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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
妖精戦争

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「戦争イベント」

ハチヤ 軽戦士ライトファイター50LV 丸耳族

 ルル 司祭ビショップ35LV

 迷惑スキル:諸人もろびとこぞりて。近くに一定数、もしくはレベル以上のモンスターがいて、プレイヤーが戦闘状態になければ、強制的にトレインを誘発させる。


 コルム 斥候スカウト50LV 丸耳族 

 バクさん 聖騎士パラディン35LV

 迷惑スキル:極限状況強制転移エクストリーム・ジョウンター。プレイヤーのHP(生命力)が一定値を下回ると、半径6キャラ分の範囲内にいるPTメンバーごと強制転移させる。


 マヤ  女騎士レディナイト44LV 小人族 

 バランタイン 騎士ナイト 31LV

 迷惑スキル:ライオン騎士ナイト。プレイヤーが戦闘状態になく、かつプレイヤーより強いモンスターがいれば、強制的に戦闘状態に入る。


 イチカ 闘女バトルレディ 44LV  獣人族 

 シショー 鉄鍛冶アイアンスミス31LV

 迷惑スキル:一意戦心。プレイヤーのHPが半分以下になった時にしか動かず、ひとたび動き出したらMPを消費し尽くすまで止まらない。


 アール・オブリス 尼僧ナン50LV  兎耳族 

 ママ 歌姫ディーバ35LV

 迷惑スキル:道化の嘲り(コメディリリーフ)

 罠があれば踏んでしまう。モンスターがいれば音をたてて見つかってしまう。物語の道化役として、「やってはならないこと」をやってしまう。発動ロールは脅威への距離による。近ければ近いほど、発動率は高まる。


 モルガン 魔女ウィッチ50LV 長耳族 

 ふくちゃん 吟遊詩人バード35LV

  迷惑スキル:小悪魔スウィートデビル

 小悪魔のようにお強請ねだりする能力。かけられていない回復魔法や強化魔法、物理盾を状況問わず要求する。強請られたプレイヤーは、MNDによる抵抗ロールに成功しない限り要求を満たすようシステムに強制される。所持金の100分の1までの金額のアイテムを購入するよう要求することもある。

 ~~~~~ハチヤ~~~~~


 王都イリヤーズの賑わいは、よくシチューに例えられる。といっても心温かクリームシチューとかじゃない。魔女の大釜で煮られてるやつだ。紫色だったり緑色だったりして、コウモリの羽根とかマンドラゴラの根とかが煮られたりしてるやつだ。オノマトペは「ぐつぐつ」じゃなく「ゴゴゴゴゴ……」な。

 無理もない。だって、王都の人口比率は9対1。妖精が圧倒的多数を占めている。あの快楽主義者たちが、街中をわちゃわちゃかしましく飛び交い走り回ってるあいつらが、迷惑スキルを全開にして望むがままの世界を演出している。さまざまなトレイン、明らかにあり得ない魔法実験の失敗、随所で上がる火の手、日常的な建物の崩壊……気の遠くなるほどの危険なイベントが手ぐすね引いて待ち受ける、通称FLCの火薬庫。混沌の大釜。それが、王都イリヤーズだ。


「いや~、ここは相変わらずだな」

 コルムが細い目をさらに細める。俺も王都はひさしぶりなので懐かしくウキウキしている。

「そうだなコルム。俺たちもう、半年くらい来てないんだっけ?」

「だな。最後はたしか、暴走ドラゴンに跳ねられて海岸線まで強制ワープされたんだっけか」

「あれにはまいったな。戻る途中でめんどくさくなって、諸国漫遊に切り換えたんだよな」

『あー、懐かしい』

 ふたりして浸っていると、

「……全然懐かしむような優しい記憶じゃないように聞こえるんだけどね……」

 モルガンが胡乱な目を向けてくる。

「えー? よくあることだぜモルガン。なあ、酒場で出された飲み物が麻痺毒だったり」

「泊まってた宿屋が崩壊したり」

『HPが1以下にならない仕様でよかったよな~』

 盛り上がる俺たち。モルガンはなぜかため息をつきつき、首を横に振った。

 

「通り向こうで巨大スライムが発生したってよ!! 鎧着てるやつが鎧だけ食われて次々と裸にひん剥かれてるってさ!!」

「猫耳メイドの集団が王様探ししてるってよ!! 見つけたらご主人様って呼んでもらえるらしいぞ!!」

 モブの喧騒をBGMに手近な酒場に入った俺たちは、今後の方針について相談することにした。

「ほ、本当に大丈夫なんだろうな? いきなり崩れたりしないんだろうな?」 

 いつもは余裕たっぷりのアールもさすがに今日は及び腰だ。天井や梁を見上げ、いつでも盾にできるようにお盆を構えている。脅しが過ぎたのか、出て来たハーブティーにもなかなか手をつけようとしない。

「あー? 気にすんな気にすんな。崩れるときは崩れるし、落ちるときは落ちる。それがここの掟だよ」

「なんの慰めにもなってないぞ……!?」

「門をくぐった時点で詰んでるから諦めろ。アール」

「そ、そういうことはくぐる前に言いたまえ!!」

 血相を変えて店を出ようとするアール。

「……ふ。まだまだ素人だなアールは。これこそFLCの醍醐味なんだぞ? これをモーニングコーヒーを嗜むのと同じレベルで味わえるようになったら一人前だ」

 黒豆で深みをつけたエールを毒味のようにぐいっと呑み干すと、アールは憮然とした表情で席に座り直し、ハーブティーの入った木製のマグカップをつんつんつついた。

「……ボクは子供のままでいい」

 

「……私、ちょっと外出てくるわ」

「バカ!! モルガン!! 死ぬ気か!? あたり一帯が地雷原みたいなものらしいぞ!?」

「……アール。大人にはね、ダメだとわかっていてもやらなきゃいけないことがあるのよ? 鎧を脱がされた可愛いNPCや、にゃーにゃー賑やかな猫耳メイドたちを前にして、この私が黙っていられるわけがないでしょ?」

「ただの自制の効かない子供の発言だ!?」

鎧喰らい(アーマーイーター)と|猫耳メイド捜索隊《にゃんにゃん~サーチャーズ》か。まあモルガンの好きそうなイベントだよな……」

 片やキャラの着てる鎧を溶かす特殊粘液を出すスライム「鎧喰らい」の討伐イベント。片や「王様」探ししてる猫耳メイドたちの協力をするイベントだ。

 鎧喰らいのほうは武器攻撃が効きづらいので唱える者(スペルキャスター)たちの多重攻撃で簡単に終わる。猫耳メイド捜索隊のほうは……あれけっきょく、誰も「王様」見つけられてないんだよな。まあこの広くてごちゃごちゃ複雑な構造をしてる王都でたったひとりの人を見つけること自体至難の業なんだけど。


「お、戦闘か? 戦闘だったらオレもいくぞ?」

 ウキウキした口調でイチカ。マヤがいないことで――自キャラを作って育て始めたとーことふたりで遊んでいるのだ――退屈そうにしていたのだが、王都の雰囲気がツボらしく、さっきからやたら楽しそうにしていた。

「行きましょうイチカ。大義のために」

「おう!! 行こうぜ!! 鎧喰らいとやらをブッ飛ばしに!!」


 止める間もなく出て行ったモルガンとイチカたちの背をむなしく見送り、俺はやれやれと肩を竦めた。

「直接攻撃の、しかも打撃攻撃じゃダメージなんかろくに当たえられんだろうに……まあモルガンがいてバランスはとれてるか?」

 でも鎧は壊されるかもな。イチカの服なんてほとんど布みたいなもんだし、まあ金銭的にダメージはないけど……。

「……なんか変なこと考えてないか? ハチ」

 なぜかじとっとした目で俺を見るコルム。

「なんだよ変なことって……」

「イチカさんの服が溶けたりとかさ……」

「そ、そんなことを!? 破廉恥だ!! 本当に破廉恥漢はれんちかんだなキミは!!」

「ちょっと待てお前ら!! イチカだぞ!? 獣人族の白豹だぞ!? 服がなくても天然皮着てるじゃねえか!! なんの問題があんだよ!! おまえらは野生の白豹見て興奮するか!?」

「そういう特殊性癖の人もいる」

「ハチヤ……!! なんてことだ……なんてことだ……!!」

「なんでおまえらはいつも俺をそこまで追い込みたがるんだよ!?」 

「その気持ち、ルルにはよくわかるんですけどねえ……」

「おまえにはわかるだろうよ!! おまえだけにはな!!」


「しかしいつにも増して賑やかですね~、あるじ様~?」

 追い込まれ疲れた俺をよそに、ルルは手びさしで外の様子を見やる。

「……あ~? 何いってんだ。賑やかなのはいつものことじゃ……」

 ファンタジックなのやホラーなのや、リアル路線にエロ路線、なんとも言えない不定形生物。様々な形の妖精たちが、わが物顔で通りを練り歩き飛び回っている。プレイヤー人口が少なくなった今でも、この通りだけは――いや違うな。なにかおかしい。

「いつもより多いような気がするな……」

 プレイヤーも、そしてたぶん妖精のNPCも。

 コルムに視線を送ると、やはり似たような疑念を抱いたのか身構えている。バクさんが「グルル……!!」と唸り声を上げている。

「どうしたんだ? ふたりとも」

 アールが近寄って来る。 

 妖精たちの雰囲気が普段と違った。剣を持ったり槍を持ったり、剣呑な雰囲気を漂わせているのが混じっている。


 ブオオォー。

 ブオオオォー。


「……角笛の音ですねえ?」

「あ」

 俺が気づき、

「あ」

 コルムも遅れて気が付いた。ふたり、顔を見合わせて声を上げた。

『戦争イベントだ――』


 そう、キティハーサは外敵であるロックラント帝国と戦争状態にある。日々の冒険や危険に追われて忘れがちだけど、実はけっこう緊迫した状況にあるんだよな。

「で、でもここってかなりの内陸部だよな? ここが戦場になるのって危ないんじゃないのか?」

「ヤバいんだよ」

「あっさり言うなあ!?」

 戦争に怯えたのか、アールの声が上擦る。


「もともと妖精ってのは戦争に向かない種族なんだ。耐久力が低いし気まぐれだし、迷惑スキルは敵にも味方にも害にしかならないし。それを補うのが召喚された俺たち冒険者ってわけなんだけど……。ほら、最近プレイヤー人口が減ってるだろ……?」

「え? あ……?」

 アールが硬直する。

「そうなんだよ。戦場は昔はもっと海岸線にあった。全盛期は帝国を海上の船にまで押し返したこともある。でも徐々に徐々に押し戻されて、都市がひとつふたつと陥落して……いまじゃこの有り様ってわけだ」

「さすがに王都が戦場になる日が来るとは思いませんでしたけどねえ……」

 ルルはしみじみとつぶやく。

「そ、そんな悠長に構えてていいのか!? ここが落ちたらどうなるんだ!?」

「え?」

「え?」

「え?」

 俺とルルとコルムが思わず声を上げ、バクさんが「……オン?」と首を傾げた。

「そこまでは考えたことなかったなあ……」

「ここが戦場になるの初めてでしたしねえ……」

「おおいぃ!?」

 俺の腕を掴み、ぶんぶんと振るアール。

「もっとちゃんと考えたまえよぉ!?」

 いやそんなこといわれてもなあ……。いままで考えたことなかったからなあ……。まあでも、ちょっと考えてみるか……。

 通常の戦争イベントは、基本1日に2回行われる。主役級NPCを一定数討たれるか、拠点クリスタルを破壊されたほうの敗北となる。敗北したほうはその都度一定のポイントを失い、このポイントロストがさらに一定値を下回ると拠点が陥落する。拠点を支配した側の勢力は拠点から補給を受けられ、兵士の能力や装備の上昇という恩恵が与えられる。支配拠点に近いほうが圧倒的に有利な戦闘を進められるわけだ。

 ちなみに帝国側の拠点に妖精側の勢力である冒険者が入ることは出来るが、巡回兵士に見つかると戦闘になる。その拠点でしか発生しないクエストが受注できなくなるなんてことはないが、ものすごくやりづらくなる。物価もものすごく高くなる。

 だから王都が落ちたら……ここで受けられる数多のクエストをすべてスニーキングでこなさなければならない。あげく物価がうなぎのぼりで消耗品の値段が跳ね上がる……うわあ……。

「ヤバいなそれは……」

「や、やはりか!? 大変なのか!? 一大事か!?」

「まあでもしょうがねえよ。俺たちただの冒険者だし、いちプレイヤーだし」

「達観しすぎじゃないか!? なにか方法はないのか!?」

 そんなこと言われてもなあ……ヒロイックRPGじゃあるまいし……あ――?

「ない……………………こともない」

「あるのか!? じゃあそれをやろう!! いますぐやろう!!」

「あるじ様……それって……」 

 ルルの顔が青ざめる。

「おい正気かよ……」

 コルムが唾を飲む。

 その通り。

「――妖精釜フェアリーズ・コルドロンを開ける」

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