「カロックの陰謀団」
ハチヤ 軽戦士36→37LV 丸耳族
ルル 司祭25→26LV
迷惑スキル:諸人こぞりて。近くに一定数、もしくはレベル以上のモンスターがいて、プレイヤーが戦闘状態になければ、強制的にトレインを誘発させる。
コルム 斥候37→38LV 丸耳族
バクさん 聖騎士25→27LV
迷惑スキル:極限状況強制転移。プレイヤーのHP(生命力)が一定値を下回ると、半径6キャラ分の範囲内にいるPTメンバーごと強制転移させる。
マヤ 女騎士24→28LV 小人族
バランタイン 騎士 17→20LV
迷惑スキル:ライオン騎士。プレイヤーが戦闘状態になく、かつプレイヤーより強いモンスターがいれば、強制的に戦闘状態に入る。
イチカ 闘女 16→20LV 獣人族
シショー 鉄鍛冶11→14LV
迷惑スキル:一意戦心。プレイヤーのHPが半分以下になった時にしか動かず、ひとたび動き出したらMPを消費し尽くすまで止まらない。
アール・オブリス 尼僧16→20LV 兎耳族
ママ 歌姫11→14LV
迷惑スキル:道化の嘲り(コメディリリーフ)
罠があれば踏んでしまう。モンスターがいれば音をたてて見つかってしまう。物語の道化役として、「やってはならないこと」をやってしまう。発動ロールは脅威への距離による。近ければ近いほど、発動率は高まる。
モルガン 魔女17→21LV 長耳族
ふくちゃん 吟遊詩人12→15LV
迷惑スキル:小悪魔
小悪魔のようにお強請りする能力。かけられていない回復魔法や強化魔法、物理盾を状況問わず要求する。強請られたプレイヤーは、MNDによる抵抗ロールに成功しない限り要求を満たすようシステムに強制される。所持金の100分の1までの金額のアイテムを購入するよう要求することもある。
~~~~~ハチヤ~~~~~
「うーん……何を頼んだらいいのかな?」
「尼僧だったら魔法効果を上げるキノコ系の料理かな。ワインとかと相性がいいんで、それでブーストかける人が多い。でもまあ、基本的には好きなものでいいよ。どうせどんなもの食べても飲んでも、それなりに能力は上がるんだし。ムキマッチョの尼僧だっていいだろうし、すばしっこい尼僧だっていいだろう。要は雰囲気さ、雰囲気」
最後までお品書きとにらめっこしていたアールにの肩を叩いてアドバイスして、ようやく全員分の注文が整った。
俺たちはレヴンドール大森林の隣のカロックの村の「ワイナールの青空酒場」で、レベル上げの疲れを癒すために小休止していた。ここは料理が有名で、名物のマキマキ茸の串焼き(ぐるぐるしたうずまき状のキノコを串に刺して甘辛いタレを絡めたもの)やマカク魚のヒレ巻き(たんぱくな川魚の白身に、カリカリに焼いたヒレをニラで巻き付け串焼きにしたもの。味付けは塩)など森や川の恵みをメインにしたラインナップが、「FLC実際に食べてみたい料理ランキング」上位を独占している。
俺を始めメンバーたちはそれぞれに定食や一品料理を頼み、エールやワインやミード、近在で採れた香草の混成酒などの酒類で喉を潤している。
FLCにおける食事には、ふた通りの意味がある。ひとつはHPMPSPの回復。もうひとつはドーピングアイテムとしての摂取だ。
様々な素材を合成した料理には、一時的に能力値を上げたり(下げたり)状態異常の耐性を上げたり(下げたり)といった効果があり、戦闘の事前準備として摂取するのは常識である。飲み物にも同様の効果があり、中でもアルコール類には料理との組み合わせで効果を強くする能力がある。もちろんアルコールなので飲み過ぎればステータスに悪影響を与える。一杯だけなら酒は百薬の長というわけである。
PTメンバーがゲーム初心者だらけなので、コルムと相談して、なるべく多めに休息をとるように心がけていた。1時間狩ったら10分休むとか、2時間狩ったら小休止してだべるとか、そんな感じだ。場所は拠点の村の酒場か、狩り場近くの安全地帯。狩りが長引けば長引くほど注意力は散漫になりがちだし、モチベーションを保つ意味でも、いい選択だったと思っている。なにせ俺とコルム以外は、ゲーマーでもなんでもないのだから。
リアルの俺は缶コーヒーのプルタブを開け、摩耶はさっき大声でお袋に紅茶を頼んでいた。お茶うけは夕食前にあらかじめ台所の棚からくすねておいたチョコウエハース。摩耶はそのへんの機転が効かないので、紅茶と一緒に頼んだら「夜だからダメ」とお袋に却下されて悶絶していた。ほほ。まだまだよの。
ボシュガシュ。ウエハース特有の脆い生地の歯ごたえを堪能しながら画面を見やる。小鳥がさえずり、そよ風が髪の毛先を揺らす。風光明媚で王都近傍で、富裕層や貴族階級の別宅が多く集まるカロックの午後が、絵画のように穏やかに過ぎていく。ここ最近はずっと雨煙るレヴンドール大森林を駆けずり回っていたから、オープンエアーでみんなとゆったりだべることが出来るこの空間が嬉しい。
「……あぁ~、このまま融けてしまいそうだなあ~」
「そうだな~、ハチヤ」
アールは俺の隣でにこにこしている。兎耳をぴんと立てて、いかにもご機嫌といった感じだ。
「最近は忙しくてこういう時間が持てなかったからな~」
「そうだな~、ゆっくりしたいな、ハチヤ」
融けたバターみたいにだるだるの会話をする俺とアール。
「どこの休日のカップルの会話だよ……」
離れたカウンター席から、コルムがツッこみを入れる。
「か、カカカカップルだなんてそんな……っ」
声を裏返らせるアール。
「マスター……コレ……?」
ラクシルの前には、俺と同じくエールが供されている。魔法の工芸品のこいつが呑むわけはないのだが、ひとりだけ何もないのは可哀想なので俺が頼んだ。俺はあくまでこいつとは家族のつもりでいるのだ。
「……?」
木製のマグカップと黄金色のエールを不思議そうに眺めるラクシルは、俺たちの動きを真似て、マグカップを口元に持っていった。
バリバリッ。
「あ、それ違うラクシル。マグカップは食べるものじゃなくて、中身を呑むものなんだ。え、呑み方がわからない? ――おまえいつも俺に呑ませてるじゃねえか!!」
「……?」
「なんでわっかんねえかなー!?」
マグカップの残骸とこぼれたエールを片付けてやって、ついでに口元を拭ってやっていると、「……いいなあ」とアールがつぶやくのが聞こえた。
「……あ」
俺と目があったアールは、途端に顔を赤らめる。
「や、その……今のはそうゆうんじゃなくて……!!」
ぱたぱたと手を振るアール。
はは~ん。
「ふっふっふ。いいだろアール。うちの娘は」
「……え? うん?」
全サーバーが統合された今となっては、唯一無二の存在となったラクシル。
速度は毛長牛の10倍。騎乗形態で5倍。呼び出せば世界のどこにいても瞬時に現れ、シートに妖精を含めた4キャラを乗せることができる。戦闘をさせればカンストキャラ数人分の働き。PTとしての稼ぎには入らないが、攻撃オプションとしてはこれ以上ないくらい便利だ。問題点は、呼び出し回数が1日1回で、日本時間24時を跨がないと再呼び出し出来ないぐらい。
おお……なんたるチートぶり。
「欲しがってもやらないからな」
「あ、うん。そうゆうんじゃないんだけど……。別にラクシルが欲しいとかじゃないんだけど……。あ、いや、かと言って何が欲しいわけでもないんだけど……」
セルフでよくわからんドツボに嵌まってぐねぐねと身を捩るアール。面白いやつ。
「――ところでさ、ハチ」
コルムが腕組みして話題を変えた。声を張ったのは、言いづらいことを言うためか。
「ラクシルに乗って大断崖の頂まで一気。て計画なら却下だ」
「……なんで?」
口をとがらせるコルム。直近の懸案事項について、俺とコルムの意見は衝突している。
「たしかに大断崖の攻略は難しい。毛長牛の騎乗が許されない場所だから徒歩で登らざるを得ないし、要所要所にデストラップや、強力なモンスターが待ち受けている。いつも通りに妖精たちが迷惑スキルを発揮した場合、まず突破出来るとは思えない」
「うぅ……すまない……」
アールがしょんぼりしている。まあ、ママさんの迷惑スキルの道化の嘲りなんちゅうのは、クエスト攻略に向かない危険なスキルナンバーワンだからな。
「大丈夫だアール。うちのもけっこう凶悪だし、みんなそんなのには慣れてるから」
「ハチヤ……ありがとう!!」
うなだれていたアールは兎耳をぴょこんと上げ、ぱっと表情を明るくした。俺の手を両手で包んで、目をキラキラさせている。
うっ……、さすが兎耳族。その気は無いとわかってるのに、見つめられているだけでうっかりすると虜になってしまいそうな、怪しげな魅力がある。しかも中身はこの前ファミレスで相談に乗った「あの」涙だということがわかっているのでなおさらだ。いや、マジであれは可愛かった。表面は平静を装ってたけど、内心くらっときたもん。
「お、おう。だから気にすんな。わはははは」 跳ねる心音を押さえつけ、笑ってごまかす俺の横顔に、なぜか冷たいコルムの視線が突き刺さる。
「……どうしてダメなんだよ」
「そこなんだけどさコルム。アールも聞いてくれ――」
俺はふたりにこの前抱いたばかりの疑惑を説明した。
「……アードバトンが悪役だって……!?」
背景に落雷が見えるほどにショックを受けているコルム。うんうん、古参プレイヤーには衝撃的な話だろうよ。
「アードバトン……妖精王だっけ?」
FLCの設定事情には疎いアールだが、コルムのリアクションでかなりの大事だと察したらしい。
「そうだ、アール。アードバトンは俺たちプレイヤーを召喚する秘法をすべての妖精に解禁した存在だ。いわばゲームの出発点であり、キティハーサの善の頂点であり、純度100%の正義……だと思ってた」
「……でっ、でもおかしいだろハチ」
コルムが焦ったように声を上擦らせる。テーブルを叩き、勢いで香草のリキュールをこぼしかけた。
「オレたちいままでいくつのアードバトン絡みのクエストこなしてきたよ。どれもこれも正統で王道なクエストだったじゃないか。弱きを助け強きを挫く、正義の味方だったじゃないか。それが全部嘘だったとしたらオレたちは……いや、すべてのプレイヤーが騙されていたことになるんだぞ!?」
そうだ。まったくもってその通り。下手すると俺たちは、そうとは知らずに悪者の片棒を担いできたのかもしれない。誰にも知られないまま、その悪者は闇の彼方でほくそ笑んでいるのかもしれない。
「……カイを倒すために使った方法は邪法だった。森と、森に生きる生命ごと生贄に捧げてのゴーレム作成だぞ? 『正義の味方』はそんなことしない」
「……アードバトンが直接儀式を成したとは誰も言ってない。たぶんそうだろう?」
名探偵アールモードで口を挟むアール。呑み物はミードだ。ミードというのは蜂蜜酒で、世界最古の酒とも呼ばれているそうだ。さすが物知り。
「誰かが意図を捻じ曲げた。誰かが手段を選ばなかった。それだけのことだ。上意下達が叶わないなんて、現実世界でもよくある話だ。ひとつだけでアードバトンのすべてを疑うのは強引だと思う」
「だけど、疑う端緒ではあるだろ? 少なくとも、アードバトンが全幅の信頼をおける存在じゃないことが明らかになった。奴自身か、それなりの幹部クラスの中に『敵』がいる。俺たちは自分でも知らないうちに、その『敵』に取り込まれている」
「『敵』だって……? でもそんなの……。なんだって……」
コルムはまだ納得いかないようだ。当然だ。俺だって、ラクシルとゴルガリの魔塊に纏わるクエストをこなしていなければ、与太話だと笑い飛ばしていたに違いない。
「コルムの気持ちもわかる。でも俺は見てしまったんだ。カイの遺言を。……もう、今まで通りに素直に受け取るのは無理だ。大断崖のクエストも、あれはアードバトン直のクエストだろ? 本当に素直にクリアしていいのかどうか。もう少し考えたいんだ」
「……?」
カイの名前が出たことでぴくりと反応したラクシルだが、難しい話はやはり理解できないので、いつも通りに首を傾げている。
「ボクはもちろん構わない。でも……それでいいのかな? どちらかというと彼女のほうが……」
アールが俺の肩に腰かけているルルに視線を送る。一番大断崖へ行きたがっていたのはルルだからな。実際、それで一度ケンカしてるし。
当のルルは、マカク魚のヒレ巻きのカリカリした部分を齧りながら、気楽な様子で微笑んでいる。俺とアールの視線に気が付くと、鷹揚にうなずいた。
「あるじ様の仰せの通りに」
『うぇ~い』
ルルとハイタッチして、俺はコルムにもう一度目を向ける。
「――頼むコルム。他の誰でもない。『俺』を信じてくれ」
「うう……」
コルムはうなると、「お手上げ」というように万歳した。
「わかった。わかったよ。じゃあもう少しアードバトンについて探ってみよう」
でもさ、と真面目な顔で続ける。
「何か手がかりはあるのかよ? 何にもありません。雲をつかむような話です、じゃ困るぜ?」
「ある」
俺は力強く断言した。
「昔の俺たちには不可能だった方法だ。だが今なら出来る。この世界には『敵』がいる。だが同時に『味方』もいるはずだ」
「……保持者を当たるってことかい?」
さすがアール。
「そうだ。有名どころのNPCから潰していく。たとえばここカロックの村なら……。あれだ、えーと……」
「――お兄ぃ!! お兄ぃ!!」
突然、マヤが酒場に駆け込んできた。
「おいハチコー!!」
後ろからイチカも登場する。
「なんだおまえら。ふたりで村の探検に行ってたんじゃないのか?」
イチカが俺の胸倉を掴み、マヤは俺のテーブルの周りをぴょんぴょこ跳び跳ねている。
「それどころじゃないの!! お兄ぃ!!」
「盗まれたんだ!!」
「盗まれたの!!」
盗まれたねえ……。
なんかどうでもいい話の予感しかしないんだが。
「……何をいくら?」
「10ゴルだよ!!」
「安っす!! 安っす!! けっこう本気でどうでもいい話を想定してたけど、それをあっさり抜き去っててびっくりだよ!!」
「わたしも!! わたしも!!」
「おまえはいくら?」
「10ゴル!!」
「ふたり合わせても20ゴルじゃねえか!! いちいち大騒ぎすんな!!」
「よりによってオレから盗んだってのがムカつくんだよ!!」
「ムカつくんだよ!!」
なにそのギャルみたいな言葉遣い。
「……マヤ。おまえはこの女に悪影響を受けすぎているんじゃないかな。お兄ちゃんは心配だよ……」
「おいどういう意味だ」
心外そうなイチカ。
「……なあ、ハチ。これってさ……」
とコルム。
「あん?」
「あれだよ。カロックの村の名物NPC……」
「あ……」
そうそう。さっき喉元まで出かかってたヤツら。
「――カロックの陰謀団か」




