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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
カロックの自警団

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「誰にも聞こえない」

ハチヤ 軽戦士ライトファイター37LV 丸耳族

 ルル 司祭ビショップ26LV

 迷惑スキル:諸人もろびとこぞりて。近くに一定数、もしくはレベル以上のモンスターがいて、プレイヤーが戦闘状態になければ、強制的にトレインを誘発させる。


 コルム 斥候スカウト38LV 丸耳族 

 バクさん 聖騎士パラディン27LV

 迷惑スキル:極限状況強制転移エクストリーム・ジョウンター。プレイヤーのHP(生命力)が一定値を下回ると、半径6キャラ分の範囲内にいるPTメンバーごと強制転移させる。


 マヤ  女騎士レディナイト28LV 小人族 

 バランタイン 騎士ナイト 20LV

 迷惑スキル:ライオン騎士ナイト。プレイヤーが戦闘状態になく、かつプレイヤーより強いモンスターがいれば、強制的に戦闘状態に入る。


 イチカ 闘女バトルレディ 20→21LV  獣人族 

 シショー 鉄鍛冶アイアンスミス14→15LV

 迷惑スキル:一意戦心。プレイヤーのHPが半分以下になった時にしか動かず、ひとたび動き出したらMPを消費し尽くすまで止まらない。


 アール・オブリス 尼僧ナン20→21LV  兎耳族 

 ママ 歌姫ディーバ14L→15V

 迷惑スキル:道化の嘲り(コメディリリーフ)

 罠があれば踏んでしまう。モンスターがいれば音をたてて見つかってしまう。物語の道化役として、「やってはならないこと」をやってしまう。発動ロールは脅威への距離による。近ければ近いほど、発動率は高まる。


 モルガン 魔女ウィッチ21→25LV 長耳族 

 ふくちゃん 吟遊詩人バード15→18LV

  迷惑スキル:小悪魔スウィートデビル

 小悪魔のようにお強請ねだりする能力。かけられていない回復魔法や強化魔法、物理盾を状況問わず要求する。強請られたプレイヤーは、MNDによる抵抗ロールに成功しない限り要求を満たすようシステムに強制される。所持金の100分の1までの金額のアイテムを購入するよう要求することもある。

 ~~~~~アンバー~~~~~


 目覚めた時、周りには誰もいなかった。

 カーテン越しに、強い雨風の音だけが聞こえてくる。

 豪奢ごうしゃな家具。ぬいぐるみや可愛い筆記具などの女の子らしい小物類。野遊びで持ち帰った何かの鉱石や枝や抜け殻などの子供らしい雑多な宝物――いつも通りの自室の光景。

 いつもと違うのは、ふかふかのベッドと花柄の寝着が汗をびっしょりと吸い込んで重いこと。

 いつもと違うのは、傍らに陶器の水壺とタオルが置いてあること。

 体を起こすと、額から濡れタオルが落ちた。

「そうか……わたし……倒れて……」

 ずきりと胸が痛む。病のせいが半分。心の内から発したのがもう半分。

「バド……」

 バドが樹皮人ドライアドだった――それは残酷な事実だ。アンバーが描いていた薄ぼんやりとした希望やささやかな未来の予想図は、そのたった一言で根底から覆されてしまった。


 幼き日――。

 村に越してきたアンバーに初めて話しかけてくれた子供がバドだった。

 料理人として雇われたロッカの足元をちょろちょろしていたバドは、新しい環境への不安と心細そさで押しつぶされそうになっていたアンバーを、外へと連れ出してくれた。手を引いて駆け出して、美しい野山を見せてくれた。

 風にたなびく草の香り、鳥を住まわせる木の肌の手触り、冷たく澄んだ小川の水の味――数えきれぬほどの生命の群体である自然の素晴らしさを、五感で味あわせてくれた。

 邪気なく笑う顔。春日ののどかさを思わせる若草色の髪の毛。泥んこで生傷が絶えないやんちゃな少年は、お話の中に出てくる王子様とはちょっと違うけれど、すぐにアンバーにとっての特別になった。


 レフはバドに連れられてきた。気の弱い大喰らいの男の子は、女の子と接するのが怖いらしく、最初はなかなか打ち解けなかった。

 虫捕りが好きなわけでもないし、棒きれを振り回すチャンバラごっこが好きなわけでもない。田舎育ちの子にしては弱々しく、アンバーとしても大いに弱った。

 食べ物の話が好き、とわかってから途端に話しやすくなった。ロッカの作る料理や、ワイナールの店先から漂う肉の焦げる匂いについて語る時のレフの顔は、とびきり輝いていた。


 3人でどこにでも行った。エリア境界を越えたことすらあった。夜中にこっそり抜け出して、モンスターの闊歩かっぽするテルメルクの森の中をびくびくしながら歩いて月光草を採りにいったのは、今でも話題に上るいい思い出だ。大人たちに大目玉をくらったところまで含めて。


 そのまま、どこまでも行けると思っていた。この道は幸せな未来へ通じていると信じて疑わなかった。

 でも実際には、どこにも通じていなかった。運命の袋小路の中に彼女はいて、そのことに気づいていなかった。


 沛然はいぜんたる雨が、窓を叩いている。分厚いカーテン越しで、何も見えない。昼なのか夜なのか、それすらもわからない。薄暗闇の中に、人の力の及ばぬ自然の猛威が荒れ狂う音が響く。

 自然現象には、抗っても逆らっても意味がない。通り過ぎるのをやり過ごすしかない。

 それはちょうど、NPCである彼女たちと、主上システムとの関係のように。


「バドぉ……レフぅ……」

 泣きそうになりながら、枕に顔をうずめる。

 助けを求める声は、きっと誰にも聞こえない。 


 ~~~~~モルガン~~~~~


「……しっかし、ホントなのかよ……」

 雨の中、崖をよじ登るバドの身のこなしは見事なものだった。樹皮人ドライアドだから土と親和性でもあるのか、道具も使わず手と足で、硬い岩肌を掴むようにしてひょいひょい登っていく。おっかなびっくりよちよち登っているレフとは雲泥の差だ。

「わかんない……でもワイナールさんは言ってた。月光草があればアンバーの発作が治まる薬が作れるって。ほら、あの人、若い頃は世界中を旅してたって。王都の薬草師にツテがあるんだって」

「こんな天候でも咲いてる場所なんてテルメルクの森の岩棚しかない……か。……いつ以来だって話だぜ。……ふん。どうでもいいがレフ。とっとと登って来いよ。こっちはもう着いちまうぞ」

「う、うんごめん……」

 レフは謝り謝り、必死に岩肌に食らいつく。

「……ごめんね。飛行フライトの魔法は他人にはかけれないの……」

 レフを見守るモルガンは、魔法の力でふわふわと浮いている。

「いいんだ。師匠せんせい。師匠はボクらにたくさんのことを教えてくれたし、鍛えてくれた。そうでなけりゃ、ボクみたいなデブの運動音痴が、こんな崖登れないよ」

 弱々しく微笑むレフ。

「うるせえよ。口より先に手を動かしな。おまえ、そういうの得意だろ?」

「く……!!」

「ちょっとバド!!」

 ぎすぎすした空気の中、クライミングは続き、やがて3人は崖の上の岩棚にたどり着いた。


 清らかな月の光を浴びて育った月光草は、青白い燐光を帯びているのですぐにわかった。木々と岩盤が絶妙に織り成す覆いの中で雨風を逃れ、仄かに光を放っている。

 問題は、その前にモンスターが立ちはだかっていたことだ。

 鬼樹オーガツリー動く樹(アニメイトツリー)が闇落ちしたモンスターだ。カロックの村周辺では最強。HPと防御力が高く、特殊技も強力で、一撃のダメージがでかい。現状の3人では、束になっても勝てる相手ではない。探知ディテクトの魔法の結果によれば、固有ユニークモンスターらしく、他の鬼樹よりも5レベル高い35レベル。これでは、こちらの攻撃はほとんど通らない。

「ちっ……」

 出直すか。ハチヤたちに応援を頼んで。

 歯ぎしりをして足を引いたモルガンのローブの裾を、バドが引っ張る。

「……悪ぃ師匠せんせい。もう手遅れだ」

「手遅れ……?」

 気がつくと、すでにイベントが始まっていた。鬼樹が巨大な根を尺取り虫のように蠢かせながら、じわりじわりと近づいてくる。


「おーほーほー」

 鬼樹の幹に空いた三つのうろの奥で鬼火が燃えている。陽気な声が、そこから漏れてくる。

「おーほーほー。バドじゃねえか」

「そうだそうだ。こいつはバドだ」

「なんでこんなとこにいるんだ?」

 鬼樹の本体は、洞の中の鬼火だ。普通の個体はひとつだけだが、固有モンスターであるこの鬼樹には三つある。だからなのか、固有名称は三つ頭。

「……オレの名前を気安く呼ぶんじゃねえ」

 バドが睨み付けると、呆気にとられたように一瞬の間を置いて、三つ頭はゲラゲラと笑い出した。

「おい、聞いたかよ。小僧が調子に乗りやがって!!」

「俺たち三つ頭の兄さんと対等になったような口ききやがって!!」

「人間なんぞに拾われてぬくぬく育ったはぐれ樹がよお!!」

 三つ頭は口々にバドのことをざまに罵った。

「おういバドぉ。今謝れば許してやらんこともねえぞ?」

「俺たち三つ頭の兄さんは、新しい獲物が手に入ってご機嫌だからなあ」

「どれが獲物だって? そりゃあおめえ、そこの丸々太った美味そうな丸耳族の小僧と、お高くとまった長耳族の女よ」

 三つ頭の枝先がするすると伸び、バドの頭をぽんぽん叩く。

 バドは鬱陶しげに首を振り、手を剣の柄頭に這わせた。


「ううぅ……」

 泣きそうな声を出すレフを抱き寄せながら、モルガンは考える。このまま戦闘に入るのなら、どうすればいいか。指輪の力によって動きを止めることは出来るが、レベル差がありすぎる。動きを止めている間に逃げるのが上策だが……。

「こんな時間にログインしてる人もいないもんね……」

 時刻はすでにAM02:00を回っていた。社会人ならまだしも、中学生の彼らが起きてゲームしてるとは思えない。一応各自にメッセージを飛ばしてはおいたが、間に合うとも思えない。


「くそ……っ」

 バドは苦しそうにしていた。言いたくないことを無理矢理言わされてでもいるかのように、全身を強張らせながら言葉を紡いでいる。

「ざけんな……。誰……が、謝るか……っ」

 少年らしく威勢の良い台詞回し。なのになぜだ? 表情が苦しそうだ。

「ふたりに……手を出すんじゃねえ。……オレが……」

 オレが相手だ。剣を抜き、三つ頭の枝を打ち払った。

「――悪い、師匠」

 謝罪と共に切られた戦いの火蓋。バドの唇が震える理由を、モルガンはまだ知らない。


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