「走ル」
~~~ハチヤ~~~
悪役同盟からの公的な宣戦布告に最初に反発したのは、当然のごとくヒーローズ・ユニオンのメンバーたちだった。
「っふざけんなー!!」
「そうよそうよ!! 勝手なこと言わないでよ!!」
「やれるもんならやってみろ!!」
「拙者たちは負けぬでござる!!」
「たかがNPC風情が何をぬかす!!」
ついで、生配信動画のコメント欄が荒れだした。
「だいたいあざといんだよこいつは!!」
「そうだそうだ!! 猫耳尻尾とか、いまどき流行んねえんだよ!!」
「アキバのメイド喫茶ですら廃れたわ!!」
「名前も語呂が悪くてかっこ悪いし!!」
「その程度で萌えキャラを謳ってほしくないんだよねー!!」
――かーえーれ!! かーえーれ!!
帰れコールの大合唱に、ソブリンちゃんは肩を震わせた。
「うぎぎぎぎぎ……!!」
涙目になりながら拳を握っている。
「どいつもこいつも……言わせておけばぁ……!!」
カッ、と瞳に炎を宿して吠える。
「こうなったら皆殺しだ!! 貴様も!! 貴様らも!! どいつもこいつも残らず粉みじんに粉砕してくれる!! ……って、あれ? ご主人……様?」
「今のうちだ!! 走れ!!」
ソブリンちゃんのヘイトが他に向いているうちにと、俺はアールとコルムを促して走り出していた。
「あっああーっ!? ずるいぞ!! ご主人様ぁ!!」
ソブリンちゃんが遥か後方から不服を訴えてきた。
「ずるいもへちまもあるか!! 勝てば官軍じゃあ!!」
俺は振り向かずダッシュを続けた。
俺を中心に、アールとコルムが両脇を走っている。
「な……なんだかすごく卑怯なことをしてるような気が……」
ちらちら振り返りながら、アールが後ろめたそうな声を出す。
「別に構わないでしょ!! あんなのNPCの世迷いごとよ!!」
コルムは冷たく吐き捨て、前方に目を凝らす。
「とにかくもう少しよ!! 気を散らさずにそのまま走る!!」
「オッケー!!」
「う……うん!!」
教会まであと一歩というところで、トレインが俺たちの行く手を遮った。
といっても全体じゃない。中でも動きの速い連中。夜鬼、女面鳥などの有翼種だけだ。
「敵じゃねえんだよ!!」
「止まれえ!!」
俺は魔剣を振るって切り伏せ、コルムは弓矢技の影縛りを連射してモンスターたちの動きを止めた。
隙間を縫うようにして、俺とコルムが走り抜ける。
焦りが出たか、それとも単純に操作ミスか、アールだけが包囲網に引っかかるように捕まった。
「うわああああっ!?」
有翼種たちに包囲され噛みつかれる。鉤爪を突き立てられ切り裂かれる。凄まじい勢いでアールのHPが減っていく。
敵が多すぎて、俺たちだけではどうにも出来ない。
「た、助け……っ」
パニックになったアールは、およそ理性的な行動がとれていない。右へ左へ脈絡もなく動いては、そのつど有翼種たちの網に引っ掛かっている。
「くそっ!! ラクシル!!」
「……ン!!」
俺の呼びかけに応え、全身総ミスリル銀製の女の子・ラクシルが戦場に現れた。
伝説の魔女・カイの創造物。最強最速の相棒。
「薙ぎ払え!! アールを救え!!」
「……ン!!」
ラクシルはずざざっ、と地面を抉るように急ブレーキをかけて振り向くと、髪の毛代わりの金属筒を動かし、一本一本を意志ある砲塔のようにトレインに向けた。
「……神秘の砲塔」
魔素の塊を高熱のレーザーのように照射した。綺麗にアールだけを避け、まとわりつく有翼種群を消滅、文字通り一掃した。うーん、さすがの破壊力だ。
「あ、ありがとうハチヤっ、ラクシルっ。……で、でも……こんな序盤で……!!」
追いついたアールが気づかわしげな声を出す。
たしかにラクシルは切り札には違いない。30分しかもたないし、これから何があるかわからない以上、今呼び出したくはなかった。だが──
「なに言ってんだアール。おまえがいなきゃそもそもこのイベント自体が始まらないだろ?」
「え!? あ……ああー……う、うんっ。その……ありがとう……」
顔を「ぼふっ」と赤くし、しどろもどろになるアール。
「あんたってさあ……」
コルムが呆れたような声を出す。
「ん? なんだよ?」
相手がいなきゃ結婚イベントは成立しない。新婦を守るのは当たり前の行動だ。そのためなら使えるものはなんでも使わないと。
「わかんなきゃいいわ……」
なぜかしきりに首をかしげながら先を行くコルム。
「――行かせるかあっ!!」
ソブリンちゃんが凄まじいスピードで、先回りするように立ちはだかった。
「ラクシル!!」
「……ン!!」
神秘の砲塔をぶっ放すラクシル。
強力なレーザー群を、しかしソブリンちゃんは横っ飛びに躱した。
そのまま地面を抉るようにして方向転換すると、まるっきり勢いを殺さずに駆け寄って来る。
──FLCにおける魔法や遠隔攻撃は、ちょっと特殊な判定で処理されている。通常の攻撃のように躱すということが出来ず、いきなり回避ロールの判定を行う。互いのレベル差。能力値から導き出される命中値や回避値の比較。障害物の有無や彼我の距離関係。移動速度などの諸条件を加味して最終的な当たり外れを決定する。
着弾前に射程範囲外に出ることで擬似的に躱すことはできるのだが、それにはあらかじめ射程範囲とタイミングを読んでおくか、規格外のとんでも機動力が必要となる。それこそラクシルと同じレベルの。
……いや、そうだった。特別驚くことじゃなかった。「プリンセス☆ファウンドリー」随一の弱キャラ。ソブリンちゃん。ひ弱な彼女のただひとつだけの長所が、その圧倒的な素早さだった。回避ロールの成功率はバカ高く、相手の攻撃がほとんど当たらない(でも当たるとすぐ死ぬ)。他のキャラが1回行動する間に、彼女だけは2回も3回も行動出来る(でも非力)。
いまや彼女には強力無比な武器、魅了効果付きの「愛情☆どくどくハンマー」がある。一撃必殺の猛毒を持つ蜂を相手にしているようなものだ。
「――っご主人さまああああああ!!」
ハンマーを振りかぶり、ソブリンちゃんが真っ正面から跳びかかって来きた。
「うぉああああああ!?」
転がるように横へ跳んだ。
ついさっきまで俺がいたところに、ハンマーの一撃が打ち下ろされた。
ボゴオオオンッ、轟音とともに地面が割れた。十字に避けた。亀裂は深く広く、何メートルにも渡った。
「さっさと目を覚ますのだあああああああ!!」
「醒ます間もなく死んでしまうわああああ!!」
「大丈夫!! 死んだら復活させてやるのだ!!」
「死ぬ前提で話進めるのやめろよ!! 少しは平和裏に解決しようと努力しろよ!!」
「大丈夫だ!! 蘇生に失敗しても不死者として生きる道があるぞ!!」
「斜め上に解決してんじゃねえよ!! ええい、話にならねえ!!」
ギャリンッ、ギャリンッ。
魔剣とハンマーが火花を散らす。ぎりぎりのところで、俺は直撃を避け続けた。
「ラクシ……くっ!! ダメか!!」
ラクシルはトレインの後続を追い払うことに手いっぱいで、こちらに手助けをする余裕がない。
もとよりアールは接近戦闘に向かないキャラだし……。
「――コルム!! 援護を!!」
「任せて!!」
コルムがたて続けに3本、矢を射た。
「当たるかあっ!!」
キンキンキンッ、硬い音が3つ響いた。鏃だけを正確に狙い、ソブリンちゃんは打ち払った。
打ち払ったといったが、実際には回避ロールの成功をモーションで表現しているだけだ。処理上の問題だ。
「通常攻撃がダメでもこれならどうよ!! 双頭の蛇!!」
コルムが打ち出した矢が、分離するように2本に別れた。1本の矢の下をかいくぐるように、もう1本撃ったのだ。問答無用で命中しクリティカルヒットを叩き出す、回避ロール無視の技だ。
「それこそ当たるものかよ!!」
ソブリンちゃんは持ち前の高機動力で弓矢の射程範囲外に脱出した。
──今だ!!
俺はすかさず走り──逃げるのではなく間合いを詰めた。
「むうっ!?」
いきなり接近してきた俺に戸惑うソブリンちゃん。
まっすぐに突き出した俺の魔剣を、とっさにハンマーで受け止めた。
魔剣を──名を穿つ者の剣を──振るう分にはただの直接攻撃だが、マジックワードとともに相手の名を叫べば遠隔攻撃扱いで突き刺さるレア武器を──受け止めた。
「『剣よ!! 剣よ!! 我が声を聞け!! 我が敵の名を知れ!! 其は汝の敵なるぞ!! 地の果てまでも追い駆けて、討ち果たさねばならぬ者なるぞ!! 知らざるならば胸に刻め!! 憎き其の名は――ソブリンちゃん!!!!!!』」
パァアアアー。
鏡のように磨かれた魔剣の表面に、光の文字が浮かび上がる。「ソブリンちゃん」と書かれている。俺が敵として見なした者。地の果てまでも追いかけて、刺し貫かねばならぬ者の名。
「ゼロ距離だったら躱せないだろうが!!」
閃光は刀身すべてを覆い、身を焦がすような鮮烈な光になった。風が巻き起こる。重力を振り切るほどの強い風に、俺の体が浮き上がる。
「……ぬううううぅっ!?」
ソブリンちゃんの顔に動揺が走る。
鍔迫り合い状態の俺を弾き飛ばそうと力をこめてくるが、残念、おまえは非力すぎる。
──ギギィヂィィィッ!!
金属同士が噛み合い擦り合う、すさまじい音が響いた。
俺の体は魔剣に引っぱられるように斜め上方に飛び上がり、途中にあったソブリンちゃんの肩口を切り裂いた。
「やった!!」
ソブリンちゃんの後方に着地した俺は、勝利を確信して振り返った。
ひ弱なソブリンちゃんが、かのゴルガリの魔塊をも傷つけた魔剣の一撃を受けて、無事でいられるわけがない。
はたして、ソブリンちゃんは地に両膝をついていた。
肩口を押さえながら、放心したようにへたりこんでいる。
HPバーは真っ赤だが、まだ生きている。
──今ならとどめをさせる。魔剣を構え近づいた俺は、しかし思わず足を止めた。
「う……う……っ」
ソブリンちゃんの様子が違っていた。
先ほどまでの尊大な態度はどこへやら、ふるふると小さな肩を震わせて泣いていた。
「──うわあああーんっ!!」
「え……あれ? え……っ?」
「ご主人様がいじめだあああーっ!!」
「え? なんで? だって……」
いじめるっていうか、そっちから仕掛けてきたんじゃん。
まっとうな意見を述べようとしたが、ぎゃんぎゃん子供みたいに泣きわめくソブリンちゃんの大声にかき消された。
「我はあああっ、ずっどずっど待っでだのにいいいいっ、浮気しでっ、よそで女を作っでだぐぜにいいいいぃ!!」
「や、だからそれは誤解っていうかさ……」
俺は全然悪くないはずだ。なのになんだこの罪悪感は……。
「……ちょっとあいつ、ひどくない?」
打ちひしがれるソブリンちゃんの様子が哀れを催したのか、場の空気が変わってきた。
「なんかあたし、ソブリンちゃんが可哀想になってきた」
「むしろハチヤのほうが悪役みたいな……」
ヒーローズ・ユニオンからも不満の声が上がり始めた。
「なんでオレら、あんなクズ野郎のために体張ってんの?」
「うちの猫、去年死んだんだよね……。車に轢かれて。あんな気持ちだったのかな……」
生配信動画のコメントは、なおさらひどいものだった。
「考えてみりゃこいつ、男女ひとりずつの二股かけてたわけでしょ?」
「中の人は女の子らしいよ?」
「ゲーム内外で四股? たまげたなあ……」
「リア充死すべし。ハチヤ討伐イベントに変えようぜ?」
「ふざけんなよ!! なんで俺が悪役みたいな流れなんだよ!! 逆だろ逆!! ソブリンちゃんは悪の親玉だぞ!?」
俺の正当な主張がしかし、受け入れられることはなかった。むしろどんどん火がついて、ハチヤアンチスレまで立てられそうな勢いだ。
「頑張れソブリンちゃーん!!」
「応援してるぞー!!」
「そいつを倒す手伝いしてやろうかー!?」
俺への敵意が、ソブリンちゃんへの声援に変わっていく。
「ありがとうなのだ。みんな──」
ソブリンちゃんは涙を拭って立ち上がり、ふるふるとかぶりを振った。
「でも大丈夫。ひとりで出来るのだ。ずっとずっと待っていた。ずっとずっと想っていた。この気持ち──」
ちゃきり、ハンマーを俺に向ける。
「必ずご主人様に、届けてみせる」
にこっ……、痛みに耐えながら健気に微笑んだ。
『か──』
みんなの気持ちがひとつになった。
『かっわいいいいいいいいいいいいいいぃっ!!』
どっと湧いた。
ヒーローズ・ユニオンが、生配信動画の視聴者が、心をひとつにして叫んだ。
「可愛い可愛い可愛い!! なにあれ!! なにあの生き物!!」
「健気可愛い!! うちにも欲しい!!」
「あんなクズにはもったいない!!」
あとで知ったことだが──この瞬間、多くの視聴者がFLCをポチッてた。ネット通販サイト各社のゲーム部門の売り上げワンツーを、FLCとプリンセス☆ファウンドリーが飾ってた。
「いやいやいやおかしいだろ!! 届けてみせるって、脳天直撃ってことだからね!? 魅了の効果で無理やりいうこと聞かせるって意味だから!! 説得カッコ物理を柔らかく言い変えてるだけだから!!」
「ご主人様……」
目の前の霧が晴れたような清々しい表情で、ソブリンちゃんは語り出す。
「大丈夫。もうすぐ我らはあの時みたいな関係に戻れる。──そうだ。ふたり暮らしをしよう。誰も知らない森の奥で、魚でも捕って暮らそう。邪魔が来たらすべて我が排除してやる。ご主人様はのんびり椅子にでも座っていればいい。何もかも、我が整える。だからもう、何もするな──」
「おい完全にヤンデレ台詞じゃねえかそれ!! 山奥の小屋に閉じ込められて椅子に縛られてるイメージしか湧かねえわ!!」
ガイド妖精のチャコが、ここぞとばかりにアナウンスする。
「おおーっと!! ハチヤくん、なんとソブリンちゃんの求婚を拒否!! しかも乙女の純情をヤンデレ扱い!! 酷い!! これは酷い!! 四股かけたあげくの無情な発言に、この私も憤りを抑えられません!! みなさん!! いいんですかー!? こんな男をのさばらせておいてー!?」
『よくなーい!!』
チャコの扇動にノルみんな。
「だったらどうすればいーいー!?」
チャコが耳に手を当てると、俺バッシングの大合唱が始まった。殺せ、あいつが敵だ、捕まえろ、人類の敵──いやそれは言い過ぎだろ……。
「ちくしょう、とーこのやつふざけやがって!! 仲間はずれにされたことをいつまで根に持ってやがるんだ!!」
俺の苦情はしかし、大バッシングにかき消されて消えた。
チャコ=とーこは空の上でにこやかに笑い、立てた親指をぐりっと下に向けてよこした。
「隙ありぃいいいいいいいい!!」
ゴッ、ゴチィーン。ギャグ地味た音をたてて、ソブリンちゃんのハンマーがアールとコルムの頭を立て続けに打った。
「あああぁーっ!!」
「しまった……油断した!!」
悲鳴を上げるアールとコルムの頭から、ふよふよピンクのハートマークが浮かんできた。
「ヤバい……幸助。あたし……コントロールが効かない……」
操作権限を奪われたふたりは攻撃の矛先をくるりと俺に向けた。
「ハチヤ、ごめん逃げて!?」
「逃げろ幸助!!」
「逃げろったって……!!」
魅了状態のキャラクターは、指示されたターゲットにひたすら通常攻撃を加える仕様だ。特技や魔法の類も使えないし、走ることも出来ない。だからすぐにどうこうなるというわけではないのだが……。
「新婦役がふたりとも操られちゃってどうすんだよぉ!!」
とりあえずの攻撃回避を優先して、俺は走り出した。
「簡単だ。我とけ……結婚すればよいのだ」
頬を染めながら、ソブリンちゃんが並走してくる。
「できるかあああああっ!!」
ソブリンちゃんは心外、とばかりに目を見開いた。
「な、なんでだっ!? 良いだろうが、身分差カップルとか萌えるだろうが!!」
「そういう問題じゃねえよ!! いくらイベントクリアのためったって、敵とは結婚できねえよ!! そんなことしたら完全に悪役じゃねえか!! 公式配信動画でいきなり主役が悪堕ちするわけにゃいかねえっての!!」
「今はどっちかっていうとご主人様のほうが悪役だぞ!?」
「うるせえよ!! それもこれも全部すべておまえのせいじゃねえか!!」
「じゃあじゃあこーくん!! 私と……!! ──って、ええ!? 坂崎さんなんで──」
勢い込んで近寄ってきたチャコはしかし、突如コントロールを失ってどこかへ飛び去っていった。
一瞬言い争う声が聞こえてきたような気がしたのはたぶん……。
「な……なんだったのだ今のは……?」
きょとんとするソブリンちゃん。
「ああたぶん……中の人のマネージャーさんが止めたんだ。一応仕事中だからな。あいつ……」
ここまで自由にやり過ぎだったしな。さすがの坂崎さんも怒ったんだろう。
「マスター……ケッコン……?」
ようやくトレインを振り切ったラクシルが、俺の隣に並んできた。
「貴様……機械兵のくせに生意気な!!」
ふしゃーっ、とソブリンちゃんが牙を剥き出しにして威嚇する。
「そ……そうかっ、ラクシルがいたか!! ラクシル!! 俺と結婚してくれ!!」
「ケ……!?」
ぴー!! 頭の金属筒という金属筒からレーザーを発射するラクシル。
「ラクシルラクシル!! なんか出てる!! 漏れてる!!」
「ごごごごご……ご主人様の女ったらしいいいい!! こんな機械兵にまでも求婚してえっ!!」
「のうわっ!?」
ソブリンちゃんの攻撃を、俺は魔剣でからくも受け止めた。
「ぐぐぐぐぐ……っ」
「ぎぎぎぎぎ……っ」
非力な軽戦士の俺と、それに輪をかけて非力なソブリンちゃん。
地味ーな力比べを邪魔したのは、横合いからのラクシルの強烈な一撃だった。
ギィン、硬い音をたててソブリンちゃんの体が弾き飛ばされた。
「おのれ……邪魔立てするか……っ!!」
ソブリンちゃんは憤りながら片膝をつき、すぐに体勢を立て直して立ち上がった。
両の手首から先を斧と化したラクシルが、目を据わらせて追撃をかける。
「……双斧竜巻」
竜巻のように荒れ狂うラクシルの連撃を、ソブリンちゃんはことごとく受け止める。
斧とハンマーが火花を散らした。
「邪魔をするなああああ!!」
「ラクシル……マスター……ノ……ヨメ……」
「このポンコツが!! 調子に乗りおって!!」
──そこへトレインが殺到した。
「ぬおおおおっ!?」
「……ッ!?」
ラクシルとソブリンちゃんは、怒涛のようなモンスターの奔流に呑みこまれ、見えなくなった。
「――おおおおおおおっ!?」
俺は追い立てられるように走り出した。
トレインはふたりを呑みこんだあとも勢いを緩めることなく、俺を追走してきた。
「ど……どうすんだよこれええええええええ!?」
アールとコルムも今やトレインの一部になっていて、とてもじゃないが個別に救うことは出来そうにない。火中の栗なんてレベルじゃない。
イベントの性質上、ひとりきりで逃げても意味はない。新郎だけでは結婚出来ない。
だけど立ち止まれば俺まで呑みこまれる。そうなったらおしまいだ。すべてが水泡に帰す。
走るしかなかった。俺はただ、がむしゃらに走った。
走る。走る。走って――。
教会へ飛び込んで扉を閉めた。
外ではヒーローズ・ユニオンと世界喰らいが激闘を繰り広げている。
トレインは変わらず走り続け、こちらへ向かってくる。
空からはチャコが声高に実況中継を続けている。
いろんな音が聞こえてくる。
教会にはただ、俺ひとり――
「ねえねえ~、あるじ様ぁ~」
能天気な声がした。耳元でぱたぱたと、軽やかな羽ばたきの音が聞こえた。
「……っ」
俺は息を呑んで、音の主を振り返った。
体長は20センチくらいか。藍色の髪の毛を、前髪だけ長い短髪にした幼女だ。若草色の霊糸で編まれた上下を着ている。短パンはチューリップ型で、長袖シャツの背中には羽根用の穴が開いていて、そこからトンボのような羽根が2対出ている。
ルル――風邪薬みたいな名前の、俺の相方――。
「そうだ……。ルル……おまえがいた――」




