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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
少女協定

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「ルル!!」

 ~~~仮面の剣士~~~


 黒い執事服の上に仮面を被っていた。表情はなく、細い線があるのみの白い仮面。目が2本の口が1本。それだけだった。

 片手には東方から伝来した片刃の曲刀。

 どこから現れたのか、迫りくるモンスターたちのトレインの前に、その男は突如として立ちはだかった。


「なんだてめえ!?」

「そこをどけ!! ひき殺すぞ!!」

 5つの頭を生やした大型の、猛犬が持ち前の脚力を生かし、トレインの先頭を切って駆け出した。

 凄まじいスピードで突っ走り、剣士を噛み砕かんと大口を開けた。


 ――キキキキキッ。


 ガラスの板をかきむしる様な金属音が連続した。

 むき出しにした牙ごと、5つの首が宙を舞った。

 目にも止まらぬ抜き打ちの技だ。猛犬はどうと倒れ、ぴくりとも動かない。


剣士ソードマン一匹に何ができる!!」

 次に飛び込んだのはゴブリン戦車チャリオットだ。大型の豚に牽引させた戦車の上に、3匹のゴブリンが乗っている。武器は火縄式の大砲だ。一匹が弾をこめ、一匹が照準を合わせ、一匹が点火する分業制。

「装填完了!!」

「照準よし!!」

「撃てー!!」 

 ドコンと煙を吐き音をたて、ひと抱えもある丸い鉄球が撃ち出された。

 剣士は弾を避けず、真っ向から切り上げた。

 キィン、硬質な音をたて、弾は真っ二つに両断された。

「ななななな……っ!?」

「バカ!! 来るぞ!! 次弾こめろ!!」

「回頭!! 回頭ー!!」


 慌てふためくゴブリン戦車を乗り物ごと斬り捨てた。

 遠巻きに見守っている衆を、剣士は両手を広げて挑発した。

「有象無象が、一匹ずつかかって来てもここは抜けんぞ!! 来るならまとめてかかって来い!!」


「ふざけやがって!!」

「その仮面ごと頭をぶっ飛ばしてやる!!」

「突っ込むぞー!!」

 数匹、団子状態で突っ込んできた。

 技も何もあったものではない。無策で体ごと――いいまとだ。


 ――キキキキキキッ。


 宙に剣線が描かれ、音の分だけモンスターの首が飛んだ。

 6匹まとめて斬り捨てた。


「バカか!! ただの的だろうが!! 効率のいい稼ぎにしかなってねえよ!!」

「はああ!? それがトレインってもんだろうが!!」

「あそこまで攻撃力の高いやつは想定してねえんだよ!! もっと考えて突っ込めよ!!」

「お……おい!! こっちに来るぞ!!」

 仲間割れを起こし始めたモンスターたちは、剣士が逆に向かっていくと、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「……ふん。しょせんは寄せ集めの烏合の衆か。他愛もない」

 教会の前に戻ろうと後ろを見せた剣士の後ろに、トレインから抜け出した一匹が凄まじいスピードで迫った。

 大きく跳び上がり、勢いのままにハンマーを打ち下ろしてくる。

「――!?」

 ギィン!!

 剣士は振り向きざまにその一撃を受け止めた。 


「……貴様、剣聖だな?」 

 非力ゆえ鍔迫り合いを嫌ったのか、ソブリンちゃんは後ろへ跳んで身構えた。

「……さすがは察しのよろしいことで」

 トレインに巻き込まれてボロボロになったソブリンちゃんは、燃え盛るように怒っていた。全身で不満を訴えた。

「――なぜ我を裏切った!?」

「もとより、仲間になったつもりはございませんので……」

「一緒に旅をした仲だろうが!!」

 ハチヤの足跡を追う旅に同道した。食事を共にし、同じ屋根の下で寝起きした。

 だが、剣士――エジムンドは静かに首を横に振った。

「……あなたが私怨を抱くように、私はかねてより、ハチヤ殿にご恩があるのです」


 ふんっ、ソブリンちゃんは鼻で笑った。

「……もとより交わらざる道というわけか」

 身を低くして、ハンマーを担ぐように構えた。

 当たれば瞬時に相手を虜とする――必殺の一撃。


「……左様で」

 エジムンドもまた姿勢を低くし、剣を鞘に納め、後ろ足ごと引いた。

「ここを通ろうというなら、その覚悟のほどをお示しいただきたい」

 ――抜刀術。抜き打ちの極意。

 間合いを読ませる間もなく斬り捨てる――最速の一撃。

 

 じわじわと殺気が膨れ上がる。

 じりじりと距離を詰め合う。

 ふたりの持てる最大が、今ぶつかり合う――。 



 ~~~ハチヤ~~~


「なんだかすげえことになってるなおい……」

 ソブリンちゃんと仮面の剣士の死闘が始まった。世界喰らい(ワールドイーター)とイチカのタイマンも続いてるし、外はもう大変な盛り上がりだ。


「まあ俺は俺に出来ることをするだけだが……」 

 結婚の宣誓書にサラサラとサインをし、ルルに向き直った。

「んん~? なんですかあるじ様~?」

 能天気に小首をかしげるルルに――その向こうにあるものに――俺はまっすぐ呼びかけた。

「ルル……」

「んん~? なんですかあるじ様~?」

「なあルル……」

「んん~? なんですかあるじ様~?」 

 何度も同じ返答が返って来る。だけど俺はくじけず、繰り返し繰り返し呼び掛けた。

「……なあ、頼むよルル。俺はもう、おまえに無理やりってことはしたくないんだ」

 状態異常回復の歌を歌われた時のルルの絶望的な顔、声――あんなのはもうごめんだ。

「結婚しよう、ルル。俺とおまえの意志で結婚しよう。なあルル。答えてくれ。返事を返してくれ。おまえの意志で、おまえの言葉を俺にくれ――」


 ルル、ルル……。

 何百回と繰り返した頃に、それは起きた。


「――あるじ様!!」

 ルルが喋った――いや叫んだ。表情はまったく変わっていないのに、能天気な笑顔のままなのに叫んだ。ルルの中にもうひとりいて、そいつが声を出したみたいだった。

「ルル!! その声はルルだな!?」

 足元から震えがきた。

「そうだよ!! ルルだよ!! ここだよ!! ここにいるんだよ!! ……あるじ様!!」

 フィルターを通したように声が遠い。だけどルルだ。紛れもなくルルの喋り方だ。

 俺の名を呼んでいる。あれほど探していたルルが、すぐ手の届く距離にいる。

「……っ」

 俺はじんわりと泣きそうになった。

 でもそんな場合じゃないんだって自分を鼓舞して、ルルに声をかけた。

「わかった!! ルル!! とにかく早く戻って来いよ!! こっちは今大変なことになってんだ!!」

「うん!! わかった……あ、ダメ。やっぱりわかんない!!」

「なんだよそれぇ!?」

 盛大にずっこけた。

「無理無理!! 絶対戻らない!! ルルはずっとここにいる!!」

 ここってどこだ。ルルがルルの中から出てこないってことか? ……なんだか紛らわしいけど。

「だからなんでだよ!! 戻れるなら戻って来いよ!!」


「――嘘だから!!」

 今までで一番大きな声だった。

「思い出しちゃったんです!! ルルがどうして生まれたか!!」

「そりゃあ俺が……」

「違うんです!! ルルは……ルルの心は創られたものなんです!! あるじ様に寄り添うようにって!! あるじ様の望む通りの情報を集めろって!! いつか半身になれるくらいに!! 切っても切り離せないくらいの存在になれるようにって!!」

「……誰に」

「規制されるから言えないんです!! でもとにかくダメなんです!! 絶対絶対ダメなんです!! ルルはもう冒険しません!! ここでおとなしくロストします!! 綺麗さっぱり消えてなくなります!! だからあるじ様は別の……別の妖精あいかたを作って……旅してください!! ルル以外の……別の誰かと……!!」

「出来るわけないだろ!! 俺がおまえ以外のやつと一緒に冒険するわけないだろ!! 俺の相方は、生涯おまえひとりだよ!!」

 動揺する気配があった。

「うう……だ、ダメですよ!! そんな甘い言葉をちらつかせたって、ルルはほだされませんからね!! 強い女なんですから!! 鉄の女ですよ!?」

「好きだ!! ルル!!」

「――!?」

少女協定ガールズ・プロトコロルはおまえの勝ちだ!! 俺は小巻こまきでもるいでもとーこでもなく、おまえを選ぶ!!」

「な……っ!?」

 ルルは束の間、答えに窮した。

「だ……ダメですよ!! そんなこと言ったってダメなんです!!」

「好きだ!!」

「うう……っ!?」

「大好きなんだ!!」

「ううううう……っ!?」

 どがんがしゃん、ルルが今いる場所で鳴っているのだろうか、なにかが崩れるような盛大な音がした。


「だ……だ……だ、ダメですよ!! ダメなのに……もうっ!! バカ!! あるじ様のバカ!!」

 ルルは必死に否定した。

「そんなこと言ったってダメなんですよ!! 情に訴えようったって、そうは問屋がおろしません!! だって……だって!! ルルの気持ちは作り物だから!!」

「作り物……?」

 さっきから、言ってる意味がわからない。

「そうですよ!! さっきも言ったじゃないですか!! そのように創られたって!! 嘘をついてたんです!! 好きだって嘘をついてた!! 騙してた!! 大好きだなんて言いながら、もっともらしく囁きながら、本当はプログラムに従ってただけだった!! 本当の気持ちなんてなにひとつ……そこにはなかった!!」


「全部……嘘だったっていうのか……?」

 今までルルと過ごしてきた日々が、交わした言葉が、震えるように愛しい日々が、すべて嘘だっていうのか。 

「そうですよ!! 思い出したんです!! ルルは……あるじ様のことなんか……これっぽっちも……!! これっぽっちも……!! 好きなんかじゃ……なくて……!!」

「……ルル?」

 ルルはしばらく泣いていた。言葉を続けられずに詰まっていた。


「ねえ……あるじ様?」

 嗚咽をこらえるようにしながら、震える声で問いかけてきた。

「……ルルにはよくわからないんです。夢から覚めた時に、人はすべてを忘れられるものなんですか? 今まで見てきたことを、手に取るように感じられた幸せを、夢だからって、容易く忘れられるものなんですか? 過ぎ去った日々だって、とるに足らない出来事だったんだって、昨夜こんなくだらない夢を見たんだって。簡単に、あっさりと……笑い飛ばすことができるものなんですか?」

「……」

「教えてくださいよ!! それはどんな気持ちでもそうなんですか!? その人を信じた気持も!! その人を愛した記憶も!! すべてを失ってもいいと思った決意ですら……全部……全部っ!! 忘れられるものなんですか!?」

「ルル……」

 全身全霊の訴えかけだった。

 小さな体を精いっぱいに震わせて泣き叫んでいる姿が、目に見えるようだった。

 この場にいないのに、どこか遠くにいるのに、俺にはそれがわかった。

 

 ――知ってた。全部。何もかも。


「忘れられるもんかよ……」

「え……?」

「……っ」

 俺は歯を食い縛った。拳をぎゅっと握った。息を深く吸い込んだ。

 ――全力だ。

 腹をくくった。俺はこれから、全力を出す。

 とくと見ろ。結果を御覧じろ。これが俺の全部だ。後悔なんかするもんか。全部ぶつける――


「――じゃあなんだ!! どうやって自分が生きてることを証明できる!? 心臓が動いてるからか!? 血管が脈打ってるからか!? 細胞が燃えてるからか!? 魂はどこにある!? 心臓か!? 頭にあるのか!? なにをどうやって自分が動いてるのか、おまえには説明できるのか!? ――夢を見たことを!! それが夢だったってことを!! どうやって証明するんだ!? 今まさに夢の続きにいるのかもしれないのに!! 現実と思ってたことこそが夢かもしれないのに!!」

「え……え……?」

 戸惑うルルに、しかし俺は構わず畳みかける。剥き出しの気持ちを叩きつける。

「俺にはできる!! 簡単だ!! 信じてる!! おまえが夢じゃないって信じてるから!! ――ずっと恋してたんだ!! 4年間!! 毎日毎日!! おまえに会うためだけにログインし続けたんだ!!」

「だってルルの気持ちは……!!」

「――嘘だっていいんだよ!!」

「……!?」

「俺が好きになったんだ!! おまえがじゃない!! 俺が好きになったんだ!! おまえは俺のことをなんとも思ってなくていいんだ!! 俺が好きなんだから!! ――言ってやる!! 何度だって言ってやる!! 好きだ!! 愛してる!! 俺の傍にいろ!! 俺はおまえのために生きて、おまえのために死んでやる!! それだけだ!! おまえのために何かしようと思う心!! 傍に寄り添っていたいって願う心!! 笑わせてあげたいって湧き上がる心!! そいつが俺を突き動かすんだ!! 血でも心臓の拍動でもねえ!! 心が俺の生命を支えてるんだ!! ルル!! 気持ち悪いと思われたってかまわねえ!! ゲームもリアルも関係ねえ!! ――大人になれ!? はっ!! くそくらえだ!! ――目を覚ませ!? 知るかバカ!! だったら俺は、ずっと夢の中にいてやる!! おまえのいない人生なんて、俺にはなんの価値もねえんだよ!! ――ああそうだ!! そうだよ!! 俺はダメな人間だ!! 画面向こうのおまえに本気で恋しちまった!! だけど後悔はしてねえ!! 今!! ここに宣言する!! 残りの一生をすべてかけて!! おまえを幸せにしてみせる!! 嫌だって言ってもダメだかんな!? 俺はもう決めたんだから!! おまえが拒否したって知ったこっちゃねえ!! 一生死ぬまで、つきまとってやる!! 嫌だって言っても、無理やり幸せにしてみせる!! 笑わせてみせる!! 俺のことを好きだって言わせてやる!! だからルル!! ――戻ってこーーーーーーーーーーーーーーい!!」




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