「捕まってしまった子供たち」
~~~~~バド~~~~~
キャラクター名:バド 性別:男
さすらいの料理人であるロッカの息子。ちびだが元気でわんぱくで、特徴的な若草色の髪を風になびかせながら、カロックの野山を駆け抜ける。自称、カロックの疾風。他称、悪ガキどもの小さいほう。
カロックの盗賊団No.1
キャラクター名:レフ 性別:男
気は弱いが力持ち。いくら食べてもいっぱいにならない魔法の胃袋の持ち主。バドとは幼馴染みで、常に行動を共にしている……もとい引きずり回されている。妹のヨナのためなら体を張れる、良い兄貴な一面も。
カロックの盗賊団No.2
キャラクター名:アンバー 性別:女
イリヤーズ有数の商家の令嬢。体が弱く、転地療養でカロックの村に越して来た。バドたちと共に野山を走り回っているうちに、健康面も改善されているようだが……。
カロックの盗賊団No.3
以上が、探知の魔法でわかる3人のプロフィールだ。ネタバレになってしまうので、NPCの情報は必要以上には開示されない。
悪ガキ集団といいつつもそんなに悪くなかったり、そもそも3人しかいなかったり、バドの父親であるロッカがアンバーの家の料理人だったり、バドとアンバーが互いに憎からず思ったりしていることなどは、シナリオを進めていく中でわかるようになっている。
(問題は、そのシナリオなんだよな……)
バドは思う。
通常通りにシナリオを進めていれば、カロックの盗賊団は陰謀団へクラスチェンジする予定だった。小悪党が賑やか士になるだけの、ささやかで牧歌的なシナリオのはずだった。
――通常通りにシナリオを進めていれば。
重い事実に直面して、バドは大きなため息をついた。
「こぉらバド。手が止まってるわよ」
頬を膨らませたアンバーが(世界一可愛い)、掃き掃除の手を止めたバドを叱る。
「そうだよバド。ボクら、バドのせいでこんなことさせられてるのに……」
レフが箒を片手に恨みがましい目でこちらを見ている。
ハチヤたち一行に捕まったカロックの盗賊団は、余罪ことごとくを追及され、罰として村の掃除という奉仕活動を課せられた。村全体の、となるとあまりにも広範囲に及ぶために、あくまでもメインストリートだけだが。
緑多き田舎の村なので、落ち葉枯れ枝の数は尋常ではない。石畳の上を厚い絨毯のように覆っているそれを綺麗に片付けるには骨が折れそうだ。
村人たちの遠慮ない視線やからかいも、いちいち切ない。
「お。盗賊団(笑)じゃねーか。とうとう捕まったのか?」
「バぁド。親父さんが呼んでたぞー? 枯れ枝集めたら持って来いってよ」
「レフよぅ。おめえはもっと運動して痩せなきゃダメだな。そのままじゃ大人になる頃には熊になってるぞ」
「アンバーちゃ~ん。悪ガキどもに染められないようにな~」
レフは泣きそうになり、大人たちのアイドルであるアンバーは、作り笑いして手を振っている。
「……ちぇ、うるせえよ」
悪態をつくバドの声に、いつもの精彩はない。
「……あ~あ、もうや~めた」
箒を放り出し、縁石にどすんと腰を下ろした。暗い目線で空を仰ぐ。
どこまでも澄んだ青い空に、小さな雲がいくつか浮いている。どこかで小鳥が囀り、家畜がいななている。妖精が騒ぎ交わすかしましい声が聞こえてくる。カロックの村は今日も忌々しいほどに平和だ。
(……ホント、忌々しい世界だよ)
『……?』
アンバーとレフは顔を見合わせた。
「ひと休みするなら何か食べない? ボクお腹減っちゃったよ」
レフの食いしん坊発言にも、なんの反応も示さない。いつもなら「うるせえぞレフ!! おまえは食ってばっかだからそんなデブるんだよ!!」くらいのことは言うのだが。
「……どうしたの? バド」
アンバーがしゃがみこみ、心配げに覗き込んでくる。
「熱でもあるの?」
「……そんなんじゃねえよ」
額に伸ばされたアンバーの手を払うと、
「――おまえら、気づいてんだろ?」
強い目で、にらみつけるようにふたりを見上げる。
「あのタイミングで捕まったことで、シナリオが変わった。オレたちはもう、陰謀団にはなれない。あそこでだけは、捕まっちゃいけなかったのに……!!」
悔しさに耐えかねて、ぎりぎりと歯を食いしばる。
突如襲われた見えない力場。幾多のPCのどんな技能も魔法も追いつかなかったバドたちのスピードが完全に無力化され、あえなく捕まってしまった。あれさえなければ……。
「ああ……」
「なんだ。そんなことなの」
拍子抜けしたように肩を竦めるレフとアンバー。
「そんなことっておまえら……」
「気にしたってしょうがないじゃない」
「そうだよバド。それがボクらの運命なんだ。PCがいてこそのNPC。主上の命令に文句をつける気はさらさらないよ」
「だけどレフ!!」
勢い込んで立ち上がる。痛いほど拳を握り、振り下ろしどころのないことに絶望する。
「隠しシナリオだぞ!? 今まで発動したことのなかったシナリオが……なんで今回に限って条件を満たして……!! このオレたちの時に限って……!!」
「――バぁド」
アンバーの手が、背中からバドのお腹に回される。白い頬が頬に触れる。金髪が若草色の髪にかぶさる。
「アンバー……?」
「大丈夫よ。わたしはバドを信じてるから。レフと一緒に、きっとわたしを助けに来てくれる。世界中のどこにいても。たとえそれが大断崖の先であっても。そうでしょ?」
「アンバー……」
背後にいるから、アンバーの表情はわからない。でも微笑んでいるのだと思った。きっと、いつもの優しい表情をしている。バカをやるふたりを見守る目。バドが一番好きな、あの顔をしている。
「バドぉ。ボクもうお腹減ったよー。掃除なんか早く終わらせて、ご飯食べようよー」
空気を読んだレフのセリフに、ぷっとアンバーが噴き出す。バドから離れ、踊るようにステップを踏んで、レフのところへ向かう。
「ふふ、そうね。そうしましょ。ねっ、わたし、今日はサンドイッチを作ってきたの。バドのお父さんから習ったやつだから。きっと美味しいわよ」
「おおー。そりゃ美味そうだね。ロッカさんの料理は最高だから。……あ、いや、アンバーの手造りなら、いつだって美味いけど……」
「ありがと、レフ♪」
元気100倍で箒二刀流をし出すレフ。アンバーは塵取りを左手に箒を右手に携え、その場で軽やかにターンした。
「さ、もう少しよ。がんばろっ。バド」
「……ちぇ」
淀んだ瞳で、ふたりを見ていた。4年間をずっと一緒にいたふたり。こいつらの笑顔を守るためにはどうすればいい? 限られた時間の中で、閉じられた世界の底で、バドは精いっぱいに思考する――。




