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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
少女協定

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86/118

「集めル」

 ~~~蜂屋幸助はちやこうすけ~~~


 有力ギルドの中枢メンバーや有名個人らの横の繋がりを駆使した大規模オフが開かれたのは、10月を目前に控えた週末の、月の明るい夜のことだった。

 学生など若年層を中心に人気のある全国チェーンの居酒屋の個室は、人でごった返していた。定員50人のところに80以上も詰め込んでるのだから、当然ぎゅうぎゅうだ。掘りごたつに入れない人は座布団。それでも足りない人は板張りに体育座りする有り様だ。

 それでもとくに不平不満が出ないのは、プレイヤーにとことんまで忍耐を強要するFLCというゲームの特性故かもしれない。どんな理不尽を感じても泣き言を言わず、苦笑いしながら受け入れるように全員が訓練されているのだ。


 俺、るい、イッチーの3人はなんとか席を確保出来たけど、小巻こまきは確保できなかった組のパナシュやメイルーの中の人に誘われ、隅っこで膝をつき合わせて話し込んでいた。ふたりとも二十歳ぐらいの綺麗な女性だった。ちょっとギャルっぽくて小巻とは合わなそうに見えたけど、意外と打ち解け、話を弾ませているようだった。

 

「……ね、幸助くん」

 隣にいた涙が心細げに俺の服の袖を引いた。なにその動作めっちゃ可愛い。

「大丈夫? わたし、居酒屋なんて初めて来たんだけど……」 

 涙が不安になるのも無理はない。周りはFLCという共通項しかない見知らぬ人ばかりで、大人率が高い。ふすまの向こうから聞こえてくる「うぇーい」という若者特有の鳴き声や喧騒も、読書少女の涙にとって、普段はまったく聞く機会のないものだろう。

 俺は肩を組むようにして顔を近づけると、涙の不安が少しでも和らぐように、ゆっくりと教え聞かせた。

「俺は親父とお袋が呑むのにつき合わされたから何度かある。酒を呑まない分には普通の食事処だから安心しろ。酔っ払いに絡まれないように、ひとりでふらふらしたりはすんなよ? 他に困ったことがあったら俺に言いな」

「う、うん……幸助くんがそう言うなら……」

 涙は顔を赤くしながら、「わたし頑張るっ」とつぶやき気合いを入れつつ、ぐぐうっと拳を握った。

「るーい。絡まれたらオレを呼びな。相手が何人でもぶっ飛ばしてやるから」

「はいそこ物騒な発言しなーい」

 つっこむが、イッチーは聞いてない。拳をぱきぽき鳴らし、がるると唸り、無意味に周囲を威嚇している。格闘イベントかなんかと勘違いしてませんかねこの人……。


 周囲にはいろんな人がいた。俺たちみたいな学生もいるし、社会人も多かった。年齢層も幅広く、下は10代から、上は50代どころか60代までいた。

「おー!! おまえがハチヤか!! 送ってもらった写メの通りだな!! 中2だって!? ちっせーなあおい!!」

 20代半ばの茶髪の男が、人をかき分けかき分け、俺に話しかけてきた。

「サーディン……か?」

「おうよ!!」

 送り交わした写メ通りの長身さわやか系のイケメンは、サーディンこと景山辰巳かげやまたつみだ。

 某有名大学の院生にして運動神経抜群。コミュ力もあり知り合いも多い。今夜のオフの中心になって連絡を取り合ったのもこいつだ。リア充っぽいと思ってたけど、実際に会ってみたらもっとすごかった。天は二物も三物も与えたという見本のようなやつだった。


 握手を求めてくるのに応じ、笑顔を返した。

「うっせーよ。……ふん、しかしまさか、サーディンに会える日が来るとは思ってなかったぜ」

「そうかぁ? オレはいつかこんな日が来るって信じてたぜ?」

 おどけるサーディンは俺の後ろで壁を背にして座り込んで、両隣の涙とイッチーに目をやった。

「キミらもハチヤの仲間だろ? オレはサーディン。どこかで会ってるかもな。よろしくっ」

「は、は、は、はじめまひて……!!」

 初対面のイケメンに話しかけられ、盛大に噛む涙。

「――ハチコー。なんだこのチャラいやつは?」

 とげとげしい視線を隠そうともしないイッチー。

「こっちのコはずいぶんとまあ……凛々しいね」

 さすがのサーディンも距離感に戸惑っている。

「ああ!?」

「はいはいすごまなーい」

 剣呑に目を光らせるイッチーをなんとか落ち着かせると、俺はサーディンに耳打ちした。

「野生の獣だと思ってコミュニケートするんだ。けっして正面に立ったり大きな音を立てたりすんな」

「お、おう……そうなの?」

「餌を与えるのは有効かもしれんが、くれぐれも過信しないことだ。三歩歩けば恩義も忘れる」

「なかなか難儀なコなんだな……」

「だよ……っと、おお?」

 サーディンが手にビールのジョッキを持っているのに、今さらながらに驚く。

「……サーディンも呑むんだなあ」

 ゲームとリアルは違うんだな、と今さらながらに実感する。

「ああ? 酒? そりゃそうでしょ。大人だもん。ハチヤも高校生になったら一緒に呑もうぜ?」

「その頃に法改正されてたらな……」

 ははは、と爽やかに笑いながら、サーディンは会場を見渡す。

「しかしけっこう集まったな。正直ここまで大きなオフ会になるとは思ってなかった」

「俺もだ。それだけ今のFLCに関する注目が高いってことだろうな」


「あー、あー、あー。ごほんえほん」

 上座に座っていた男性が立ち上がった。

 30ぐらいの小太りのおっさんだ。ぱつぱつのジーンズにタータンチェックのシャツ。額に赤いバンダナ。絵に描いたようなオタクの人。

「今日はよぉくぅぞお集まりくださいましたぁ!!」

 緊張しているのか、抑揚のつけ所がおかしい。あと声がデカい。

「拙者はぁ喜びの念を禁じえませぇん!!、きょ、今日のような日が来ることを何度夢に見たことかぁ……妖精あいかたの無茶ぶりに晒され続けぇ、幾度となく超級モンスターに挑まされぇ、命を散らしながらも決して諦めなかったぁ……。この日を……諦めなくてよかったぁ……ううぅ!!」

 なぜか最後は泣き崩れた。つか、拙者? 何時代の人?


「あー……『カンプナトゥ旅団』のジェイク卿さんのご挨拶でした。ここからは『ミルキークイーン』の私、刹那せつなほたるが司会進行を務めさせていただきます」

 ジェイク卿さんを座らせ、代わりに立ったのは高校生ぐらいのメガネで長髪の女の子だ。清潔感のあるパンツルックで、ちゃきちゃきと小気味いい喋り方をする。

「当然お気づきでしょうが、今日ここにお集まりいただいたのは、長年FLCで活躍して来たみなさんです。名のあるギルドの長、中心メンバー、掲示板を騒がす有名個人の方々ばかりです。長年こんなゲームをプレイしてきた……まあ、つまりは重度のマゾっ子の集まりなわけです」

 どっと沸く一同。

「私たちは願っていました。FLCの存続を。別れた仲間たちが復帰し、新規会員が参入し、以前のような賑わいのあるコンテンツになることを」

「そうだ!!」

「いいぞ!!」

 聴衆からかかった声に、刹那ほたるさんはにこやかに手を振った。

 少し間を置き──神妙な顔になる。

「幸か不幸か。願いはかないました。カラミティという前代未聞の危機に際し、多くの仲間たちが戻って来た。新たな仲間たちが加わった。我々の時代が、再びめぐり来た――」

「長かったー!!」

 誰かが叫んだ一言で、一気に座が盛り上がった。

「この時を待ってたんだ!!」

「だよね!? みんなそう思ってたよね!?」

「感無量だほー!!」 

「FLC最高ー!!」

 みんな、口々に歓声を上げジョッキを打ち合わせたりしている。未成年はジュースやウーロン茶を酌み交わしている。遠隔地に住んでいる人は個人のノートPCの中で盃を掲げてた。


 重度のマゾっ子たちという言い方には語弊も異論もあるけれど、たしかに似たような人たちばかりだった。妖精が好きで、妖精と共に冒険をしたくて、支離滅裂で無茶苦茶なゲームバランスにも耐えてきた。いつか訪れる終わりに怯えながら、でもいつか見た夢がかなうことを信じて耐え続けてきた。そんな一途な仲間たちが、距離を越え、今一同に会している――。


「……」

 じーんと感動していると、涙が無言で俺の手を握ってきた。

 俺はちょっとどきまぎしながら、そっと握り返した。

「……ほほーう? やるじゃんハチヤ」

 サーディンの耳打ちは無視。絶対誰にも言わないように、あとで釘を刺しておかなければ。


 こほん、刹那ほたるさんの咳払いで、みな一斉に口をつぐむ。

「戦力が増加するということは、パワーバランスが変わるということでもあります。狩場の取り合い。超級モンスターの討伐管理。その他諸々、いままでは考えなくてもよかったような問題が山積みされています。今日の集まりはその話し合いのためであります。旧交の温め合いをしたいという個人的な要望もあります。かてて加えてもうひとつ。……ふっふっふっ。でっかいメインを用意しているんですなーこれがぁ!!」

 メイン? なんだ? ほとんどの人がわからず、顔を見合わせている。


「――では皆の衆!! とっくとご覧あれ!!」

 刹那ほたるさんの目の前にあるノートPCの中、とーこが笑顔で手を振っている。

 ちょっと引きつり気味なのは、緊張ではなく妖精をイメージした衣装コスプレ──古代ギリシア風の貫頭衣にトンボの羽根──のせいだろう。

 あれを自宅でやってるんだと思うと笑え──いやなんでもない。

「……誰あれ?」

「可愛いー!!」

「あれってあれじゃん!! 声優アイドルの……トキリン!!」

「公式アテンダントの人でしょ!? 河野時子かわのときこだ!!」

「どゆこと!? どゆこと!? これってなんなの!?」


 双方向通話になっている。

 こっちの映像とあっちの映像は、寸分の狂いもなく同期している。

 とーこは固さの抜けない声で、慎重に言葉を選んで発信した。

「えー、はじめまして。冒険者のみなさん。ご存じの方もいらっしゃるようですが、おそらくそうでない方がほとんどだと思いますので、改めてご挨拶させていただきます。私は河野時子。FLCの公式アテンダントを務めさせていただいております──」

「おおートキリンだ!!」

「マジであの声だ!!」

「うちの妖精と同じ!!」

 感慨深げな聴衆。

「私はFLCを盛り上げるため、@トリッパーよりいくつかのタスクを負わされています。そのひとつとして、今日はみなさんにお願いしたいことがあります。それはとあるクエストの合同攻略と、動画による配信。主役はそこにいる彼――蜂屋幸助くんです」

 

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