~~~


 

 当麻とうま宅の女中部屋の奥に秘密裏に設置されたPCルーム。無数のモニタを前にして、お鷹さんはほくそ笑んでいた。

 ブルーライト防止のメガネには、FLCの生配信が映っていた。脇にはウインドウが表示されており、難解な文字列の集合が高速でスクロールしていた。

「……はん。小童が、脇が甘いんだよ。こちとら居場所がわかればどうとでもなるんだ」

 得意げに口元を歪めるお鷹さんの背後では20代の若い女中たちが忙しげにキーボードに向かっている。


「もう~。お鷹さ~ん。なんでノリノリなんですか~」

「こんなの過重労働にもほどがありますよ~」

 ひいこらと泣きごとをいう彼女らを、お鷹さんは一喝した。

「お黙りなさい!! 生徒のために体を張れなくて、なんの教師なもんかね!!」

「わたしたち教師じゃないし~」

「もうやだ~。早く帰って来てよ~。加奈子お嬢様~」

 

 ふん、お鷹さんは鼻を鳴らした。

 加奈子は別途FLCにログインしている。

 機軍総督ギーラを追い、立ちはだかる機械兵たちと激戦を繰り広げているところだった――

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