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最果てのクロニクル~サヨナラ協定~  作者: 呑竜
魔女エンジン

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24/118

「彼女の思い出」

 ~~~~~ハチヤ~~~~~


 発掘作業の先に現れたのは、六芒星ヘキサグラムのレリーフのあしらわれた扉だった。

「――おいラクシル。これだろ? おまえの探してたの。もっと嬉しそうにしろよ。なんだ、地下室か? いいよな。地下室。燃えるよな? 自分んの地下室じゃ燃えねえか!! 燃えたらヤバいしな。あーはっは!!」

 いつもの賑やか士がいない分、空気を明るくしようとラクシルに笑いかけるが、相変わらず棒立ちのままで、表情から何からとくに変化はない。反応ゼロ。 空回りむなしいです。

「なんか反応しろよ。ちぇー、しかたない。俺が開けるからな」

 ぐ……、としゃがんで力をこめようとする俺を、ラクシルが引っ張った。

「なんだ? ラクシル」

「……?」

 ラクシルは首をかしげている。いま自分がしたことが信じられないというようにマジマジと自分の手を見つめて、弾かれたように手を離した。

「? よくわかんねえやつだな……」


 長年の土砂や埃などの堆積物を巻き込んでいた扉はなかなかに重く、軽戦士ライトファイターの俺ではレベル35でもギリギリだった。

 開いた扉の先には石段が続いていた。灯りはついていないらしく、俺はアイテムボックスから松明トーチを取り出して降りていった。

 石段はすぐに終わった。降り立ったところは広さ20畳はある大きな部屋だった。

 魔法品マジックアイテムの収納庫といったところだろうか。分厚い書物に魔女の箒、金属製の鴉、竜の形をしたフラスコ、乾燥させたイモリやコウモリなんかのいわく言い難い材料、人間でも煮れそうな大釜などといった、いかにも魔女っぽいアイテムが盛り沢山にあった。

「おおーっ、いいなあ!! ファンタジーだぜ!! テンション上がるわ~」

 何か楽し気なアイテムがないか、ウキウキで部屋を漁っていると、降りてきたラクシルが所在なげに立ち尽くしていた。

「どした? ラクシル」

 声をかけると、ラクシルは呆とした目を俺に向けた。いつもよりも反応が鈍い。

「ラクシル……?」

 心配になって歩み寄ると、ガラス板に爪を立てて力いっぱい引いたような、ギギィと凄まじい音がした。音の主は金属製の鴉だ。閉じられていた目が「バカンッ」と開き、閃光を放つ。

「うおぅ!?」

 侵入者撃退用の罠かと思って慌てて飛び退くと、光は柔らかな軌跡を宙に描き、埃を浮き上がらせ、壁際にホログラムを投影した。

「なんだこれ……?」

 ひとりの女の子が立っていた。黒い大きなとんがり帽子と革のボンテージファッションに、控え目な身体を包んだ女の子。

「…………………………カイ」

「……カイ? これが!?」

 ラクシルが言うからにはそうなのだろうが、にわかには信じられなかった。世界中を敵に回し、多くの無辜むこの民の命を奪ったとされる魔女。公式絵は公開されていないし、おそらくは誰ひとりとしてこんなイベントを見た人はいないし、伝説通りに人の命を啜る悪魔のような存在を思い描いていた。

 だから嬉しい誤算だった。合法ロリと言おうか、おそらくは何百歳ものお婆ちゃんなのに、小っちゃくて可愛くて気が強そうで、かつデレたらめちゃめちゃデレそうで、非常に好みだ。


「――おい、ラクシル」

 ホログラムが喋った。

「いつも言ってることだがな。グズでノロマで間抜けで、なんでもすぐ忘れちまうおまえのために、アタシが改めて生き抜くための教訓を授けてやろう。まず男には近づくな。あいつらは犬コロ以下のケダモノだ。こんなアタシにすら色目を使うバカがいる。ましておまえはアタシが理想を投影させて造った女性の理想像だ。人間じゃなくてもいいって手合いには格好のネタになる。見るな喋るな近寄るな。手でも握られたら即妊娠だぞ? だから、触れられそうになったら殺せ。触れられたら地の果てまでも追って殺せ。慈悲はない。――コホン。次だ。もし何かに追われてヤバそうだと思ったら逃げ回れ。そん時はなるべくこの森の中でな。ここにいる限りはおまえは無敵だ。豊富な魔素マナのおかげでエネルギーは絶えず、いり組んだ地形のおかげで追撃は出来ない。待ち伏せだけは要注意だが……なあに、妖精どもが大人しくしてるもんか。どんな大軍でも待機中に崩壊するのが関の山だ」

 カイは「シシシ」と可笑しげに笑う。

「まあアタシが生きてさえいりゃどうとでもしてやれるわけで、そしたらこんな教訓にはなんの意味もねえんだが――」

 声のトーンがわずかに下がる。

「今回ばかりはわからねえんだ。アードバトンの野郎、ありゃあ完全にマジだ。異世界から人間種を召喚するだけに飽きたらず、禁断の呪法にまで手を染めやがった……」

 とんがり帽子のひさしを深く被り直した。表情が見えない。

「もし万が一アタシが殺られるようなことがあったら、仇だのなんだの考えねえで逃げろ。もとよりアタシが勝てねえようなやつにおまえが勝てるわけがねえんだ。この森がベストだが、それでもダメならどこでも構わん。地の果てまでも逃げちまえ。――さっきはああ言ったが、おまえはバカだから、誰かの命令がないと生きていけないかもしれん。そん時は、あるじを乗り換えたって構わん。アタシのことは気にするな。だが慎重に選べよ。本当にそいつがおまえのことを大切にしてくれるヤツなのか考えろ。男は……まあしょうがねえ時もあるかな。他に選択肢がねえならしょうがねえ」

 自嘲気味に笑う。

「……なんだか支離滅裂だな。いいと言ったりダメと言ったり。出ろと言ったり出るなと言ったり。アタシとしたことが……。ちっ。あのキャラバンがすべてだったな。あいつらに出くわさなけりゃよかった。あんなとこへおまえを連れていかなけりゃよかった。情操教育だって? 笑かすぜ。……ふん。なにもかもいまさらだが……」

 ――ラクシル。カイの声はかすかに震えている。

「おまえに言ったことあったかな。アタシが昔犬コロを飼ってた話。釜で茹でようと思ってたのに、なんだかんだ情が移って殺せなくなっちまった。すぐにどこか行っちまって、名前をつける暇さえなかった。本当に頭の悪そうな犬でさ。今もどこかで道にでも迷ってるんじゃねえかな。もしおまえがなんらかの形であいつに出会うことがあったとしたら……そうだな。なんか気の利いた名前でもつけてやってくれ」

 ホログラムの中で爆発音がする。大きな地鳴りがあったらしく、カイの小さな体は震動で振り回され、画像が乱れる。


「………………カイ」

 ラクシルは正座して食い入るようにホログラムを見つめている。失われた主人の姿を網膜に焼き付けようとでもしているかのように、ぴくりとも動かない。

 ホログラムは爆発音とともに終わっていた。背景を考えると、撮影した場所はここだ。撮影の最中に何かがあって、そして続きは撮られなかった。

 ホログラムの投影は、ある種の人感センサーのようなものがスイッチになっているようだった。金属製の鴉の前を横切ると、スイッチが入る。

 構造を理解したラクシルは、何度も何度も繰り返し画像に見入っていた。懐かしいのだろうか。寂しいのだろうか。あるいはひさしぶりに再会できて嬉しいのだろうか。表情は変わらず、心の根っこの部分はわからない。ただ延々と繰り返していた。水飲み鳥の玩具のように、延々と延々と。


 ……しかし参ったな。

 俺はガシガシと頭をかいた。

 これじゃあまるで、カイが善でアードバトンが悪みたいじゃないか?

 伝説によれば、カイは数えきれないほどの悪行を成し、アードバトンの部隊に追い詰められ、最終的には自分の村ごと生贄に捧げての呪法を完成させて大暴れした魔女ってことになってる。

 でも、さっきのホログラムは違うことを言っていた。「禁断の呪法に手を染めた」のはアードバトンだと。なら、村が破壊されたのはカイのせいではないことになる。一撃離脱戦法をとるラクシルの行動目的も、ある種の情報集めだと考えれば納得がいく。俺を狙うようになったのも、男即斬を常日頃から言い含められていた結果だ。

 アードバトン。妖精王。キティハーサにおける絶対正義の象徴。

 ……こいつはちょっときな臭いな。あとでコルムやアールと話し合ってみよう。


 ふと気が付くと、ラクシルに付き合って床に寝そべっていたチコがいなくなっていた。表にでも出ていったのだろうか。雨だけど。まあ幽霊犬には関係ないか。

 俺もいい加減手持無沙汰だったが、ラクシルの傍から離れがたかったので、暇潰しにその辺のアイテムを物色することにした。

 ごそごそ。

 ……お、魔法の剣か。幅広のブロードソードで、名前は「名を穿つ者の剣」。効果は「呪文とともに対象の名を呼ぶと、呼んだ対象に向かって飛ぶ」。剣なのに遠隔攻撃武器か。……マジか。飛び道具扱いってことは必中だろ? レジェンド級のアイテムじゃねえか。さすが伝説の魔女の家だな。

「全員分ないかな。もちっと探そう……」

 クウ……ン。

 鳴き声とともにチコが戻ってきた。口に何かをくわえている。

「お、どうしたチコ。なんだそれ?」

 チコが床に落としたのは、金属製のメダリオンだった。扉のレリーフと同じ、六芒星が描かれている。アイテム名は「カイのメダリオン」。

「これって……」 

「……!」

 ラクシルが弾かれたように立ち上がる。金属筒から「ぴー」と蒸気を噴き出し、俺が手に持っているものを凝視している。

 ふとホログラムに目をやると、カイが首に下げているものと同じだった。

「これ……形見だよな? カイの」

 ラクシルの手に載せてやる。なんだかぼうっとしているので、落とさないように握らせてやった。

「おい、大丈夫か? ラクシル。なあ――」

 声をかけたその瞬間――

 凄まじい地響きが地下室を揺らした。アイテム類が倒れ壊れ、大量の埃が舞い上がる。

「――な、なんだ!?」

 押し潰されてはかなわないので、地上への石段を駆け上がった。外は相変わらず雨。豪雨の中、巨大なシルエットが浮かび上がる。そいつが地響きの主だった。

樹の上位精霊(エント)……!? いや、違う……。あれはまさか……ゴルガリの魔塊まかい――!?」

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