「学生の本分は勉強ですので」
ハチヤ 軽戦士44LV 丸耳族
ルル 司祭31LV
迷惑スキル:諸人こぞりて。近くに一定数、もしくはレベル以上のモンスターがいて、プレイヤーが戦闘状態になければ、強制的にトレインを誘発させる。
コルム 斥候44LV 丸耳族
バクさん 聖騎士31LV
迷惑スキル:極限状況強制転移。プレイヤーのHP(生命力)が一定値を下回ると、半径6キャラ分の範囲内にいるPTメンバーごと強制転移させる。
マヤ 女騎士40LV 小人族
バランタイン 騎士 28LV
迷惑スキル:ライオン騎士。プレイヤーが戦闘状態になく、かつプレイヤーより強いモンスターがいれば、強制的に戦闘状態に入る。
イチカ 闘女 35LV 獣人族
シショー 鉄鍛冶25LV
迷惑スキル:一意戦心。プレイヤーのHPが半分以下になった時にしか動かず、ひとたび動き出したらMPを消費し尽くすまで止まらない。
アール・オブリス 尼僧35LV 兎耳族
ママ 歌姫25LV
迷惑スキル:道化の嘲り(コメディリリーフ)
罠があれば踏んでしまう。モンスターがいれば音をたてて見つかってしまう。物語の道化役として、「やってはならないこと」をやってしまう。発動ロールは脅威への距離による。近ければ近いほど、発動率は高まる。
モルガン 魔女40LV 長耳族
ふくちゃん 吟遊詩人28LV
迷惑スキル:小悪魔
小悪魔のようにお強請りする能力。かけられていない回復魔法や強化魔法、物理盾を状況問わず要求する。強請られたプレイヤーは、MNDによる抵抗ロールに成功しない限り要求を満たすようシステムに強制される。所持金の100分の1までの金額のアイテムを購入するよう要求することもある。
~~~~~ハチヤ~~~~~
一路王都へ……行く前に、レベリングをしてPTの実力を底上げするべきだとの俺の主張は、とくに反論もなく受け入れられた。千眼は強い。このまま無策に突き進んで仮にたどり着けたとしても、勝てなければ意味がない。今回勝てたのはたまたま好条件が重なっただけだ。
これには、現場にいたアールはもちろん、理知的なコルム、ぽけーっとして話を聞いているだけのマヤやイチカも(こいつらはたぶん流れで)賛意を示してくれた。
問題はモルガンだった。なにせ自分の弟子を、しかも年端のいかない女の子を拐われている状況だ。焦り狼狽えるのが当たり前。理を尽くしてもなお、強固に反対されたらどうするか?
その場合は俺たちがレベリング、モルガンが捜索とPTを分けた上で、モルガンが「敵」に遭遇する前に合流するルートを考えていた。スケジュール的に厳しいのは百も承知。なるべくなら選びたくない選択肢だった。
だけど結果的には、そういった苦労はまったくなかった。拍子抜けするほどあっさりと、モルガンはレベリングに同意してくれた。
教訓になっていたのだ。モルガンにとっては。安易なストーリー進行でバドとレフを危険に晒したことが、よほど骨身に染みているようだった。
レベリングは驚くほどスムーズに進んだ。みんながゲームにこ慣れてきて、かつ互いにとるべき行動や流れを把握した結果、素晴らしいチームワークを発揮した……とだけ言えればカッコいいのだが、その割合は実は半分くらいしかない。もう半分は指輪の力だ。モルガンの所持する「名を縛る者の指輪」が、単純におっそろしいチートアイテムだったのだ。
最大2分、半抵抗で1分、相手の動きを完全に止める。その間は、あらゆる回避も抵抗も許さない。サンドバッグ状態になった相手に何も考えずに最大火力を叩きつけ、反撃の隙を与えず葬り去ることが出来る。効果切れの後先にさえ注意すれば、重ね掛けによる長期戦も可能となる。
前のめりの短期決戦こそがFLCの正義だ。なにせこのゲームには、すぐ隣に無茶をしてくる妖精がいるもんだから、盾役がガチッと固めてじわじわ削る、なんて悠長な戦闘をする暇がない。
だけどモルガンの指輪は、たったひとつでその前提を打ち崩した。望むがまま、硬軟自在の戦運びを確約した。
「正直驚かされるな。こんなにも違うとは……」
コルムはさすがに古参プレイヤーだけあって、革命的なやり易さにびっくりしている。
「ここまで来るとチートというか……」
単純に感激ではなく、どこか気まずさを抱える生真面目さもコルムらしい。いままでの常識や努力のすべてを無にするようなアイテムの存在に、こいつは忌避感を抱いている。
「ま、まあ別に裏技とかじゃないし……」
俺が弁明すると、
「はは、わかってるさ。とにかくスピードを上げないとだもんな」
コルムは快活に笑う。無理をしているように見えるのは気のせいだろうか?
「ちなみにこの前のアイテム……外套だっけ? あっちのほうはどんなアイテムだったんだ?」
名を騙る者の外套。
背中の防具であり、防御力は極めて優秀。呪文と共に使用し、発動の際にコマンドワードとして対象の名前を呼ぶことで、使用者は唱えた対象の姿をとる。
発動時にMPを消費し、持続時間は30分。姿形は完全に対象そのものとなるが、能力値は変化しない。ついでに言うと、実際に見たことのあるものにしか変身出来ない。
「プレイヤー、NPC、モンスター、無機物にも変化出来て、ものによってはステルス効果もある」
「モンスターになれば狙われないとか?」
「そんな感じ」
「変身するのは本人だけ? 妖精は?」
「一緒に変身する。ふたりでひとつって感じだな」
「へえ……」
コルムは顎に手をあて、首をひねる。
「それってなんだか地味なような……」
「何を言ってるんだ!!」
横から口を挟んだのはアールだ。
「変身はロマンだろうが!! 第三者に成り済まして犯人の懐深く忍び込み、貴重な情報を奪取する!! その凄さがなんでわからん!!」
「ああ……探偵小説とかでありがちなやつか」
「変なスイッチ入っちゃったみたいですねえ……」
顔を真っ赤にしてまくし立てるアールから距離をとるルル。
「でもコルムさんの言う通り、他のふたつに比べるといまいちな印象なんですよねえ……」
「ステルス魔法付きの優秀な背中装備。実際にはそれだけでも充分なんだけどな……」
剣と指輪が強すぎるんだよ。マジで。
あとはまあ、アイテムじゃないけどバド。こいつもけっこう強い。レベルは主たるプレイヤーの7割端数切り上げ。つまりは妖精と同じで、動く樹が単純に部下に増えた感じ。迷惑スキルのようなものはとくに設定されていないようだが、「とにかく特攻だ!! なにはなくとも攻撃だ!!」な戦闘スタイルがそれに当たるといえば当たるのかもしれない。
今日何度目かのファンファーレが鳴り響く。黄金色の光に包まれたのはモルガンだ。レベルは40。
最大レベルが50のFLCにおいて、40は立派な数字だ。それはFLC特有の、最大の味方であるはずの妖精が最大の敵になることが多い矛盾と、レベルが上がれば上がるほど死亡時のペナルティが増大し、レベルダウンが頻発する鬼畜仕様のせいだ(なんと40から先は、一回死亡するごとにレベルアップに必要な経験値の半分がロストする。つまり、2回死ぬとレベルダウンする)。
ふくちゃんとバドに祝福されたモルガンの目が、「きらーん」と妖しく光る。
「来たわね、レベル40」
「やったな、転移の魔法だ!!」
賞賛すると、モルガンは得意げに腕組みした。
「――ふふん」
唱える者系のレベル40から開放される転移の魔法はふたつあり、魔女などの攻撃系が「旅の翼」。僧侶などの回復系が「信仰の行き先」となる。前者は行ったことのある都市や街へ飛び、後者は各地の神殿へ飛ぶ。発動範囲はひとPTごとであり、各種モンスターの「引き寄せ」や脱出不能フィールドすらも振り切って脱出出来るが、詠唱にきっかり1分かかり、モンスターへのヘイトも莫大なため、状況次第では詠唱中断されて逃げられないことが多々ある。
そういう意味で指輪との相性は抜群で、モルガンのどや顔はそこに起因する。想定される多くの事象から、彼女とその一行は逃げおおせることが出来るわけだ。
「……ふふふ、もはや、誰にも私を止められないわ」
「あんたが強いわけじゃなく指輪が強いだけなんだけどな……」
「あらぁ? そんなこと言っていいの? ビルが崩壊するわ!! みんなでヘリで脱出しなきゃ!! なシーンであんただけPTから弾きだすわよ?」
「……それなんの映画だよ……そしてあんたのそれは悪役ポジじゃねえかよ……」
「そういう人ってたいがい自分が弾き出されちゃうんですけどねえ……」
あるある。
~~~~~
「みんなレベルも上がったし、これから夏休みだし、どれだけ捗るかと思うと楽しみだなハチ!!」
テンション上がったコルムが俺の肩を叩く。
「はっはっは、そうだなコルム!!」
同調したアールが、逆側から俺と肩を組む。
「むむむむ……」
なぜか不満気なルルが俺の髪を引っ張る。
「おおおー!! 夏休みー!!」
「オレの時代が来たぜ!!」
年中夏休みみたいなフリーダム勢のマヤとイチカも大騒ぎ。
「はあ……登校日と宿直さえなければ天国なんだけどね……」
あんたはいつも働いてないんだから、こういう時には働きなさいよ。
夏休みを目前にして俄然テンション上がるみんな。しかし俺は、ちょっと憂鬱な気分でいた。
というのも、俺には俺で、解消しなければならない問題があったからだ。
~~~~~蜂屋幸助~~~~~
カリカリ、カリカリ。
小奇麗な白い部屋の中、無数の長机と椅子が並んでいる。
カリカリ、カリカリ。
板書をシャーペンでノートに書きつける音と、盛大に稼働するエアコンの音と、講師が何事かを喋る声が教室に響く。
夏期講習に来ていた。
受験に備えて、なんて殊勝な理由じゃない。率直に言って成績の悪化のせいだ。
もともとの俺の成績は中の中くらいで、良くも悪くもなかった。それが急激に落ち込んだのは、やはりここ最近の過剰ログインのせいだろう。勉強の時間がとれず、授業中は仮眠時間、考えることといえばFLCのことばかり。
そのツケは中間考査で表れた。垂直落下した成績に親は激怒し、反論の余地なくPCを封じられ、塾の夏期講習にぶち込まれた。
とくにPCが使えないのが痛い。皆の寝静まった夜中にこっそりログインすることぐらいは出来るけど、その時間だと他のみんながログインしてないし、どうしてもソロプレイばかりになってしまう。
部室のPCを使いに登校することは可能だけど、それだと夏期講習とかぶる。ぶっちぎればいい? バレたらそれこそPC没収されちまうよ……。
夏期講習の間は20日間。その間はどうしようもないと諦めるか……せっかくの夏休みなのになあ……。
はああ~……。ため息をつきつき机に向かう俺に、ルルが小声で話しかけてくる。
「あるじ様~、暇ですね~」
「俺は全っ然暇じゃねえよっ。絶賛ノートに書き取り中だよっ」
「あるじ様が忙しくてもルルは暇なんですよ~。ルルが暇だと言ったらそれがすべてなんですよ~」
「おまえはどこの何様だよっ。いいからちょっと黙ってろよっ」
「あー。そんなこと言っていいんですか~? 騒いじゃいますよ~? ここで一声上げちゃいますよ~?」
「お、おいやめろ。おまえそれ学校でやったことと同じじゃねえかっ。せめて塾ぐらいでは俺をまともなポジションに置いてくれよ……」
「ん~? どうしましょうかね~? あるじ様のルルに対するその不遜な態度を改めてくれたら考えましょうかねえ~?」
「だからどこの何様だよっ。最初から最後まで、不遜だったの全部おまえひとりだよっ」
「……ねえ」
「――!?」
隣の席の女子から声をかけられて、心臓が跳ねるほどびっくりした。「ひやっ!?」と大きな声を出しかけたルルを、右手の一挙動で折り畳みポッケにしまい込めたのは、日々の修練の賜物だろう。いやマジで、こういうこと多いんだよね最近。
「ご、ごめん。ちょっと家の事情でさ……」
意味のわからない弁解をしながら、ぺこぺこ謝罪する俺。
隣の席が女子なのは知ってた。でも自分のことで手いっぱいな俺は、まったく意識していなかった。改めて意識して見ると、驚くほどに綺麗な女子だった。背中まで届く黒髪はどこまでもつややかで、顔の造りは繊細で、肌は透き通るように白い。背が高くて腰も高いモデル体型。オリーブ色の半袖ブラウスと、赤白黒のタータンチェックのスカートは、たしか偏差値の高さで有名な私立の女子校の制服だったはず。
全方向に高スペックなその女子は、冷たい光を湛えた目を俺……ではなく、俺のポッケに向けている。ズボンの右側の膨らみを、穴の開くほど凝視している。
「ど、どうかしたのか……?」
携帯使ってたのが気に触ったのだろうか。お堅いタイプの女子なんだろうか。
びくびくしていたら、目が合った。酷薄な印象の女子で、とにかく視線がきつい。水晶体まで貫かれるような気がして、俺は思わずぶるりと背筋を震わせた。
「け、携帯はもう使わないし、うるさくしないからさ……」
手を振って愛想笑いする俺を、女子は片手で制止する。
ん、なんだ?
すうーっ、と女子は息を吸い込んだ。
何をするのかと思って見ていると、女子は教室中に響くような大きな声を出した。
「ひやっ!?」
「――!?」
ルルの声だった。でもルルの声ではなかった。ルルは俺のポッケの中にいた。
声はすぐ目の前から聞こえた。女子の体の中から生み出された。
つまりこのコは……。
「――河野時子よ」
女子――河野時子は立ち上がり、今上げたばかりの声と共に、教室中の注目を浴びていた。
騒ぐなら出て行きなさい。他の生徒の迷惑に云々……と講師が怒る中、河野時子は無視して俺に手を差し伸べてきた。
「来て。あなたに聞きたいことがある」




